ホテルのエントランスにて
ホテルのエントランスに入ると、そこは2階までが突き抜けになっている広い場所だった。
ロビーの入口の傍には受付カウンターがあり、通路を進んでいくと、2本の太い柱。通路の脇にはラウンジもある。
戦前までここは、高級ホテルと言った所だろか。
しかし、ここも昔に放棄されているためか、建物全体の老朽化が激しく、エントランスの天井は所々剥がれており、むき出しになった鉄筋すら見える。
上を見て歩くと、剥がれた天井板が落ちてこないか、軽く恐怖だ。
「おーい。ミソラ、どこだ?」
エントランスの中心にまでやって来たアサヒは、両手を口に当ててそう叫ぶと、静かな空間のせいか、それとも建物全体の構造のせいか、声は妙に響き、反響して返って来た。
「あぁ、おにぃ、こっちだよー!」
アサヒの声に反応したミソラは、2階のエントランスを囲む通路の手すりから、ひょっこりと上半身を乗り出して手を振るのが見えた。
「おい、そんな身を乗り出して、落ちたらどうするんだよ!」
「え、大丈夫だよ。おにぃは、心配症だなー。というか、待っててって言ったのに、結局来たの?」
「そりゃ、お前に何かあったらいけないからな……」
「えー、ちょっとの間なら、大丈夫だよー!」
「まぁ、とにかくミソラ、そこで待ってろ!俺もそっちに行くから……!」
「あ、猫さん。ねぇ、どこ行くの?ねぇねぇ!」
ところがアサヒの言ったことに耳を貸す様子もないミソラは、また逃げる猫を追いかけて、また先へ、駆けて行ってしまう。
「って、聞いてないし……。まったく……」
何か1つのことに、夢中になって後先考えずに走り出すのは、ミソラのいつものことだ。
しかし、いつ危険が降りかかってもおかしくない外の世界では、少しは自重してもらいたいものだと、辟易するアサヒだった。