第二話 悪役令嬢の父とは
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ヴィトリア・デル・フォルハスは悪役令嬢である。フォルハス公爵家の令嬢(連れ子なので公爵家の血は流れていない)エレーナを母に持ち、ブリタンニア王家のジョアン第六皇子を父に持つ。
メロヴィングの王政が崩れた際に、多くの美術品が市場に流れ出たんですよ。何せ、平民が無数の貴族の屋敷に襲撃をかけて破壊した訳ですから。
そこで運び出された美術品の多くが、破格の値段で取引されるようになった為に、ブリタンニア王国のジェイソン第一皇子に頼まれたジョアン第六皇子は、美術品収集の旅に出る事になった訳ですわ。
美術品オタクの兄の意向に従った皇子は、父王への嫌がらせを第一の信条として考えているような男なんですよね。そんなわけで、気難しい父王への腹いせに、ジョアン王子は各地で自分の種を蒔いて歩きました。
うちの母なんかは皇子を歓待するためのパーティーで手籠にされているんですからね、鬼畜ですよ鬼畜。娼館で育ったベアトリスの母の処女を、金貨を積んで競り落とした皇子は、そこでも種をたんと注ぎ込みました。生粋のアホだと思います。
ジェイソン第一皇子の意向に従い、美術品を求めてヨーロニア中を回った父は、至る所で自分の種を蒔きました。時には姫と呼ばれる人を手籠にしながら、時には娼婦を弄びながら。
確実に自分の子供を孕んだ女には、王家の紋章を刻んだロケット式のペンダントを配って歩きました。中に入るのは父親である自分の肖像画ではなく、孕んだ本人の肖像画を入れているほどの念の入り用です。
この女に確かに子種を注ぎ込みました。故に、このペンダントの持ち主は間違いなく自分の子供であると宣言している訳ですね。
ブリタンニアの国王は妾も取らず、一人の妃だけを愛し続けた王ですが、自分の息子のこの暴挙に怒り狂わないわけがありません。
自分の国の大事な姫君を手籠にされたとあっては、憎悪と敵意がジョアン皇子だけでなく、ブリタンニア王国へも向けられる事になる訳ですよ。
わなわなと震え上がり、怒り狂った父王を見て、父はきっとこう思っていたのでしょう。
「ザマア!」
ってね。
◇◇◇
私はベアトリス・リンゼー、母は娼館で娼婦をしていて、父は母をの初めてを大金を積んで購入した貴族と思われる人でした。
三ヶ月の間、母を寵愛し続けていた父も、最後には飽きてしまったのでしょう。母に対して少なくない手切れ金と共に、銀のペンダントを置いて去って行ってしまったということです。
後から自分の父がブリタンニア王国の第六皇子であるということを知りましたが、その所為で国家が絡んだ陰謀に巻き込まれることとなってしまいました。
異母姉であるヴィトリアお嬢様に助け出されることとなった私ですが、お嬢様が説明するところによると、私の異母姉妹はヨーロニア中、至るところに居るというのです。
実の父の子種の撒きっぷりたるや想像を超えたものであるため、私の怒りは相当のものになったのは言うまでもありません。
私の母もまた、娼館生まれ、娼館育ちではありましたが、初めてのお客さんだった父を最後まで愛し続けていたのです。いつかまた、自分を迎えに来てくれるかもしれないという淡い願いを持ちながら死んで行ったという経緯があります。
母の思いを無碍にしただけでなく、色々な国で女性を踏み付けにしているのは間違いない事実であり、そういうクソ野郎を許すことなど出来るわけがありません。
私は今まで、完全に都合の良い駒として動いていました。
自分のことを『ヒロイン』と自称するベネディッタ様と出会い、『サブヒロイン』と命名された私は、彼女の示すまま動くことを選びました。
予言の聖女様の言う通りに物事が進んでいくのは間違いないようなので、自分が無事に生活していくため、人生の選択をベネディッタ様に委ねてしまったのです。
公爵家のご子息であるクリス様がコーランクールという名のメロヴィング人に殺されることとなりましたが、私は頑なに、自分には関係ないと思い込むことにしました。
メロヴィングの偉い人が言う通りに日々を過ごしているのだから問題ない、ヒロインであるベネディッタ様の言う通りにしているのだから問題ない。
彼女たちが言う物語の通りに動いているのだから問題ない。そう思っていたのに、ペリグリンという名のブリタンニア人から、ここから連れ出してくれるという言葉を聞いて、私は初めて物語から逸脱した行動を取ろうと考えたわけです。
そうした途端、今まで私を支え続けてくれた侍女のベラが居なくなり、領主代行をされていたテレサ様が殺されて、そうして私は歴史学者のモウリーリョによって監禁されることになってしまったのです。
モウリーリョから陵辱の限りを尽くされた時には、私は底知れない絶望を感じました。
でも、改めて考えてみれば、私と入れ替わったお嬢様は奴隷となって売り払われていたとするのなら、もっと多くの男性からこのような目に遭っていたという事にもなる訳です。
結局、お嬢様は奴隷として売り払われてはいなかったのですが、逞しく生きるお嬢様を見て、はたと気が付くことになったのです。
クリス様やベネディッタ様が言う事をそのまま信じてお嬢様を悪者扱いしていた私は、自分自身で考えるという事を完全に怠り、言われるままに動いてきました。
私の考えなしのの行動自体が、メロヴィングに有利に働くためのものであり、結果、母を捨てた外道にも劣る実父に利することであったとするのなら?それはどうなんだろうって思うわけです。
今まで自分が無事でさえあれば、他はどうでも良いと考えていた私の胸の中に、例えようもない嵐が吹き荒れることとなりました。
「実の父に対しては絶対に許せない」
そう、私は父が許せない。母だけでなく私の運命をも翻弄する父がどうしても許せない。
「大概、あの人の娘はそういう感情を抱くようになるんだよ」
と、お嬢様は言いますが、私の異母姉妹はあとどれくらい、存在しているのでしょうか?
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