ベトナム太郎
実は前作、
『引きこもり太郎、スパルタ式ヨットスクールへ行く!』
https://ncode.syosetu.com/n9529gm/
とつながっております。よろしければそちらを先にお読みいただくと、本作の物語をより深く理解できると思います。
むかしむかし、あるところに、浦島太郎というまじめを絵に描いたような好青年がおりました。
浦島太郎が知り合いの老夫婦からもらったエロ本をこっそり堪能しようと岩場の陰にやってくると、ちょうど子供達がベトナム人をいじめているところに出くわしました。
「やーい、ベトナム人!」
「技能実習生!」
みかねた浦島太郎は割って入り、
「ほらっ、これをやるからあっちへ行け」
子供たちに熟女物のエロ本を渡して追い払いました。
「大丈夫かい、ベトナム人」
「アリガトゴジャマス。ワタシ、ベトナム人、グェン、言イマス。アナタ良イ人、竜宮城、案内スル」
グェンはその背に浦島太郎を乗せると、海の底にある竜宮城へと彼を連れて行きました。
「ようこそいらっしゃいました。私はこの竜宮城の主、乙姫と言います」
見目麗しい姫は月給4万5千円で働かせているベトナム人を助けてくれたお礼にと、浦島太郎をおもてなしします。贅を尽くした料理、安月給ベトナム人による一糸乱れぬ舞踊、ベトナムカラオケ、ベトナムセクシー接待……。浦島太郎は夢のような時間を過ごしました。
「おっと、こんなところで遊び呆けている場合じゃなかった。家で飼っているバッタにエサをやらなくてはいけません。僕はそろそろお暇します」
浦島太郎がそういうと乙姫はお土産にと玉手箱を持たせてくれました。
「これをあなたに差し上げます。ですがこの玉手箱は絶対に開けてはなりません」
「ええっ!? お土産なのに開けちゃダメなの!?」
「はい。絶対に開けてはいけません」
「絶対に?」
「絶対に、です。絶対、絶-----っ対、開けないでくださいね?」
最早フリにしか聞こえませんが浦島太郎は了解し、助けたグェンに乗って砂浜まで送ってもらいました。
「竜宮城、イツデモバイト、募集中。アナタ、オ金困ッタ、働キ来ル」
「……遠慮しときます」
浦島太郎はグェンに別れを告げ、家に帰ろうとしましたがどうしても玉手箱の中身が気になってたまりません。
「開けるなと言われたら余計開けたくなるよなぁ……」
と、そこへタイミングよく、グェンをいじめていた子供の一人が通りかかりました。
「おい、そこの坊主!」
「何だよ?」
「ちょっとこの箱、開けてみてくれよ」
「はっ、何でだよ!?」
「中にエッチな本が入ってるぜ?」
「……開けさせていただきます」
浦島太郎から恭しく箱を受け取ると、少年はひと思いに開けてしまいました。すると中からもわもわっと白い煙が立ち上り少年を包み込みます。
「うわっ、何だこの煙は!?」
何かあっても大丈夫なように適度に距離を置いていた浦島太郎は驚きました。煙が掻き消えた後、そこに少年の姿はなく、代わりに一人のベトナム人が立っていたのです。
そう、あの玉手箱は開けた人間をベトナム人に変えてしまう箱だったのです。
「おい、ベトナム人がいるぜ!」
「ヒャッハーッ! 掴まえろ!」
すぐに人さらいがやってきてベトナム人を掴まえ、どこかへと連れ去ってしまいました。
難を逃れた浦島太郎はほっと胸をなでおろし、バッタにエサをやるために家路についたのでした。
おしまい。