目に見える終わりの世界6
「ミソラは、この国でたくさんの人が笑って暮らしていた頃のことを、想像したことがあるか?」
すべての荷物をバイクの荷台に乗せ終わり、次の目的地への出発の準備が整った頃、何気なくアサヒはそう、ミソラに聞いてみた。
「うーん……。私は、昔の人じゃないから、そんなこと、分かんないよ……。でも、そんなにたくさんの人が暮らしていたら、私なら、いったい誰を信頼していいのか、分からなくなっちゃってると思うよ……?」
「そういうものか……?俺は、皆が死とは無縁で、平和で暮らしているなら、それはそれでいいとは思うけどな……」
「おにぃ、それは違うよ……。ねぇ、知ってる?人ってね、1人でも心の底から信頼できる人がいないと、世界にたった1人、取り残されているみたいで寂しくなっちゃうんだ。だから、平和でも、そう言う人が傍にいないと、きっと楽しくなんかないよ……。皆、疑心暗鬼になっちゃうよ……」
すると、ミソラはアサヒの顔を見上げながら、にっと無邪気な表情を浮かべた。
「私はね、おにぃが傍にいてくれるから、いつも笑っていられるんだよ……」
アサヒはそのミソラの言葉に「そうか……」と小さくつぶやいて、バイクにまたがりエンジンをかける。
「ミソラ、それにしても、疑心暗鬼なんて言葉、よく知っていたな……」
アサヒのその質問に対して、サイドカーに乗るミソラは「えへへ」と笑いながら、
「前に、博士に教えてもらったんだよ……」と言った。
「あの博士、他に妙なことを吹き込んでないだろうな……」
「うーん……。わかんない……」
そんな会話をして、アサヒはバイクを走らせた。