表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/17

第1章 旅の途中で

 海と山に囲まれたその街は、相変わらずと言っていいほど、人の影もなく、静かなものだった。


 やはりここも、打ち捨てられた建物が多く、人がいないためか、街に迷い込んだ鹿と言った野生動物をよく見かける。


 旅の途中で立ち寄った、海岸線沿いにある小さなリゾート地。


 そこでは、古びた背の高いホテルなんかの、宿初施設が並列するように建っている。


 オーシャンビュー。


 この街に来る途中に掛かっていた案内版には、美しく青い海を背景に、こんな文字が入っていた。それに、熱海と言う地名も。


 戦前なら、ここには多くの海水浴客が、真夏のシーズンになると、押し寄せたに違いない。


 しかし、今となってはもう、遠い過去のことだ。


 真横に広がる、黒く濁った放射能だらけの海に、好き好んで入ろうとする人間など、なかなかいないだろう。


 土砂の汚染は、この100年間の間、随分と収まったものの、この島国を取り囲む海の汚さだけは、変わらなかった。


 ここの砂浜も、近づけば死んだ魚が打ち上げられており、異様な臭気を発している。


 そんな熱海の海岸にあるパーキングエリアに入ったアサヒは、エンジンを切って徐に鞄に入っていた地図を、近くの廃車のボンネットの上に広げて「うーん……」と腕を組んで悩み声を上げる。


「おにぃ、どうしたの?また迷ったの?」


 何気なく聞いてきたミソラに対して、アサヒは「いや……」と前置きする。


「こっちの方角で合っているはずなんだけど、もしかしたら、さっきの道を反対方向だったかもしれない」


 頭を抱えるアサヒだったが、依然として状況は変わらない。


「おにぃ、そんなことより、私、お腹すいたー!」


「はぁ?さっき飯、食べただろ?」

「えぇー、レーション1つじゃ、物足りないよー。おーなかすいたー、おーなかすいたー、おーなかすいたったー」


「なんだよ、その歌は……?」


「ふふん、前に博士に教えてもらったんだよ。なんでもね、お腹がすいた時に歌う、御呪いの歌なんだって」


 また「おーなかすいたー、おーなかすいたー、おーなかすいたったー」と連呼するミソラに対してアサヒは苦笑いする。


「あーもう、うるさいなー……。そんなにお腹すいたなら、そこらへんに転がってる魚でも食べていろよ?」


「え、嫌だよー。みんな腐ってるじゃん。レディにそんなこと言うなんて、おにぃ、デリカシーないね。女の子にモテないよ?」


「はいはい、俺が悪ううございました……」


「ふふん。分かればいいのですよ」


 ミソラはそう言いながら、両手をアサヒに差し出してきた。それは、追加の食べ物の要求だとすぐに分かった。


「くそ……、お前、最近口が達者になったな……。それもこれも、博士の影響か?」


「そうだよ。やっぱりあの人、皆に博士って呼ばれているだけのことはあるね。私の知らないこと、たくさん知ってるんだもん」


 ミソラは小さな笑みを浮かべながらそう言うと、アサヒからもらったレーションの袋を破ってもぐもぐと口にする。


 そんなミソラに、嘆息したアサヒは小言をつぶやきながら、もう一度広げた地図に目を落とした。




 現在、アサヒ達がいるのは、この海が見える街。熱海と言う場所だった。


 そして、目的地はここより西にある、東日本第3都市、『浜松』である。




「うーん……」


 広げた地図を裏返しにしても、横から眺めても、目的地にどうやって辿り着けばいいのやら、全く見当はつかない。


 それもそのはずだ。博士にもらった地図は、主に市場で売られている繊細に書かれている地図とは違い、子供にでも書かせたような簡易的なものなのだった。見る人によっては落書きとも言えるかもしれない。


 しかも、今気が付いたことなのだが、その落書きのような地図の斜め下の目立たない所に、小さく博士の直筆まで書かれている。


 それを見つけたアサヒは、さらに呆れ顔した。


「あの野郎、俺達に本気で仕事頼む気あんのか……?。


 アサヒが小さく文句を言った、そんな時だ。


「おにぃ、ねぇ、おにぃってば!」


 少し遠くから、ミソラが自分を呼ぶ声が聞こえる。


 その声に気が付いたアサヒは、声のした方をを向くと、いつの間にかレーションを食べ終えたミソラが、パーキングエリアを抜けて道路に出ていた。


「おにぃは、ここで待っていてね!私、ちょっと行ってくる―!」


「はぁ?行って来るってどこに?」


「猫だよ、猫!さっきね、この建物の中に、猫が入っていくのが見えたの!たぶん迷子になってると思うから、私、探しに行ってくるね!」


 それはまるで好奇心の塊のように、うきうきと笑みを浮かべながら、ミソラは猫が入り込んだと言う建物。恐らく元はホテルの中にかけて行ってしまった。


「はぁ……。待ってろって言われてもな……」


 ――こんな所で、誰かに襲われたら危険だし……。


 アサヒはそう思いながら、荷物を早々に片づけて、しぶしぶとミソラの後を追うことにした。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ