第二十九話 誘導されて
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「ここの床のレンガを外せば外に出られるんだよ!」
カルダスの領主館へと母親に連れられてやってきた双子のソフィアとジュリアは、滞在中、館の中にある秘密の通路というものを毎日探して遊んでいたらしい。
厨房横の部屋で寝ていたベアトリスを誘い出した双子は、勝手知ったる様子で普段、使用人が使用する事が多い、狭くて細い廊下を進んでいくと、奥の扉を開いて、地下へと通じる狭い階段を迷いのない様子で降りていく。
そうして地下倉庫の床を覆う煉瓦を、子供の細い指を隙間に入れながら器用に外していくと、鉄で出来た大きな蓋のようなものが現れた。
「まあ!ソフィアちゃん!ジュリアちゃん!煉瓦を退かしておいてくれたのね!」
ランタンを片手に階段を降りてきたジョアンナ夫人は小さな鞄を片手に持っていて、紺地で落ち着いた雰囲気の洒落た外出着を身に纏っていた。
「ここの通路を通っていけば、城壁の外に出ることが出来るのよ!」
ジョアンナ夫人はそう言って鉄の蓋を器用に開けると、縦長の深い穴が目の前に現れた。それは人一人が通れる程度の暗い穴で、木の梯子が立てかけられていた。
「戦争なんかまっぴらごめんだもの!さっさとここから逃げ出してしまいましょう!」
鼻歌まじりでランタンを床の上に置くと、鞄を持った状態で夫人は器用に梯子を降りていく。
「さあ!行って!」
双子は後からついてくるらしい。
外に脱出するのに、ベアトリスは何故、自分が誘われたのか理解できなかったけれど、おそらく、メロヴィング側の人間だと判断されて声をかけられたのだろう。
「早く降りていらっしゃい!」
下にたどり着いた様子の夫人が声をかけてくるので、仕方なく梯子を降りていくと、すぐ後から、ランタンを器用に持った状態で双子も一緒に降りてきた。
蓋を閉めるつもりはないようで、
「さあ!行きましょう!」
と、明るい声で言いながら、夫人が先頭を歩いていく。
王族の避難経路となっているからか、地下トンネルは何処までも続いているように見えて、その先は闇に沈んでよく見えない。
双子が母親のスカートに捕まりながら先を進んでいくのを見ながら歩いていくと、誰かが音もなく地下通路に降り立った姿が後方の闇の中に小さく見えた。
「ねえ、ヴィトリアさん、貴方のお父様ってミゲル公爵じゃないかなんて噂もあったけど、本当はブリタンニアの皇子様だったんでしょう!貴女も実は王族だったのね!」
双子の母親のジョアンナは、お花畑が頭の中に広がっているのか、無邪気な性質らしく、こんな現状況でも王族の知り合いが出来て嬉しくて仕方がないという感じで、はしゃいだ声が、狭い通路内を木霊する。
「あなた達の新しいお父様も高貴な身分の方なのよ?きっとお姫様のような扱いを受ける事になるわ!」
「お姫様じゃなくてもいいから、ルシタニアから抜け出したい」
「皇帝が統治しているからメロヴィングは安全なのでしょう?」
母親が花畑なのに比べて、双子の方が現実的らしい。
「ええそうよ、メロヴィングは華やかな街で、食べ物も全て美味しいし、建物も素晴らしいのですって。田舎の象徴みたいなルシタニアでは考えられないくらい社交会も華やかなのですって」
母親と双子がどんなドレスを新調しようか、どんなアクセサリーを買おうかと話を膨らませているうちに、行きと同じような梯子が置かれた場所まで辿り着くことが出来た。
夫人が躊躇する様子もなく梯子を上がっていくと、丸い鉄の蓋のような物を押上げながら外へと出た。その後にベアトリスが続き、その後から双子の姉妹が梯子を登ってくる。
地下道を進んだ先は、城壁の外であるのは間違いない。木々や雑草が生い茂る、城壁がちょうど直角に折れ曲がった影から抜け出すことになったようだ。
「あの人は何処かしら・・・あ!あそこに居たわ!私たちの事を待っていてくれたのね!」
どうやらあの人とはジョアンナ夫人の恋人だったようで、嬉しさを満面に現しながら小走りに敵陣の方へと進んでいく後ろを、双子が慌てた様子で追いかけていく。
周りには敵の兵士しか居ない場所で、良くもまあ、何の躊躇もなく飛び出して行けるなと呆れた思いで眺めていると、後ろから声をかけられて急に現実へと引き戻された。
ベアトリス一行の後からついて来たのは、しっとりとした黒髪の目付きが悪い男で、周囲の様子を観察して声をかけてきたのだった。
「おい、一旦戻るぞ」
確かこの男、ピオーリョと呼ばれていたような気がする。
再び、梯子を降りて穴の中へと戻ると、ピオーリョは蓋を閉めて閂を内側からかけた。
「領主館には複数の隠し通路があるってのは知っていたんだが、こんな大掛かりなものまであったとはなぁ・・・」
ここの地下通路は、周囲を煉瓦で補強するほどの念の入り用だった。
「ちょうど東に抜けるから、王族が王都へ逃げるための主要避難通路って事なのか・・」
「その割には城壁からも、表門からも近くないですかね?」
「それな」
一体何のための通路なのかわからないけれど、この通路を使ってジョアンナと双子の親子は逃げ出して行ってしまった。
「メロヴィング側のスパイはクリスティーナ様なのかなって思っていたんですけど、ジョアンナ様だったんですね」
「そういうお前もメロヴィングのスパイなんだろうよ」
「いや、私、もうメロヴィングの協力は死んでもしません」
「なんで?」
「自分の父親が皇帝派だから」
「へー、そんな理由」
ピオーリョは鉄の蓋で塞がれた穴を見上げながら、特に興味も無い様子でそう答えると、人が近づいて来るような声、足音、鉄の蓋を叩いたり蹴ったりする音や人の声が穴の中へと響いてくる。
「ジョアンナ、お前は子供達と一緒に公爵令嬢もここまで連れて来たんだよな?」
「さあ?どうだったかしら?」
夫人の声だ。
「貴方に会えるのが楽しみ過ぎて、よくわかんない女の事なんてあんまりに気にしていなかったかも」
轟く銃声、子供達の悲鳴。
「お前らはこっちだ、悪役令嬢を誘き出す餌になるんだからな」
遠ざかる足音、ベアトリスは思わず、人相も悪いピオーリョの顔を見上げた。
「あの子達、囮にするみたい」
「そうだな」
「お嬢様、まさか、のこのこ出て来たりしないわよね?」
「さあな」
「さあなってなによ!あんた、お嬢様の腹心の部下なんじゃないの?」
「いや、別に・・・」
腰から短銃を引き抜いたピオーリョは、持っていた弾数を数えながら言い出した。
「俺が出て行った後は、閂はお前が閉めろ。この蓋はこっち側から閂をかければ開けることが難しい作りになっている」
「あんた、行くつもり?」
「他の出入り口も覚えている」
「死ぬわよ?」
ピオーリョはちらっと私の方を見ると、皮肉な笑みを浮かべて、
「今のところ弟を置いて死ぬつもりはねえんだわ」
と言って、あっという間に梯子を登り、音もなく蓋を開けて外に出て行ってしまったのだった。
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