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第三十二話  それはカオス

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

前国王が生きていた時にはボンパル侯は国王に重用され続け、侯に近しい親族ほど美味しい思いが幾らでも出来たわけだ。あの時の栄華が忘れられず、地位と富を求めてメロヴィングへと靡いたのはボンパル侯と近しい間柄の貴族ばかり。


故に、ボンパル侯の子飼いの貴族全てがボンパル侯や敵国メロヴィングを支持していたというわけでは決してない。


 生まれた土地をたまたま治めるのがボンパル侯だったというだけのことで、ボンパル侯に従ったとしても甘い汁が吸えるわけでもない、望むのは自身の家族と領民の安全であり、敵国からの蹂躙では決してないと考える者は意外なほどに多かったりするわけだ。


「ジェズス・マローネ子爵!セルジオ・カステリ男爵!こちらへ!」


 今回、ボンパル侯を完全に裏切ったのはマローネ子爵とカステリ男爵であり、彼らが離反してくれたお陰で、メロヴィング軍による王都急襲を阻止することが出来たわけだ。


「ありがとう!ありがとう!あなた達が決意をしてくれなかったら同国民同士の不毛な殺し合いを続けるところになっていた!」


 新大陸であるコンドワナに王家と一緒に移動をしなかったボンパル侯は、いずれは敵へと寝返るだろうと考えていた。だから、良識がある離反者が出るように、コメルシオ商会として密かに動いていたわけだ。


 マリアルイーザ女王となってから、ボンパル侯が治める地域は煮え湯を飲まされるような対応を受けていたため、現王家を嫌う人間が嫌に多かった。そのため、王家ではなく、コメルシオ商会の傘下に入らないか?というように勧誘したところ、意外にも了承してくれる人が出てきたわけだ。


 実際のところ、新大陸に王家が逃げ出した事に対して怒っている人も多いし、王家に見捨てられたと考える人も多いため、王家率いる王国軍に入るのはちょっと〜みたいな人が多いのもまた事実なのだ。


 そんな王家に反感を持つ人たちを吸収するのに、コメルシオ商会の杖に絡みつく蛇の旗印はちょうど良かったようだった。自分たちを助けてくれる商会の手伝いならいいかな〜というような、女、子供、老人を救済するコメルシオの支援は意外なほどに、地域住民に受け入れられていたらしい。


 とりあえず、ボンパル侯含め敵の皆殺しには成功する事となったのだが、離反してくれた旧ボンパルのトップ二人を屋敷内に招き入れたところ、屋敷の中は怪我人の治療で大騒ぎとなっている。


「ヴィオ!この子達を何とかしてくれないかな?」


 医学博士のアルメイダ医師が連れて来たのは泣き叫ぶ双子の子供たちで、

「うるさいし、治療の邪魔なんだよ」

と、言い出した。


 完全なる殲滅戦で、メロヴィング人もボンパル侯とその仲間も皆殺しにする事に成功したけれど、馬に踏み潰されず、死体の間に埋もれるような形で生き残った双子たちは、現在、ヒステリックに泣き続けているのだ。


 母親は国家転覆を図るような事を平気でしているし、子供たちもその母親を手伝っていたようなところがあるのだけれど、今後、どのような処分が下されるのかはまだ決まっていない。


「ピオーリョ!ケイショ!二人をアパレッシーダのところに連れて行っておいてくれ!」


 後方に声をかければあら不思議、さっと現れた二人が双子を担いで厨房へと移動していった。ヴィオは本当に素晴らしい拾い物をしたもんだと思いながら、ピオーリョ兄弟を見送ったのだった。


 ヴィオが子爵と男爵を連れてテレサ女史が使っていた執務室へと行くと、すでに義兄であるルイスと側近、ペリグリン、そして王都におつかいに行っていたルシオが軍服姿で立っていた。


 フォルハス家の次男であるルシオを見ると、ヴィオが連れてきた二人は膝をついて頭をたれた。


「この度は、王家を裏切る行い、誠に申し訳なく思っております」

「つきましては私どもは如何様にも処分を受けます、どうか部下達の安全をお願いしたく」

「頭をあげて立ってくれ」


 ルイスはそう言ってマローネ子爵とカステリ男爵の二人を立たせると、

「我々を裏切ったのはボンパル侯であり、貴公らでは決してない。そもそも貴公らは我が国の王家に忠心を示してくれたではないか?何を謝る必要がある」

と言って、珍しい事にその仏頂面に笑顔を浮かべたのだった。


「ヴィトリア、お前があれほど我が身を危険に晒す必要はなかったのではないのか?何度言えばわかるのだ?父上や母上がこのことを聞いたらどれほど悲しまれる事になるか」


 そして、くるりと表情を変えてお説教、いつも通りのお兄様。


「お茶をお持ちいたしました」


 ワゴンを押して入って来た侍女と一緒にやって来たのがベアトリスで、侍女がテーブルの上に人数分の紅茶と焼き菓子を置いて出ていくのを確認すると、


「ベアトリス、お前も無茶をするな」


ルイスが、これもまた珍しく、優しい言葉をおかけになっている。その言葉にベアトリスは涙をこぼすと、床に膝を付き、頭を下げながら、


「クリス様の事は申し訳ありませんでした!私が全て悪いのです。私はどのような処分も受けます!今ここで首をはねて頂いても構いません!」


と言って、斬りやすいように自分の首をさらけ出している。


 カオスだ。

 カオスが執務室の中に広がっている。


 本来なら、王国軍の到着は後半日以上は遅れるはずだったのだけれども、王都にお使いに出たルシオが、ルイスと一緒にこちらの方へと戻って来ていたので、とんとん拍子で敵軍を迎え撃つ準備が出来たわけだ。


フォルハス家三男であるクリスの暴走にベアトリスは巻き込まれた形になると思うのだが、ベアトリスはあっさりとヴィトリアと入れ替わりをしたところに問題はある。


ここはフォルハス家としてどういう判断をするのか、全てを任せなくてはいけないとは思うのだけれど、

「お兄様!私!ベアトリスの腹違いの姉なのです!」

 ヴィオは死を覚悟したベアトリスを抱き起す。


「さっきも見たでしょ?私を守るために、あんなに頑張ってくれたじゃないですか!それに、この子はタンポポ友の会の会員なのですもの!私にこの子の事は一旦任せてはくださいませんか?絶対に公爵家の困るようなことにはしませんから」


「タンポポ友の会って何なんだ?」


 ルイスの疑問の声にかぶさるようにして、


「え?何?ヴィトリアって?え?タンポポとかどうでもいいんだけど、ヴィオは一体何なの?」

というペリグリンの声が執務室の中に響き渡ったのだ。


ここまでお読み頂きありがとうございます!

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