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03.怪我をした騎士

 とても立派な馬車。

 高位貴族様かしら……?

 でもアイマーン領(こんなところ)に一体なんの用?


 何事かとワルターとイナも一緒になってその馬車を見つめていると、扉が開いて一人の男が姿を見せた。


 短めで少し遊びのあるセットをされた、深みのある銀色に輝く髪は、光の当たり方次第では黒っぽくや青っぽくも見える、とても不思議な色をしている。でも凄く綺麗で惹き付けられてしまう。

 長身で体格も良く、目鼻立ちの良いとてもハンサムなその男性は、口元を引き締めて鋭い眼光をこちらに向けた。

 ぞくりと、一瞬何かが身体を走り抜ける。


 とても綺麗な顔立ちだけど、なんだか少し怖いくらいオーラのある人だ。

 まるで狼のような雰囲気というか、ワイルドな印象。


 そして身に着けているものも高価なものであるとひと目でわかる。けれど嫌味のない、上品さを感じさせた。



「ルビナ! わざわざ出迎えてくれたのか、ありがとう。すっかり待たせてしまったな!」

「……え?」


 だけど、男は私を瞳に捉えると、突然へにゃりと口元を緩めて笑った。



 ――――誰?!



 ついぽーっと見蕩れてしまっていたけれど、引き締まっていた表情を嬉しそうに綻ばせながら近づいてくる男性のそのギャップに、ドキリと胸が跳ねる。



 ――ああ、うん。久しぶり。待っていたわよ。


 なんて言えば、この二人は私に一目置くだろうか。


 けれど残念ながら私にはこんなお金持ちそうな美丈夫の知り合いなんていない。


 だから素直に戸惑いの色を顔に浮かべると、男は少し悲しげに眉を下げて私の前で立ち止まった。


「もう俺を忘れたのか? ひと月前に約束しただろう。必ず礼をしに来ると」


 私の目の前で真っ直ぐに濃い青色の瞳を向けてくる男のその瞳と声に、ピンと来る。


「……もしかして、あの時の騎士様?」

「そうだ! 思い出してくれたか?」



 ――そう、あれはひと月ほど前のことだった。



 その日も私は野菜を取りに行くため、一人で畑へ向かって歩いていた。

 するとそこに、一頭の馬がいるのが目に留まった。


 馬!? どうしてこんなところに……。


「お願い、人参はあまり食べないで――!」


 人参畑の辺りに頭を下げている馬に慌てて駆け寄り、ハッとした。


 大きくて毛艶の良い黒馬には、鞍がついていたのだ。


 誰かが乗ってきたんだわ……!


 きょろきょろと周辺へ目をやると、馬の近くに仰向けで人が倒れているのを見つけた。


「大丈夫ですか!?」


 肩につくほど伸びているボサボサのくすんだ灰色の髪に、無精髭。体格の良さそうな身体を汚れた黒い騎士服で包み、腰には剣を帯びている。


 ……オジサン?

 王宮騎士の方かしら……どうしてこんなところに。


 色のせいですぐにはわからなかったけど、よく見ると破れた騎士服には血が滲んでいるようだった。怪我をしているらしい。


「大丈夫ですか? 立てますか?」

「う……」


 意識が朦朧としている騎士の身体を抱き起こし、日頃から畑仕事で鍛えている足腰に力を入れてなんとか立ち上がらせ、肩を支えて歩く。


「しっかりして!!」


 畑の近くには収穫した野菜を一時的に保管しておく蔵がある。

 半ば引きずるように男をそこまで運び、茣蓙(ござ)の上に寝かせた。


 左腕と脇腹辺りから血が出ている。

 服も切れているから、何者かに斬られたのだろうか……。打撲も酷そうだけど……折れてはいないかしら。

 それに、少し熱もあるわね。


 身体は熱く、呼吸が乱れていて額には玉のような汗が浮いている。


 すぐに井戸でお水を汲んできて、濡らした布で顔の汗と泥を拭った。


 暗めのグレーの、長めの前髪の下からは苦しそうに眉を顰めて唸っている彫りの深い目鼻。


 口の上や顎周りにも髭が伸びているし、泥で汚れていてよくわからなかったけど、こうして拭いてあげると皺もないし、案外若いのかもしれない。

 それに、渋めでワイルドな感じだけど、結構ハンサムかも……?



 私には少しだけ薬学の知識があったので、近くで採れる薬草を急いで摘んでくると、こっそりと魔力を織り交ぜ、塗り薬を作った。


 私には魔力がある。


 とにかく手当しなければと、騎士服に手を運んで血が滲んでいる脇腹辺りの服をめくり、傷口を洗おうと水をかけた、その時。


「ぐあぁっ!!」

「!」


 男はバッと目を開けて叫ぶと、素早く私に視線を向けて喉元に手を伸ばしてきた。


「きゃっ!」


 あっという間に私の背中は床に着く。


 ――油断した。怪我をして意識が朦朧としているから、気にかけずにいきなり水をかけてしまった。


 首を押さえつけられ、苦しさに息を詰まらせる。


 男は怪我を負いながらも私の上で隙のない鋭い視線を向けてきた。


 まるで狼に捕まった兎のような気分だ。


 怖いと感じたのに、とても美しく深い輝きを放つその碧眼から、私は視線を外すことができなかった。




続きに期待していただけましたらブックマークや★★★★★にて応援よろしくお願いします!!

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