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求人票

偉大なる魔法使いが登場するのは3話目……

「これだ……!!」

「なにが??」


バッと振り向くと混ざやかな橙色の髪が瞳に写る。

屈んで掲示板を覗き込む私に合わせて屈んで私の顔を覗く少し年下の少女は義妹のシェラだ。同姓の私から見ても可愛くて、お人形さんのような可愛い子。

「姉さんこんな所で何してるの?」

ニコッと笑う彼女に何でもないわ、と求人票を隠すように立ち上がる。

「ちょっと疲れちゃって。掲示板に寄りかかってただけよ。」

「日傘も刺さずに歩くからよ!姉さん体弱いんだから無茶しないで……」

眉を下げて怒る妹にごめんね、と謝り掲示板から離れるように家へと歩き始める。

買い出しはもう終えているし、このまま家に帰っても問題は無い。

「そういえば貴女に頼まれてたレースのハンカチ。もうすぐ完成するわ」

「ほんと!?姉さんは刺繍が上手いから楽しみだわ!ふふ、友達に自慢しちゃお!」

趣味で作ってるだけよ、と返しながらもニコニコと嬉しそうに笑う彼女を見ながら帰路に着く。道中何度も常連さんに声をかけられ、会釈をした。その度にいつ見ても可愛いわね、とおばさま方に話しかけられる妹を横目に少し離れたとこで話が終わるのを待つ。

妹はこんなにも可愛らしく明るいのに、私はいつもネガティブで暗い。

少し心に冷えたものを感じながら、謝りながら駆け寄ってきた妹に笑いかけ、また家へと歩みを進めた。



ある日の朝。

私は身支度を済ませ、あの日うっかり持ってきてしまった求人票を握りしめて家のドアへ向かう。

まだ店が開店する前の朝早くにだ。

ドキドキする胸を抑えながら震える声を何とか絞り出して父母妹に聞こえるよう大きな声で言った。


「わ、わたしバイトに行ってくるから……!」


きょとん、とした後にガタガタと机から慌ててこちらへ駆け寄ろうとしてくる父や妹をみて慌てて「行ってきます!」と言ってドアを閉める。

後ろから一際大きな声で母の「行ってらっしゃい!」という声が聞こえた。

妹も父も、体が弱いんだから、と過保護でいけない。





あの日の後、役所に行くとちょうどそのバイトは入ったばかりで応募者もいなかったのだと、バイト先の所へ連絡を入れてもらった。

今日は面接も兼ねて掃除をして欲しい、との事だったので少しシンプルなワンピースドレスに袖を通して来た。

勿論、手袋は欠かさず。

家主に会うのは今日だけ、今日だけなら何とか乗り切れるかもしれない。と震える手を抑えて地図を頼りにその家へ向かった。


「ここに家なんてあったのね……」


港から少し離れた街の中にある3階建ての一軒家。

その家こそ今回のバイト先なのだが、ずっとこの街に住んでるというのに何故かこの家には見覚えがなかった。そこまで広い街では無いのだけれど。

コンコンとノックをし、ごめんくださいと口を開こうとした瞬間扉が勢いよく開いた。

扉の向こうにはローブを深く被った小柄な人が立っていて、家主かと思い声をかける。


「あ、あの求人票を見て…………」

「入って。」


恐る恐る家へ踏み入るとすぐに少しの階段と、そこは廊下も玄関もなくすぐに部屋につながっていた。

珍しい作りだなと思うのと同時にすぐに察した。


これは、いくら掃除が得意といえど骨が折れる。


あまりにも散らかっている。

そこら辺に無造作に本が置かれ、食器はためっぱなし。暖炉の灰はそのままだし、暖炉の上に適当に置かれた小さな彫刻品に積もってるのはホコリだろう。

革張りのソファには服が乱雑にかけられており、もはや皮の色がほとんど見えていない。

なにより、所々に蜘蛛の巣がはられている。


「これは…………」

「貴女はここの部屋を片付けて欲しい。2階とかには上がらなくていいから。この部屋……その……今日片付けられる?」


ローブを被った小柄な人は少ししどろもどろになりながらあまりの惨状に呆気に取られている後ろから声をかける。


「え、あ、今日1日かければある程度綺麗になると思います。」


窓や鏡も拭きたいが流石にそこまでやっている余裕はないだろう。

とにかくまず物を1箇所に集め、ホコリや蜘蛛の巣を取らなければ。と気合を入れてエプロンをつける。


「本当か!?ありがとう、掃除道具一式はそこに置いてある!自分も手伝うから今日中に何とかして欲しい。」


グッと近寄ってきた小柄な人に身動ぎしつつもじゃあ本を片付けてください、といえば直ぐに彼は本を目掛けて走っていった。

多分、“彼”だろう。

声の様子からまだ若い少年のようだ。


名前、聞き忘れたな。と思いながら掃除道具一式の中にあった羽はたきを手に取った。

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