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機械の化け物

 1階、ホテルのエントランスまで降りてくると、そこは、上の騒動とは打って変わって不気味なほど静かだった。


 完全に拍子抜けだ。


 アサヒはこの場所にやって来た途端、銃を構えた奴らが、待ち構えているものかと思っていたからである。


 それほど、この地点は、急襲に最適だった。



 ――所詮は、地方のならず者と言う訳か……。


 数時間前に来た時と同じようにエントランスは、辺りを見渡すと、壊れた窓の隙間から、外の日差しが入ってきていた。


「ふぅ……」


 アサヒは呼吸を整えるため、その場で深く呼吸した。


 ――まったく、なんで俺達がこんな目に合っていることやら……。


 階段の出入り口からは、ひょっこりと現れたミソラと、恐る恐る後に続くヒナタが、ついて来ている


「あ、おにぃ。またなんか、変なこと考えてるの?」


 アサヒの傍までやって来たミソラは、いつもの調子で聞く。


「いや、なんで俺達こんなことに巻き込まれてるんだろうなって……」


「もとはと言えば、おにぃが、道を間違えたからじゃないの?」


「うぅ……」


 ――まぁ、そう言われれば、その通りなのだが……。


「それにしてもだ。なんで、赤狼とか言う破落戸と、俺は戦ってるんだ?おかしくないか?」


「あの……。私のせいで、2人をこんな目に合わせてしまって、ごめんなさい……」


 アサヒの言葉に、罪悪感を感じたヒナタは、そう言いながら、少しだけ涙目になった。


「だ、大丈夫だよヒナタ。あいつらに襲われてたんだもん。仕方ないよ」


「まぁ、慈善事業でもないんだけどな……」


 ぼろっと言ったアサヒの言葉に、「もうっ!」とミソラは腹を立てた。


「おにぃは、デリカシーないなー。そんなんだから、女の子にモテないんだよ……」


「はぁ?別にそれとは関係ないだろ……?」


「ふんふーん。関係ありますー。年齢=恋人いないおにぃには、関係大ありですー!」


「はぁ?恋人の1人や2人居たことありますー。お前が知らないだけですー!」


「え?おにぃ、恋人居たの?え?いつ……?」


「そんなこと、おこちゃまのお前には、教えてやらねーよ……」


「むぅ……。おにぃのケチ……」


「あの、2人共。取り合えずここから出ることを優先しませんか……?お話はそれからで……」


 ヒナタが会話に割って入ってきたおかげで、2人の会話は一旦収まった。


「うーん……。確かにそうだね……。おにぃ、後できっちり問いただすからね!」


「はいはい……。後でな……」


 ミソラの言ったことに、適当な返事をしたアサヒは、散弾銃を構えながらホテル出入口へと足を進めようとしたが、その時っだ。


 突き抜けのエントランス2階に隠れていた赤狼の放った銃弾が、アサヒの胴体を見事に貫く。


「うっ……!」


 激しい痛みが全身に走り、被弾した個所からは血がぽたぽたと、地面に落ちた。


「だ、大丈夫ですか……?」


 アサヒが倒れると、真っ先に気が付いたヒナタが、駆け寄って来た。


「このくらい平気だ……。クソッ!」


 地面にうつ伏せになるように、倒れるアサヒ。


 意識はあるものの、余裕はあまりないと言った様子だ。



「油断したようだな……。小僧……!」


 ずっしりと重い、男の声。それは、エントランス中央の柱の陰からだった。


「もう少しで、うまく逃げられたかもしれないが、非常に残念だ。本当に……」


 そう言いながら、目の前に現れたのは、サングラスを目元にかけた、スキンヘッドの大男だ。


 体格の良い大男は、膝までつく黒のレザージャケットを着ており、他の赤狼とはまるで雰囲気が違った。


 その男が、高笑いを浮かべながらアサヒに向かって声をかけると、それを合図にしたかのように、エントランス中に潜伏していた赤狼達が、次々と姿を現した。


 アサヒ達を取り囲む赤狼の人数は、ざっと10人以上。


 誰もが、銃器を向けている。



「俺らの仲間を、上で散々殺しておいて、このまま逃げ切れると本気で思ってたのか?糞餓鬼」


 スキンヘッドの男は、明らかな殺意を、こちらに向けてきていた。


 周りの赤狼達も、目の前の男に同調するように、アサヒをあざ笑う。



 ――こいつが、親玉か……。


 この場に居る、赤狼のリーダーであろう目の前の男を、きりっと睨み返すと、彼はジャケットの中から拳銃を取り出し、アサヒに向けながら近づいてくる。


「小僧、今時笑えないだろ?絶対絶命のヒロインを助けに来た、正義の英雄とは……」


 ぽつりと言う男の言葉は、随分と余裕があった。


「ヒロインを助けようとした、英雄は、志半ばで悪党の銃弾に倒れる……。なんて笑えない結末なんだ……」


 男はアサヒの元までやって来ると、乱暴に髪を掴み頭を持ち上げた。


「ヒロインとハッピーエンドを迎えるのは所詮、御伽噺と言う訳だ……。現実は悲惨で、しかも非道だ……。思い通りなになるなんて、ありえない。小僧、そうは思わないか?」


 男は首を傾げて問いかけると、アサヒはふっと鼻で笑う。


「生憎、俺は、理想主義者なんでね……。もし、ここから悪党共を皆殺しにする展開になったら、お前も笑えるんじゃないか?」


「あん?」


 スキンヘッドの男は、アサヒの頭を強引掴み、そして、自らの力だけで豪快に壁に向かって放り投げた。。


「ぐぅは……!」


 アサヒは壁に叩きつけられた反動か、アサヒはその場で吐血する。


「小僧、威勢がいいのは結構だが、立場ってものを考えろ……」


 赤狼のリーダーの男は、起き上ることの出来ないアサヒの首を掴み宙に持ち上げる。


「がはぁ……!」


「どうした?苦しいか?何とか言ったらどうなんだ?正義のヒーローさんよ?」


「くたばれ、糞野郎……!」


 ほとんど息の出来ない状況で、アサヒは吐き捨てると、急に男は首を絞める力を弱め、離した。


「げほっ、げほ……!」


「まったく、丸腰の小娘1人を捕まえて、コミュニティの交渉材料にするって言う簡単な仕事なはずだったのに……、お前1人のせいでとんだ誤算だ。どう、落とし前つけてくれるんだ?あ?」


 男はそう言うと、片手に握っていた拳銃を、壁を背にして座るアサヒに向けて引き金を引く。


「イッ……」


 1発の銃声が響き、男の放った弾は、アサヒの肩に直撃した。


 それと同時に、強烈な痛みが、全身に伝る。


 勿論、致命傷ではない。あえてこの男は、急所を外したのだ。


「小僧、簡単に死ねると思うなよ……?仲間の恨みだ。生きたまま、全身の皮をはいで、じっくりとなぶるように殺してやる。覚悟するんだな……!」


 目の前で男は、不気味な笑みを浮かべながら言うが、アサヒの意識はすでに朦朧としていた。体のあちこちで、もうすでに感覚がない所さえある。


 ――クソ……。このまま、こんな所で終わるのか……?


 これ以上、目の前であざ笑う男に、何も言い返す言葉が浮かばず、情けないと思ってる。そんな時だ。


「もう、やめてください……!」


 アサヒの目の前に、今にも消え入りそうな声で、叫んだヒナタが割って入った。


「あなた達の目的は、この私でしょ!この人達には、関係の無いことです!だから、これ以上酷いこと、しないでください!」


 しかし、周りを囲む赤狼達は、途端に、げらげらと声を荒げて笑い始める。


「これ以上、酷い事しないでください!だってさ……」


「おい、そこの小娘、こいつは俺らの仲間を、殺しまくってるんだぜ?」


「今更、どうこう出来る次元、とっくに超えてるっつーの!死刑に決まってるだろ?」


 最後の赤狼のメンバーがそう口にした瞬間「死刑っ!「死刑っ!」と言うコールが何度も起こった。


「ヒナタよお?それとも何か?お前がこの小僧の代わりに、何でも言うことを聞くって言うなら、話は別だ……」


 仲間に同調するようにリーダーは言うと、再び、下品な笑いが赤狼内で起る。


「……この人達にこれ以上、危害を加えないって言うのなら……」


 震えた声でヒナタは答えると、さらに赤狼からは、彼女を馬鹿にするように笑う。


「ほほう……。じゃぁ、手始めに、ここで服を全部、脱いでもらおうか……?」


「……え?」


 一瞬、リーダーが何を言ったのか、頭が追い付かない。


「聞こえなかったのか?ここで、素っ裸になれって言ってんだよ!なぁ、皆……!」


 男は、皆に聞こえるような声で言うと、赤狼からは


「そうだ!そうだ!そのくらいしてもらわなくっちゃ、俺達の気が収まらねぁ!」


「ヒュー、ついでにヒップダンスだ!皆が、満足するまで踊り狂え!」

と、次々と言葉が飛び交う。


「で、でも……」


「あ?声が小さくって聞こえないなー?ヒナタ、俺達は良いんだぜ?お前が頼みを断っても……。そしたら、この糞餓鬼がここで死ぬだけだからな!」


 リーダーは拳銃を再びアサヒに向けると、腹を抱えて笑う赤狼の声がする。


 ヒナタの頬は真っ赤になった。


 そして、震えた手で恐る恐る自分の着ていたローブに手をかけて紐をほどく。


 すると、羽織っていたローブは体をするりと滑り、床に落ち、下に着ていたヒナタの布生地が露わになる。


「ヒューッ!いいぞ、いいぞ!」


 ヒナタのことを完全に茶化すように、口笛を鳴らす赤狼の男。


 しかも、完全にこの場の空気が盛り上がったせいか、「脱げっ!脱げっ!脱げっ!」とコールまで連呼される始末だ。


 恥じらうヒナタは、次に着ていた自分の服の裾に手をかけた時だ。


「ヒナタが、そんなことする必要ないよ……」


 赤狼と、ヒナタのやり取りをずっと見ていたミソラが、ここで口を開いた。


 ミソラはそう言うと、背負っていたリュックを地面に下し、すでに撃たれてぼろぼろのアサヒの元までゆっくりと歩み寄る。


「おい、小娘、動くんじゃねぇ!」


 その途中、リーダーの男に拳銃を向けられたが、ミソラは立ち止まりはしなかった。


「ねぇ、おにぃ……?平気?随分と、撃たれたみたいだけど……」


 ミソラが聞くが、アサヒからは何も言葉は返ってはこない。


「おにぃ、いいよね?私、力を使っても……」


 ミソラが聞くと、それに小さく頷いたアサヒは、ぼそりと何か言った。


 それを聞いたミソラは、アサヒに向かって微笑んだ。


「おにぃ、大丈夫だよ……。私がね、どんな化け物になったとしても、おにぃがきっと元の姿に戻してくれるって、信じているから……」


 ミソラの言葉に、やはりアサヒは何も答えなかった。

「ねぇ、ヒナタ。あなたにお願いがあるんだけど、いいかな?」


 次にミソラは、ずっとその行動を凝視していたヒナタに、近寄った。


「ヒナタ、しばらくの間、おにぃのこと、お願い出来るかな……?あ、あとにゃんたのことも」


「あ、あなたはいったいどうするの……?」


「私はね、皆を傷付けた、この人達を、殺さないといけないから……」


 ミソラが赤狼のリーダーを睨みつけると、ずっと顔を覆っていたローブのフードに手をかけた。


 そこで露わになった彼女の本当の姿に、ここにいる一同が、全員ざわつく。


「ミソラ、あなたはいったい……?」


「私のね、体の半分は、機械で出来てるの……。私はね、マシンドールなんだ……」


「マシンドール?」


「そう……」ねぇ、ヒナタ。少しの間だけ、おにぃを連れて、後ろに下がっててくれるかな?私の意識がなくなっちゃう前に……」


「分かったわ……」


 ヒナタは、彼女がいったい何を考えているのか分からずに、ミソラに頷くと、1人では立ち上がることの出来ないアサヒに、肩を貸して後ろに下がることにした。


 ヒナタとアサヒが、安全な位置まで下がったことを確認したミソラは、目の前で拳銃を向けるリーダーの顔をきりっと睨みつける。


「はははっ。お前があの噂のマシンドールだったとは……。その話なら聞いたことがあるぞ。確か、暴走すると誰も手が付けられなくなる、化け物だってな……」


 リーダの男は、鼻を鳴らした。


「ふんっ。だが、噂は噂だ。お前のような小娘に何が出来る?お前ら、仕事の追加だ!この餓鬼を捕まえて、西に売り飛ばすぞ!」


「おぉ!」と言う赤狼の掛け声がエントランスに響き、銃を向けた赤狼の連中が次々と、ミソラに迫って来た。



「あの……。アサヒさん。彼女、大丈夫なんですか……?」


 赤狼に囲まれてしまったミソラを、後方で見ていたヒナタは、隣にいるアサヒにそう聞いた。


「まぁ、見ていれば、分かる……。マシンドールの、本当の恐ろしさは……」


 アサヒが、弱弱しい口調で言った瞬間だった。


 ミソラは突如「きゃははは」とまるで気の狂ったような、笑い声を発した。


「きゃははははははははは!」


 耳をつい、塞ぎたくなるほど大きな、笑い声が、建物、地面を振動させる。


 その狂気じみた笑い声は、取り囲む赤狼のみならず、ヒナタをも驚愕させた。



「おい、てめぇ……!いい加減にしろよ……」


 頭がおかしくなりそうな、ミソラの声に、耐えかねた赤狼の1人が銃を向けるが、男が気が付いた時には、両腕ごと何か鋭利な刃物のようなもので切り取られ、銃器を握る両手は宙を飛んでいた。


「うぁぁぁぁぁぁ!腕が!俺の腕がぁぁぁ!」


 宙を舞う、男の手が地面ぺちゃっと音を立てて着地した瞬間、失った腕の先から、まるで噴水のように真っ赤な血が噴き出る。


「俺の腕……。俺の……、腕……」


 苦痛な叫びをあげながら、辺りをふらふらと自分の腕を探しながら、男は出血多量で時期に動かなくなった。


「きゃはははははははは!」


 目の前で血にまみれた男の死体が、ミソラの目に映る。


 その瞬間、今まで青かった彼女の目が、赤黒く変わると、体の半分が生命が宿った生き物のように、うごめき出し、マシンドールの変化が始まった。


「きゃはははははははは!」


 ミソラの鋼鉄で出来た体の機械同士の隙間からは、無数に伸びたチューブが、幾つも絡み合い、太く長く尖った黒い鋭利な刃物のようなものへと変わっていき、それが一瞬で体の内に引っ込んだかと思うと、次は背中から天井へ向かって突き出した。


 今のミソラの姿はまるで、機械と言う名の、漆黒の翼を背中から生やした悪魔、そのものである。



 ――これが、マシンドールの姿……。


 信じられないミソラの変化を目の当たりにしたヒナタは、その場で息を飲むしか出来なかった。


 彼女の表情や、体つきは、すでに人間ではない。


 あれは、紛れもない。


 機械で出来た、化け物だ。



「きゃははっ!」


 変化を終えたミソラは、驚きを隠せない赤狼達を見て、不気味な笑みを浮かべた。




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