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真っ白い世界の中

 天井から、差し込む眩しい光。


 徐々に、部屋の中の埃は消えていった。



 ヒナタが、恐る恐る目を開いた先には、にたにたと笑みを洩らすムラカミの姿や、それをあざ笑う、赤狼の男達の姿はなかった。


 代わりに目に留まったのは、部屋の隅に倒れている彼らの亡骸だ。


 全員が、胴体、頭、または下半身のどこかしらを吹き飛ばされて、真っ赤な鮮血を流しながら、横たわっている。



 そして、部屋の中心には、天井が崩れたことによって出来た小さな瓦礫の山があった。


 そこに、ライフル銃を構えて立つ、1人の青年の姿がある。



 きりっとした目つきに、どこか気怠そうな雰囲気を出す彼は、床に腰を付き、未だに立ち上がれそうにないヒナタに向かって、手を差し伸べた。



「あっ……」


 ヒナタは、小さく声を洩らすと、差し伸べられた手を握った。


 すると自分が思っていたよりも、随分と力強く、引き上げられた。


 その途端、ヒナタの頬も、熱を帯びたように赤くなる。


「お前、名前は……?」


 しばらくの間だけ、ぼーと目の前にいる彼のことを見つめていたヒナタは、青年の言葉にふっと我に返る。


「あ、えっと……。ヒナタです。シジマ・ヒナタ……」


「俺の名前は、アサヒ。ところで、なんでお前、こいつらに追われてたんだ?なんか、特別な訳がありそうだが……」


「それは、えっと……」


 言葉に詰まらせていると、部屋の外から


「爆発が起きたぞ?」


「上の階からだ!行け、行け!」

と言う、赤狼の仲間の声が、聞こえて来た。


「まぁ、聞きたいことはたくさんあるとして、まずはこの状況を切り抜けるのが先だな……」


 アサヒはそう言うと、穴の開いた天井を見上げる。


「ミソラ、いつもの頼む……!」


 すると、屋上からこちらの様子をずっと覗き込んでいた1人の10代前の、銀色の髪を下可愛らしい少女が、「はーい!」と気の抜けるような返事をして、近くに置いてあった大きな鞄の中から、単身手動式散弾銃(ポンプショットガン)を取り出して、アサヒにほいっと投げた。


「さんきゅ……」


 アサヒは散弾銃を受け取ると、すかさず弾を装填。安全レバーを外して、スイートルーム出入口に向けて、引き金を引く。


 タンッ!という短い発砲音と共に、散弾銃の銃口から放たれた弾丸は、今、部屋の中に入ろうとやって来た赤狼の男の胴体に命中。


 赤狼の彼は、体に数個の穴を開け、向かいの壁に押し付けられるようにして倒れた。


 アサヒはさらに、銃をコッキング。この場で中腰の状態で空になった薬莢を排出すると、再び構え、出入り口から顔を出したもう1人の男を射殺した。これで、2人排除だ。


「ミソラー!荷物は任せた」


「はーい。おにぃ、任せてー!」

 

 再度、散弾銃のコッキングを済ませたアサヒは、屋上にいるミソラに言うと、部屋から1人出て行ってしまった。

 

それとほぼ同時に、また銃声が聞こえ、赤狼のメンバーの悲鳴が聞こえてきた。


 突然のことで、いったい何が何だか分からない。と言った様子のヒナタは、立ち尽くしていると、天井の上から声が聞こえてくる。


「お姉さん。避けてねー!」


 え?え?とあたふたしていると、先ほどアサヒに銃を渡した少女。ミソラが、自分の背の半分ほどある大きさの鞄を背負って、助走をつけた。


「せーのっ!とうっ!」


 威勢の良い掛け声とほぼ同じタイミングで、天井の穴から勢いよく飛び降りたミソラだったが、着地だけを失敗してしまい、ごろごろと部屋の隅まで転がり、尻餅を付いてしまった。


「あいてて……。やっぱりおにぃみたいに、かっこよくはいかないなぁ……」


 小さく独り言をいうと、ミソラの背負っていた鞄の中がごそごそと暴れだす。


 そして、内側から「にゃぁー!にゃぁー!」と言うくぐもった猫の鳴き声が聞こえてきた。


「あ、待って、待って!」


 ミソラはすぐに鞄を開けると、子猫が勢いよく飛び出した。


「にゃぁーにゃあー」


 悲鳴を上げる猫は、ヒナタの腕の中に逃げるようにして飛び込む。


「あ、もう。さっきご飯あげたのに……」


 むぅ……とふくれ顔になるミソラ。


 だが、猫はヒナタの腕の中から離れようとはしない。


「あ、あのう……?」


「ん?あ、お姉さん。そう言えば、大丈夫だった?怪我とか、してない?」


「えぇ、大丈夫……」


「よかったぁ~。じゃぁ、その子、お願いね……。私、鞄背負わないといけないから……」


「にゃぁー!」


 どうやら、ヒナタの方が心地よいといった様子の子猫は、腕の中で丸くって小さく泣いた。



 ヒナタの腕の中に丸くなった子猫は、小さく鳴き声を上げる。どうやら、ヒナタの腕の中の方が心地が良いようだった。


「え、えっと……。この子って……」


「猫だよ、猫!お姉さん、見て分からないの?」


 それは分かっているんだけどなぁ……。とヒナタは苦笑い。


「あ、ちなみにこの子の名前は、にゃんたね……。よろしくにゃー」


「にゃ、にゃんた?」


「うん。にゃんた、かわいいでしょー?さっき、迷子になってたとこ見つけたんだ……」


 そんな会話をしていると、部屋の外から


「おい、ミソラ何やってんだ?置いて行くぞ?」

と言うアサヒの声がした。


「あ、はーい。待ってよおにぃ!」


 大きく返事をしたミソラは、床に置いた鞄を再度背負い、ヒナタに向き直る。


「じゃ、そう言うことで、お姉さん。一緒に行こか……?」


「えっと、行くってどこに……?」


 ヒナタの反応が可笑しかったのか、ミソラはそれを聞いてくすくすと笑った。


「なに言ってるの?ここから逃げるんだよ。決まってるじゃん!」 


「え?でも、外には奴らがたくさん……」


「心配しないで。私のおにぃは、ものすっごく強いから……」


 ミソラはにっと、小さな微笑みを浮かべで、スイートルームの入口の方へ駆けて行く。


「なにしてるの?お姉さん、早くしないと行っちゃうよ……!」


 部屋の外で言う、ミソラの声にヒナタははっと気がついた。


「あ、待ってください……!」


 ミソラの声に少しばかり急かされながら、ヒナタは彼女の言う大丈夫、と言う言葉を信じて、ついて行くことにした。




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