1.はじまりの日
網戸の隙間から入る春風が心地よい。
今日も遅くまでネット配信サイトで映画を観てしまった。
そんな僕は、朝が来ることを恐れている。なぜなら今日は、高校生活の初日だからだ。
嫌々スマホに起きる時間をセットし、充電が開始されたことを確認してから眠りについた。
セットしたアラームの不快な音と同時に、元気いっぱいの小学生の声で目を覚ました。
部屋のカーテンを開け、横滑りの窓から下を覗くと、声の主はよく知る近所の三人組だった。
手前の太った彼は、いつも陽気でお調子者。きっとクラスでも人気なのだろう。
僕の親友だったアキラによく似ている。でもアキラは太っていなかったよ。
隣の眼鏡の彼は……僕に似ている。
彼はスパイダーマンのキーホルダーをいつもランドセルにぶら下げている。
僕も昔夢見た、ヒーローになれるといいね。
そしてもう一人、しっかり者で彼らの先頭を行く彼女。
僕の幼馴染の早川椿にそっくりだ。
まぁそれもそのはずで、彼女は椿の妹の桜ちゃん。
太った彼は僕に大きく手を振り
「おはよう」
と威勢の良い声を出した。続けて桜ちゃんも
「おにいちゃーん」
と言いながら、両手を伸ばし笑顔で手を振ってくれる。
そして、眼鏡の彼は僕と目が合うと……会釈をする。ムフッ本当に僕によく似ている。
僕も小学生の彼らに会釈をした。高校生活最初の朝はこうして走り出した。
僕たちも幼稚園の頃は毎日一緒にいて、こんな風に仲が良かった。