第五話 北へ
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「ヴィオ、ベラの方は今後も修道女会で面倒を見るって事で良いけど、レイチェルの方はどうするの?預かっている間に変な動きをするような事はなかったけれど?」
公爵家に長年仕えていたベラに対しては、個人的な恩義がヴィオにはある。オビドスで問題がないと判断されたのなら、名前を変えて地方に移動させた方がいいだろう。
レイチェルについては・・先ほど、何故、ペリグリンではなくピオーリョに飛び付いていたのかその理由は定かではないけれど、きっと、移動中に仲良くなったということだろう。
オビドスの小高い丘に建てられた修道院で修道女長として働くアマリアは、白いエプロンで濡れた自分の手を拭きながらヴィオの前に座る。
転生者であるヴィオは、ルシタニア王国にたくさんの避難所を作ったのだが、その中の一つでもあるオビドスの避難所が十分に機能をしたという報告を受けていたのだ。
ボンパル侯の裏切り、メロヴィング軍との侵攻により、カルダスの民が隣街のオビドスへ避難した。その避難民をまとめあげたのがアマリアで、混乱もなくまとめ上げてくれたのようだった。
敵が自国内に進軍してくる場合、王都リジェを目指す。その進軍経路に位置する街には、避難所を取り仕切るための有能な人間を置いている。戦争となればあっという間に見捨てられてしまう人々を救済するために、コメルシオ商会は初期の段階から修道女会と手を組んでいるのだ。
「ブリタンニアの諜報員が用意した手紙にレイチェルの名前が記されていた為、彼女を重要人物として保護下に置いていたわけだけど、彼女は諜報員とは全く関係がない事が判明したんだよ」
「でしょうねぇ」
アマリアは大きなため息を吐き出した。
「とてもそんな風には見えない子だもの」
奴隷として売り飛ばされる為に誘拐されたレイチェル嬢を我が国で保護したのだが、同行していたペリグリンの知り合いだし、諜報員であるヘンリー・ベルナドッテからの手紙に名前が記されているし、偶然が重なり過ぎるにしては何かおかしいと思ったものの、どうやら本当に偶然が重なっただけらしい。
『レイチェル・W』
Wは王冠を意味しており、レイチェルは別名ハケル、この世界の2番目の大天使を意味している。要するに2番目の王族、2番目の皇子、ブリタンニアのフリューゲル第二皇子が関わっていると示しているわけだ。
王族が関わる内容なだけに、説明する事が出来なかったみたいだけど、コミュニケーション不足から今回のような騒動に発展してしまったという事もあり、必要な情報のすり合わせは行うようにしている。
「レイチェルは王都リジェからブリタンニアへと船で移動させます」
「それで、ヴィオはどうするの?」
「私は北かな」
ブリタンニアのムーア将軍が、ブリタンニアの精鋭一万七千を引き連れて、二十万の兵を率いる皇帝相手に勝負を挑んでしまったのだ。
途中で我が国に引き返して来れば良いものの、最後まで、
「ブリタンニア陸軍サイコーッ!ブリタンニア陸軍無敵―――っ!負けるわけねーー!」
とでも思っていたのだろうか?
ブリタンニアの全権大使であるフッカムが矢継ぎ早に、
「皇帝に攻め込め!皇帝の軍に攻め込め!」
と、要求したものだから、上の意向に従って突き進んだのだろうが、フリューゲル第二皇子はブリタンニア陸軍に所属していたから何か関わりがあるのかもしれない。
「ブリタンニア陸軍は、敗戦を繰り返しながらピエルト山脈へ逃げ出しているでしょうから、皇帝の軍は北からルシタニア王国へ攻め込んでくる事になるでしょう。王都で輜重隊をまとめたら、北方を守るシルヴァ領主軍との合流を果たします。アマリアとはもう会えないかもしれないけど」
「なんでヴィオが戦場に行かなくちゃならないの?あんたは女の子なんだよ?」
ふっくらとした体格のアマリア修道女長に抱きしめられて、思わず息が詰まりそうになった。心配してくれる人がいるということは何より幸せな事なのだ。
「輜重隊の隊長ですし、皇帝が軍を率いて来るとあっては北は激戦地となるでしょう?だったら兵士たちを死なせない為にも、我々こそが動かないと」
「元は小さな商会だったのに」
「そんな事はないですよ!すぐに大きくなりましたし!」
ルシタニア王国軍の輜重隊=コメルシオ商会と言っても過言ではない。我が部隊こそは王国軍の要、どこの貴族にも属さない独立した組織として認められている。
アマリア修道女長との打ち合わせを済ましたヴィオが教会の外に出ると、腹ごしらえを済ませた様子のピオーリョとケイショが付き従うようにしてやってきた。
教会から少し離れた所に居たペリグリンが、王都リジェから移動する兵士の隊列を丘の上から眺めている。
王都リジェは目と鼻の先の位置にあり、集められた近隣の領主軍が整然と北に向かって移動していく様が視界に入る。船と陸路で兵を送り、北の守りを厚くする。
義兄であるルイスも北への移動を開始した、王都リジェが空になる事を憂いながら。
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