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31.招かれざる客

「いるんだろう? 会わせてくれ! 彼女と話せばわかる!」

「ですから、急に来られても困ります」


 二階から、大きな中央階段を降りて下の階へ向かえば、不愉快な男の声が耳についた。

 エンダース邸の広い玄関で執事の使用人が相手をしている男を視界に捉え、私は「はぁぁぁ」と深いため息をついて歩み寄った。


「先触れもなく来るなんて、どういうつもり?」

「ルビナ!」


 私を見て更に声を張ったこの男は、ワルター・スタントンだ。

 私の元婚約者。


 使用人に声をかけ、下がってくれて大丈夫と伝え、ワルターに向き合う。


 彼は何の先触れもなく、突然このエンダース邸に押しかけてきたらしい。

 メリは「追い返しましょうか」と言ってくれてたけど、この様子では簡単に引き下がらなかっただろう。


 しかし話はこの間済んだはずなのに、何の用だろうか。

 まだ私を泥棒扱いする気だろうか。


 また改めて来られるのも迷惑だから、ここは私がビシッと言って、二度と来ないよう言い聞かせることにした。


 さぁ、文句があるなら言ってみなさい。


 私の強気な表情を見て、ワルターは一瞬怯んだように唇を噛んだけど、意を決したのか私を見据えて言った。


「ルビナ、僕が間違っていたよ」


 …………は?


「やっと気がついた。僕には君が必要だ。君がいない日々にはもう、耐えられない!」


 ここへ来て急にそれ?

 なんだか拍子抜けする思いだ。

 一体この数日でどんな心変わりがあったのだろうか。


「だからお願いだ、僕のところへ戻ってきてほしい」

「……」


 予想していた言葉と違いすぎて、返そうと思っていた言葉がすぐに出てこない。


「……謝罪なら受け入れます。でも私はもうあの家には戻りません」

「なぜだ? 君は僕の婚約者じゃないか」

「寝惚けているの? 婚約者はイナになったんでしょう?」

「僕はあの我が儘な人形に騙されていたんだ。やっと目が醒めたよ。彼女にもこれからちゃんと話すから、帰ってきてくれるね?」

「……」


 ワルターのあまりに身勝手な言葉に、頭が痛くなる。

 何よ、もしかして呪いでも解けたわけ?

 魅了魔法にでもかかってたとか?


 そんなまさかね。ただ単に限界が来ただけだろう。


「これからって……じゃあイナにはまだ何も言ってないの?」

「ああ、でも君と一緒に帰ればすべてわかってくれるさ。イナも君がいなくなって困っていた」


 それはそうよ。そんなことわかっていたわ。わかった上で私はあの家を出たし、二度と戻らないと宣言もした。


 この人もイナも、私が出て行ったらどうなるのか、まったく予想ができていなかったというの?

 本当に、どれだけおめでたい人たちなのかしら。


「ルビナも本当は前のような生活に戻りたいだろう? ルビナと結婚して、僕は男爵位を継ぐ。そしたらちゃんと仕事もするから。君はまた家のことをしてくれたら嬉しい。二人で頑張ればきっと裕福な暮らしができるようになるよ。そしてお金が貯まったら、使用人を雇おう」


 どんなポジティブな考え方をしたらそんなことが言えるのだろうか。彼は先日私を殴ろうとしたのに。

 頭でも打って記憶を飛ばした?


 だから私はこの気持ちをわかってもらおうと何度もその言葉を繰り返した。


「私は、本当にもうあの家に戻る気はないんです」

「……意地を張るな、ルビナ」

「意地など張っていません」


 それでもワルターは食い下がってくる。


「ねぇ、ルビナ。僕たちはお互いのことを全然知らなかったよね。君にはもっと僕のことを知ってほしいと思っているんだ」


 王子様か何かにでもなったつもりでいるのだろうか。赤茶色の髪をかき上げてキメ顔をすると、許可もなく私の手を握ってきた。


「……貴方のことなら十分知っています。私の気持ちは考えない……想像すらできない自分勝手な男です。そんな人と結婚すれば私の人生は終わりです」


 触れられた手をすぐに振り払い、きつく睨んで答えると、ワルターは細い眉を下げて大袈裟なほど困った顔をして見せた。


「ルビナ……、妬いているんだね。僕が一度でもイナと結婚すると言ったから……。でもそれは間違いだと気づいたんだ。どうかそんなに怒らないで? 一度の過ちくらい許せないと、良い妻にはなれないぞ?」

「貴方の妻になる気はありませんので、おかまいなく」

「わかった、ではイナを追い出そう。それなら戻ってきてくれるかい?」

「…………は?」


 なに、こいつ。


 一時でも自分の意思で私と婚約破棄までして、結婚しようと考えたはずのイナを、そうも簡単に捨てるというの?


 あの妹のことはどうなろうと自業自得だと思うけど、それでも一応は妹だ。一人では本当に何もできないイナを、私のように簡単に追い出そうと言うのか、この男は。


「……そんなこと、する必要はありません」


 いい加減、この男と話していたら切れてしまいそう。

 でもここはエンダース家だ。みっともないことはできない。

 今も遠巻きからメイドの子たちがはらはらした様子でこちらを窺っている。


「そんなに戻りたくないのか。なぜだ? あのクレスとかいう男に弱味でも握られているのか? それなら僕が言ってやるぞ」

「違います!!」


 ついには、原因がクレスにあると思い始めたらしい。自分に原因があるとは考えないのだろうか。なんて幸せな思考回路だろう。


「……ではなんだ。金か? あの男に、金で飼われているのか?」

「……なんて、?」


 そしてついに、ワルターはとんでもなく下品なことを口にした。

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― 新着の感想 ―
[一言] 最初のボタンをかけ間違えたバカ者が言うセリフだね大体婚約者のことを理解しようとしないでしかも入婿の分際で勘違いしてるからそうなるんだよはっきりいって入婿なら嫁さんに尻を敷かれるのが正解です
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