第六話 タンポポ友の会
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カルダスの領主館から移動したベアトリスがオビドスの修道院に到着すると、
「お嬢様の命だけはお助けください!」
修道院から飛び出してきたベラが泣きながらヴィトリアに懇願して来た為、ベアトリスは大泣きしてしまったのだった。
自分の保身しか考えないベアトリスをベラがここまで気にしてくれているとは思いもしない事だった。敵国メロヴィングの手先となった二人は、国家反逆罪によって処刑となってもおかしくない。今の状況であれば、ベアトリスが悪い、自分は命令されただけなのだと言えば情状酌量の余地が出来るというのに、
「私が悪いんです!お嬢様は何も悪くはありません!」
と、言い出すベラを、ベアトリスは泣きながら抱きしめた。
誰が悪いのかと言えば、何も考えずに甘言に乗った自分が一番悪いのに違いない。
まずは修道女長から話を聞かない事には決められないと言って、ヴィトリアは修道女長のアマリアについて行ってしまったけれど、話し合いの結果、ベラは別の修道院に移動をして奉仕活動に従事することが決められた。今後の人生は平穏無事で過ごして欲しいと、ベアトリスは心の底から思ったのだった。
ヴィトリアを罠に嵌めて、その身分を奪い取ったベアトリスは、死刑になったって文句の一つも言えない状況だった。そもそも、娼館生まれのベアトリスにしては、今までの生活が良さすぎたのだ。
気味の悪いブルーノ・モウリーリョに監禁され、陵辱されることで、ようやく生まれにふさわしい扱いを受けることになったのだろう。だから、兵士たちの慰み者として下げ渡されても文句も言えないし、民衆を鼓舞するために大広場で絞首刑となったとしても受け入れるしかない。
腹違いの姉となるヴィトリアについて、ルシタニアの王都リジェへと向かう事になったベアトリスは、多くの兵士が北に向かってしまった為、人口が一気に減ってしまった王都の様子に唖然とすることになったのだった。
ベアトリスは王都リジェ西部の丘の上にある大聖堂までやって来ることになったのだけれど、その大聖堂に女子供ばかりが集められていることにびっくりしてしまった。
その中には、娼館でお世話になったお姉さんたちもいて、
「まあ!ベアトリス!あなた随分と大きくなって!無事に生活していたのね!」
と、声をかけてきてくれたのだった。
教会を中心に天幕が張られており、まるで王都に住む女性という女性を集めたのかと思うほどの人数が集まっている。集まった女性と子供たちの面倒を見ているのが修道女たちで、避難民を受け入れたオビドスの修道女会と同じように、みんな忙しそうに立ち働いていた。
「お姉さん!お店の方はどうなったんですか?」
「ああ、店って娼館の事かい?兵士たちも出兵していなくなっちまったんでね、稼げなくなったし、皇帝の軍が攻め込んできた時に置いてきぼりにされても困るから、店は閉めて、ここに避難する事になったんだよ」
見れば、遠くの方にも顔見知りのお姉さん達の姿があった。
本当に娼館を閉めて移動をしてきたみたいだ。
「意欲のある子なんかは、兵士たちと一緒に北に向かっているんだけどね。命あっての物種だから、私たちはここで手伝いなんかをする事にしたんだよ」
お姉さんはベアトリスを優しく抱きしめながら、
「ああ、あんたは本当にお母さん似だね。あんなクソみたいな男に似なくてよかったよ」
と言って頭を優しく撫でてくれたのだ。
「ベアトリス!」
教会の扉の前でヴィトリアが呼んでいた。ヴィトリア様は相変わらず男装のままで、集まった修道女たちと楽しげに何かを話していたようでしたが、ベアトリスを手招きしながら呼んでいる。
「ああ、コメルシオ商会の会頭じゃないかい。お偉いさんが知り合いだったら、あんたについては何の心配もないね。私らみたいな者なんか見捨てられて、大砲で崩れた建物の下敷きになっておっ死ぬのが関の山だったのに、上に掛け合って避難まで出来たのはコメルシオ商会の皆さんのお陰なんだよ。私らはいつでも王家とコメルシオ商会の為に死ねるって事を伝えておいてね」
お姉さんはそう言ってベアトリスの背中を押したのだった。
母が客を取っている間、ベアトリスに荷物を渡して逃げるように言ってくれたのがこのお姉さんだったのだ。
「どうした?なんで泣いているんだ?」
ヴィトリアに声をかけられて、自分が泣いている事にベアトリスは気がついた。
「あ・・あの・・娼館の知り合いにさっき会って・・・」
「ああ、王都の女子供は一旦、ここに集めているからな」
すぐそこまで皇帝の軍が来ているという事もあって、警邏に回っている兵士たちの緊張感はあるものの、楽しそうに子供たちが遊んでいる姿がそこここで見られた。
「あの・・その・・ここに集まった人たちの食糧ってどうなっているんですか?」
カルダスの領主館でも、避難民や兵士たちの食事を用意するのが大変だったため、どうしてもベアトリスは気になってしまうのだ。
「ジョゼリアン王子は、いつメロヴィングの皇帝が兵を差し向けても、国民が困る事がないように食料の備蓄を行ってくれたんだ。王子は五年かけてルシタニア王国の至る所に備蓄庫を作り上げて、何かあれば民に分け与えるように用意してくれた」
「それじゃあ、王子様が用意した食料でみんなの食事を賄っているという事ですか?」
「そうだよ。特にこの教会には女性や子供を集めて保護する目的で建てられたから、一ヶ月ほどは問題なく供給が出来るように巨大な備蓄庫が地下に備え付けられているんだ」
「ええええええ!」
平民の事を隅々まで考えて動いてくれるのがコメルシオ商会だと聞いていたけれど、その商会の後には王子様が居たという事になるのだろうか?
「戦争では輜重が要となるからね、随分、長い間準備をしてきたつもりだったけど、メロヴィング軍を迎え撃つとなったらあっという間だったな・・」
遠くを見るような眼差しとなったヴィトリアを見上げたベアトリスは、モジモジしながら言い出した。
「ヴィトリアお嬢様、裁判は行えない、兵士は北に向かっている。そんな中で、私は何をすれば良いのでしょうか?」
「今、この教会の中には私たちの異母姉が到着している」
「異母姉ですか?」
「タンポポ友の会のメンバーが居るって事で、ベアトリスを紹介しようと思ってね」
「えーーーーっと」
タンポポ友の会とは、種は一緒、だけど産み腹は全く別の姉妹達の集まりみたいなものだったはず。
「えーっと、わかりましたー〜」
よく分からないけれど、とりあえず話を聞いていれば良いのだろうか。
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