第三十三話 やけっぱちでぶちまける
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「君が本当はヴィトリア嬢だったなんて、茶番にも程があるでしょう・・・」
城壁の上へ連れ出されて説明を受けることになったペリグリンは、愕然とした様子でヴィオを見た。
「君が女の子だっていう事は前から知っていたよ?何か事情があって男の子みたいにしているんだろうなって思ったよ?だけどだけど、ヴィトリア公爵令嬢が君?僕は一体、何のためにカルダスまで来たわけ?」
本当にそれな。
東の地平線から太陽が登り始めていて、夜の空を染め上げていく深紅の光が、城壁の前に積み重なる死体の山を浮かび上がらせていく。
マローネ子爵とカステリ男爵がこちらへ寝返ってくれた事と、ルイス率いる騎兵部隊がカルダス領に到着してくれた事が重なり、5千という敵の兵力の分断に成功し、全滅させることにも成功した。
だけど、今回の戦いを勝利に導いたのは、やっぱり野砲を指揮したペリグリンということになるだろう。
用意した野砲は砲門が小さいもので、威力自体は本当に大したものじゃない。
だがしかし、そんな頼りない砲門を最大限に使うのがペリグリンなのだ。
メロヴィングの将校を地面へと叩きつけながら、奴らの指揮系統が集中した前方中央3列に向かって、砲弾が見事に着弾しているのを確認した。
森の中に潜ませた野砲部隊は、見つからないギリギリの場所に設置されていた。距離としても、本当にギリギリのところ。
だというのに、敵の中央へ、馬の首を分断して撒き散らしながら、砲弾は見事に着弾したのだ。突然の轟音、飛散する上官の姿を見て敵部隊は驚きに身を固めた事だろう。
そして現れたのは、フォルハス家虎の子の騎兵部隊。
ルイス率いる部隊は、衝突の手前で一斉射撃をする事を得意とする。
最初に着弾したのが十二門から発射された砲弾で、その後は、先頭百騎から発射される弾幕。
その弾幕を後から追いかけるようにして激突してくるのが槍を得意とする第二部隊となるため、ここで多くの兵士が、例え馬上であったとしても、薙ぎ払われ、踏み潰される事になった。
敵は5千であったとしても、うち、3千の歩兵、5百の騎兵がこちらへと寝返っていたため、ボンパル侯は三千五百の敵兵を引き連れながら、カルダスの領主館を取り囲んでいたという事になる。
血生臭い情景に目を向けながら思わずため息を吐き出すと、
「ヴィオ、まさか、また寝ていないのか?」
と、ペリグリンが問いかけてきた。
「いや、まあ、あはっははは」
ヴィオは短く切った自分の髪の毛をバリバリかきむしると、
「寝てる暇なんてないんで仕方がないですよ」
と答えて笑顔を浮かべた。
ヴィオは寝るのは得意じゃない。寝ている間に、永遠に殴られて、踏みつけられて、絞め殺されるような恐怖を味わい続けるから。
恐怖の根源であったイザベルは遠いマデルノ島へ連れて行かれたというのに、永遠に呪縛から逃れることができない。
王宮に居た時には、アルフォンソ殿下やジョゼリアン殿下が、眠るまでの間、手を繋いでいてくれた事があった。その時だけは、悪夢にうなされずに眠ることが出来た。そんな二人も、今はもうここには居ない。
「眠る暇なんてないですから」
正直言って問題は山積みだ。ボンパル侯が治める北東部の領地を通過させれば、易々とメロヴィング軍をここまで侵入させる事が出来るのだと、ここで証明してしまったわけだ。
隣国であるメロヴィング軍が我が国へ侵攻するには、隣国エスパンナを通過して南部の平原地帯から侵入するか、北の山脈を越えて侵入するかのどちらかしか無かったというのに、山の隙間を縫って進む東からのルートというものが明確になってしまったわけだ。
エスパンナの王都マデルノにいる皇帝にこの東のルートを使われてしまったら一貫の終わり。早急に対処する必要があるというわけだ。
「ヴィオ、とりあえずちょっと横になった方がいいよ」
ペリグリンは、身分を詐称していた事に対する怒りよりも、ヴィオの健康に対する不安の方が大きくなったらしい。
「ほら、城壁のここだったら風もあまりこないから、ここに座って少しゆっくりしよう」
ペリグリンはそう言って、人もあまりこないような城壁の隅に私を連れていくと、肩にかけていた毛布でヴィオを包んで自分の膝の上に抱っこした。
「眠れなかったとしても、ちょっと横になるだけで体は楽になる。まだ成長途中なのに、君はあまりにも無理をする」
夏の戦いの時もそうだったけれど、ペリグリンはヴィオの事を拾った犬みたいな扱いで世話を焼くことがちょくちょくある。捨て犬を毛布で包んで抱っこするようにすると、温かい胸に頭を乗せながら、ヴィオはわんちゃんのようにまるくなる。
ちょうど城壁が直角に折れ曲がる場所なだけに、煉瓦の壁に体を預けてしまえば、風から守られた安定した寝床が形成される。
「ペリグリンさん、とりあえず何処から話したら良いのか全然わかんないから、最初の最初のところから話してもいい?」
ヴィオにはわからない。どうしてこんなややこしい事になってしまったのか、よく分からない。よく分からないなりに、誠意を持って説明したいけど、頭がはっきり言って良く働かない。
「とりあえず何でも聞くよ?どうしたの?」
ペリグリンの声は温かい、この人は体も心も温かい人なのだ。
「あのですね、私、生まれ変わる前の記憶があるんです」
「生まれ変わる前?」
「ヴィトリアとしてこの世に生を受ける前の記憶があるんです。そこで、私はこの世界の事を物語のような形で知っていて、そこに登場する私は、ヴィトリア・デル・フォルハスは、悪役令嬢だったんです」
これは悪役令嬢に転生してしまった私の物語。
メインヒロインであるベネディッタはコンドワナ大陸へ連れて行かれ、サブヒロインであるベアトリスは、厨房で芋の皮むきをしている。
メインヒーローであるアルフォンソ殿下も、フォルハス家長男であるリカルドお兄様も、新大陸に行ったまま帰ってこない。
物語はもう終わっているはずなのに、海賊撲滅イベントは起こるし、猟奇殺人事件の犯人であるブルーノ・モウリーリョは現れるし、この調子だとガチの戦争イベントが始まってしまうんじゃないだろうか。
「この世界には二人のヒロインが居て、ヒロインの一人は、さっき、私の異母妹だと紹介したベアトリスです。彼女も私と同じようにブリタンニアの第六皇子の血を引いている事になるんですけどね?」
私は今までの物語をやけっぱちになって語りながら、気持ちはどん底まで落ちていってしまった。
この物語の悪役令嬢は、虐殺エンド、陵辱腹ぼてエンドとろくな死に方をしないんだけど、この先、私は一体どうなっちゃうのかな?皇帝が二十万の兵を率いて進軍してくるっていうのに、ボンパル侯爵領経由の東側ルート解放って、もうこれ、詰んでない?
ああ・・・もう・・・目の前が真っ暗だー〜―。
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