3.三人のだけのおんがくたい
早くもここを抜け出したいと思ったが、どうせ僕の居場所なんてない。
優しい彼女がいるここに、しばし留まることにした。
そして、たくさんの楽器が入っている箱の中から、木の箱に銀色の板が並ぶ鉄琴とやらを渡してきた。
どうやら彼女が合図をしたら、僕はこの銀色の板を端から端までボールがついた棒でなぞるらしい。
彼女が鍵盤ハーモニカを軽快に演奏し始めると、先に仕込まれていたアキラが太鼓をドラムする。
彼女の目の合図で僕は銀色の板をなぞり、綺麗な高い音を響かせた。
上手く演奏できたときには三人でハイタッチをして、気付けばアキラへの嫌悪感も消え、自然と仲良くなっていた。
それからボールを蹴ることも、鉄棒の遊び方も、外での遊び方は全てアキラが僕と椿に教えてくれた。
一方音楽隊は、誰に聴かせるわけでもなく、一つの曲を飽きることなく演奏しただけだった。
僕たちはここに来れば集まれる。僕に心地良い居場所をつくってくれたのが、この音楽隊だったのだと思う。
その証拠に、彼女が僕に声を掛けてくれた日以来、僕は一度も一人きりになることはなかったし、もうアジサイの後ろに行くこともなかった。
「アキラくん、ヤマトくん。しょうがっこうのおんがくしつには、おゆうぎしつのピアノより大きなピアノがあるんだって。そこでおんがくたいしようね」
「たのしみだね」
「わかった、やくそくだね」
卒園式の日、僕たちは小学校でもまた音楽隊をしよう、そう約束をした。
「ツバキ、ヤマト、またにゅうがくしきの日にあおうな」
「うん、バイバーイ」
僕たちは、四月からも一緒だ。
休みの間は早く二人に会いたくて、入学式を心待ちにしていた。
しかし、入学式の新入生点呼のとき、アキラの名前は呼ばれなかった。