8.楽しい高校生活の始まり
僕はそれからも毎朝、家から学校の下駄箱までを椿と共にした。
学校に着くまでは、魚へんクイズや縛り付きしりとりなどで楽しんだ。
高校生って、恋愛の話や友達の愚痴、最近の流行やゴシップネタを好むと思っていたが、彼女は相手が僕であるせいか、特に中身のあるような会話をしてくることもなかった。
無論、僕からすることもなかった。
駐輪場から下駄箱までの道のりは短くも、隣を歩く可愛い彼女は僕には不釣合いな様で、周りからは不思議そうな目で見られることが多かった。
それ故に、人目を気にしながら気配を消して歩く僕にとって、この距離はとても長く感じた。
しかし、それに関して彼女は大して気にしていないようで、僕の気も知らずに、楽しそうにクイズやしりとりを続けた。
下駄箱の向こう側には、部活の朝練後の晃が、毎日廊下の壁にもたれ掛かりながら僕を待ってくれている。
それから昼休みは、初日に見た椿の友達らしき女子を含め、毎日四人で過ごした。
僕たちは離れていた期間を埋めるかのように、過去のことをたくさん話した。晃が違う小学校へ行った理由も話してくれた。
卒園式の帰り、父親が運転する車で晃の母親の実家に向かっていた途中、のんびり走る車が目の前にいたそうだ。その車にイラついた晃の父親は煽ったり、罵声を浴びせたりし始めた。
母親が止めさせようとしたが、父親は言うことを聞かなかった。
更に、その車の前に出てハザードランプを焚き、サイドブレーキを引いて車を降りた。
嫌な予感がした母親は晃を車から降ろし、そのまま母親の実家に歩いて行ったらしい。
父親は二人を迎えに来ることもなく、母親も連絡を取る様子はなかった。
後日名字が変わって、子供ながらにも何となく理解したようだ。そんな話も晃は明るくしてくれた。
僕たちの話は尽きることがなかった。
椿の友達は野原美希と言い、やはり吹奏楽部で、椿と同じくフルートを吹いているらしい。美希ちゃんは僕たちの昔話をいつも楽しそうに聞いてくれる優しい子だった。
教室では、晃に集まるイケてる男子たちが自然に僕とも仲良くしてくれた。
おかげで帰宅部の僕に、一緒に下校する友達が二人もできた。
一人はまぁくんと呼ばれているオシャレ男子で、バーガーショップでファッションに使うためのお金を稼いでいる。
もう一人は陽介くんと言って、実は僕と同じ中学だった。
かなり頭は良いが見た目がヤンキーで、今まで僕は彼を避けてきた。
初めて話をしたのは、一週間前の入学式だった。
椿の力を借りずに友達ができたことは、僕の成長の証だ。
しかし彼女にその話をしても、たいして驚きもせず、当然でしょっと言わんばかりのしたり顔で僕を見返した。
そんなイケている友人に囲まれた充実した高校生活の中で、一つだけ不思議に思うことがある。
それは晃のイケメンさにも関わらず、周りに集まるのは男子ばかりで、会話をする女子は、椿と美希ちゃん、サッカー部のマネージャーぐらいだったことだ。