機械の化け物2
「やれっ!奴を殺すんだ!」
目の前に立つ、マシンドールと化したミソラの異常性を感じ取った赤狼のリーダーは、慌てて仲間に向かって、指示を出した。
その言葉に呼応するかのように、真っ先にリーダーの隣に居た、3人の男が、小銃の銃口をミソラに対し向け、引き金を引こうとした。その時だ。
「うぎゃぁぁぁぁ!」
男達は、次々と悲鳴を上げる。
なぜなら、銃の引き金に指をかけた瞬間、ミソラの背中から伸びた機械の管。基、機械の刃によって、きれいさっぱり刈り取られてしまったからである。
腕の切り口からは、先ほどの男と同じように、大量の血が噴き出し、小銃を握ったままの両手は、宙を舞うように明後日の方角へ飛んで行く。
だが、そんな彼らに対して、ミソラの殺意は収まることはなかった。
「きゃはっ」
ミソラは腕を無くした3人の男に、戦慄を覚えるほど不気味な笑みをすると、背中から伸びる機械の刃は、それぞれがまるで1つの生き物のように、3人の男達の心臓向部に向かって刃を突き立て、勢いと共に、壁に貼り付けにした。
当然、貼り付けにされた赤狼達は息が出来ないため、口をまるで陸に上げられた魚のように、ぱくぱくさせながら、血を吐いて死んでいく。
「うぁぁぁぁ!この化け物ぉぉぉぉぉ!」
哀れな仲間の姿を目にした赤狼達は、次々と小銃の撃つ。
すると、ホテルのエントランス内では、弾丸の嵐が、あちらこちらと交差し乱れるようにミソラ目掛けて飛んで行く。
「おりゃぁぁぁぁぁ!死ねぇぇぇぇぇ!」
放つ銃弾の中、赤狼達の掛け声が一緒に聞こえてくるが、それから数十秒も経たない内に、誰もが銃の弾倉が空になったことで、すさまじく鳴り響いた銃声は、次第に収まってしまった。
「おいおい、まじかよ……」
「嘘だろ……?ふざけるなよ……」
弾倉1つ分の銃弾を撃ち尽くした彼らだったが、何百発と言う銃弾を受けたにも関わらず、何事もなかったように、悠々と目の前に立つミソラに対して、絶句する。
「きゃはっ」
そんな彼らを、マシンドールと化したミソラは、あざ笑うような笑みを浮かべると、
背中に生えた機械の刃を一斉に広げ、彼女の一方的な殺戮が始まった。
無数に分かれたマシンドールの刃は、ぞれぞれが知能を持っているように、赤狼達に向かって飛んで行く。
そしてある者は、瞬きする間もなく首を落とされ、ある者は、天井に向かって串刺しになり、それらを目の当たりにした、ある者は背を向けこの場から逃げようとした所を、背後から刃で一突きにされ、肉体を引きちぎられた。
それはまさに、地獄の光景だった。
マシンドールの、絶大な力と破壊力。
それら一切を全身で感じながら、2階の手すりの隙間から、ライフルのスコープを覗く1人の赤狼の姿があった。
「糞っ!所詮は機械の玩具だ……!生身の部分を狙えば、奴を殺せる……」
男は独り言をつぶやくと、決して目立つことはなく、息を潜めマシンドールを仕留める機会を伺った。
そして、ライフルのスコープ中央にミソラの生身の部分が重なった瞬間、男は息を止めて引き金を引く。
タンっ!と短い銃声音が、悲鳴とミソラの笑い声の中、響く。
しかし、その放ったライフルの弾丸に反応したのは、ミソラ自身ではなく、彼女の体の半分を取り巻く機械だ。
背中から生える機械の刃は、まるで自らの宿り主を守るように、生身の体を狙った赤狼の弾丸をはじいてしまった。
「きゃっはは」
額から滲み出てくるような、冷や汗。
男はスコープ越しに彼女と目が合った瞬間、自らの死を悟った。
ライフルをその場に置き去りにし、近くの窓から兎に角、外に逃げようとしたのだが、まるで遅かった。
ミソラは片方に生えた機械の翼を一斉に広げると、強化された身体能力で2階まで高跳びする。
そして、窓から逃げようとする男の背中を刃で一突きすると、そのまま1階に向かって放り投げた。
「がはぁっ!」
男は、床に背中を叩きつけた途端、吐血。
恐らくあばら骨が何本か折れてしまったため、もう立ち上がることは出来ないだろう。
「ボ、ボス……。助けて……。助けてくれ……ぐはぁっ!」
男は、唯一、視界に移った赤狼のリーダーに手を伸ばしたが、降りて来たミソラに止めを刺された。