地上へ2
アサヒ、ミソラ、ヒナタの順で階段を2階分ほど降りた所で、廊下側から、小銃の銃声音と弾丸の嵐が飛んできた。
アサヒは、それにすぐに反応し、顔をひっこめさせると、飛んできた銃弾は、反対側の非常階段、壁に無数の銃痕を残す。
「危ないな……。こいつらも待ち伏せかよ……」
壁に背を付けたアサヒは、持っていた散弾銃を銃口を真上に向ける。
――廊下にいる敵の数は3人……。武装は手製の小銃か……。
さて、どうこの状況を切り抜けようかとアサヒは考えていると、すぐ後ろに居たミソラが、服の袖を引っ張った。
「おにぃ、どうするの?またあれ使う……?」
ミソラが言うあれとは、先ほど敵を粉砕した手榴弾のことだろう。
それを聞いて、アサヒは露骨に首を振る。
「あれ値段張るから、あまり使いたくないんだよな……」
「まぁ、正規品なんて、めったに出回らないからね……。そう言えば、また手榴弾の価値が上がったんだって。オジキが言ってたよ?」
「まじかよ……この調子じゃ、浜松に着く頃には、すっからかんだな……」
「もともとそんなに、お金持ってないもんね……」
「安心安全、しかも強い正規品。どっかに大量に落ちてないかな……。そしたら、軍にでも売りつけるのに……」
「そんなおいしい話、あるわけないじゃん。現実見ようよ。現実……」
はぁ……と2人同時に溜息をつき、気分が落胆した所で、やり取りの一部始終を見ていたヒナタが、「あの……!」と声を上げる。
「2人共、そんな話をしている場合じゃないと思うんですけど……!」
「え?」
アサヒとミソラが、同じように声を上げた瞬間だ。
廊下にいる3人の赤狼の男達が、銃の再装填を終え、またこっちに向かって乱射する。これは、完全に挑発である。
「うおぉ!あんなに無駄使いするくらいなら、弾薬の一つでも、くれないかな……」
「おにぃ、また始まった……。で、結局どうするの?」
「仕方ないから、あれ使う……」
アサヒは小さく言うと、散弾銃の排莢口から装填されている12ゲージショットセルを取り出してしまうと、次にスラッグ弾を装填した。
「まったく、この弾も結構高いんだぞ……」
散弾銃の先台を引いたアサヒは、壁から銃口だけを、廊下側に向け、2発ほど引き金を引く。
当然、よく狙ったわけでもないため、弾丸は明後日の方角へ飛んで行き、敵には当たらない。
だが、アサヒには違う目的があった。
こちらに反撃してきたと思い込んだ3人の赤狼は、頭に血が上ったためか、小銃の弾倉が空になるまで、アサヒのいる階段方向へ撃ちまくる。
それは、壁には何十発と言う弾が当たり、崩れてしまうんではないかと思うほどの火力だった。
しかしながら、しばらくすると、赤狼の小銃の弾倉が空になり、彼らは弾薬を再装填を始めた。
その隙を見計らっていたアサヒは、散弾銃を構えながら、壁から飛び出し、廊下にいた2人の赤狼の胴体を瞬時に吹き飛ばし、反対側に移動する。
再び、壁に背中を付けると、失った弾の再装填を始めた。
残るは、あと1人だ。
アサヒは「ふぅ……」と深呼吸を入れた時、廊下に残された赤狼の男は、仲間がz瞬殺されたことによって発狂し始め、
「この野郎!死ね死ね、死ね!」
と訳の分からないことを言いながら、弾倉を変えた小銃をまた乱射しだした。
「あぁ、これだからごろつきは……」
――戦闘って言うものをまるでわかっていない……。
赤狼の弾丸が、再び切れるタイミングを見計らったアサヒは、廊下に向かって飛び出した。
そして、銃口と、体制を上向きにしながら、地面をまるですべるようにスライディング。
男のすぐ斜め下までやって来ると、散弾銃の引き金を、敵の至近距離で引く。
タンッ!と言う1発の銃声音。
その後すぐに、廊下に1人残された赤狼の顔面に、大きな穴が開き、血肉の塊のなった中身が天井にまで吹き飛んだ。
「ふぅ……手間を取らせやがって……」
胴体が床にゆっくりと倒れた、赤狼の男を横目に見ながら、その場で立ち上がったアサヒは、少しずつ息を整え、ミソラ達が隠れる階段の方へ視線を向ける。
「出てきても大丈夫だぞ……」
アサヒは、小さくそうよ呼びかけた。