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この作品には 〔ガールズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

青春は戦争だと、わたしと彼女は叫んだ。

作者: 葵さとう

「あんたの命、あたしにくれない?」


 学校からの帰り道。

 空き缶を蹴り飛ばしながら、彼女は軽い調子で切り出した。

 真っ赤に染まった夕暮れに照らされた彼女の横顔は、どこか緊張感が滲んでいたように思う。でも、同時に、清々しくも見えたんだ。

 わたしは、こっくりと頷いた。


 それがわたしと彼女の、世界へ向けた、ちっぽけな反抗の合図だった。




 ――

 ――――


「もうすぐ中学生活最後の夏休みが終わりだね」


 突然話しかけられて、わたしはすぐに言葉を返せなかった。

 普段関わりのないクラスメイトだった。

 話しかけられるとは思わなかった。


 夏休み。

 でも、わたしは教室で飼っているウサギの世話のために登校するのが日課だった。

 わたしは、ウサギが入れられている飼育かごから視線を外した。


「どうしたの。突然」

「ただの雑談。どうせ最後なら、ウサギの世話を投げ出したいとか思わない? 長期休みの間くらいさ」

「そんなことしたらウサギが死んじゃう」

「そうだね。でも、結果が分かっていても、どんなふうになるのかなぁって思うんだ。そんなあたしはクズかな?」

「また答えにくい質問を……」


 わたしが呆れていると、彼女は突然、真面目な雰囲気を出し始めた。


「話を変えるけどさ。あんた、急に変わったよね。最近」


 彼女はほとんど関わりのなかいクラスメイトだ。

 そんな彼女に指摘されて動揺した。


 彼女が部活をサボって怒られているのを何度も見たことがある。

 最近では、あまりにもサボりすぎて諦められたらしい。

 授業が終わると、早々に去っていく姿が印象的だった。


 彼女について知っているのはそれぐらいだ。

 何が好きで、何が嫌いなのか、まったく分からない。


 彼女がわたしに声をかけた目的が分からない。


「そうかな?」

「そうだよ。すごく暗くなった」


 夏休みとはいえ中学校は賑やかだ。

 クラスメイトの大半は、校則で義務付けられている部活のために登校してきている。


 しかし、今教室にいるのは、わたしと彼女だけだった。

 気まずいことこの上ない。


「……そんなの、きみには関係ないじゃん」

「関係あるよ。もったいない」


 彼女は鼻を鳴らした。

 わたしは、なんて返そうか迷った。

 迷っているうちにウサギの餌をあげ終えてしまった。

 彼女はそんなわたしを興味深そうに見ていたと思う。


「もったいないって、何が?」


 結局、出てきたのは問いに問いで返す事だった。

 仕方ないじゃん。

 彼女とはほとんど話したこともなかったんだから。


 彼女はしばらく自問自答するように悩み始めた。よく分からない人だ。


「ん~。別に? ただの、わたしの感想。あんたが何も思っていないなら、別にいいんだ」

「なにそれ」


 本当に良く分からない人だった。

 でもそれは、建前の裏にある本音をまだ聞いていないからだったと、後で分かった。


「ねえ、買い物に行かない? 何を買おうか、悩んでいるだけで楽しいよ?」


 ウサギの赤い目がわたしを見ていた。

 彼女の目玉は黒かったけど、なぜかウサギとダブって見えた。


「うん。いいよ」


 わたしはなんとなく首を縦に振っていた。

 理由なんてなかった。なんとなくだ。

 わたしと彼女は、部活動に勤しむ同級生たちを横目に、一緒に買い物に出かけた。




 夏休み。彼女と教室で会えば、その日は一緒に過ごした。

 夏休みが終わっても、放課後だけは一緒に過ごした。


 帰宅時間が被ると、なんとなく二人で寄り道をして帰る。

 これまで話したことが無かったから、会話も合わない、趣味も合わない。でも、訪ねた店の商品棚を眺め、ぽつり、ぽつりと話すだけで悪い気はしなかった。


 他のクラスメイト達との接点が減った訳ではない。

 わたしと彼女が話すのは放課後だけ。それ以外は何も変わらない。


 ある日、巷で人気になっているジュースを買って、手入れされずに草が伸び放題になっている公園のブランコに二人で座った。それだけで、非日常に迷い込んだように感じた。


 わたしは以前から気になっていた事を彼女に聞いた。


「どうして部活を辞めたの? きみと仲のいい人がいっぱいいるじゃん」


 彼女が、趣味も世間話も合わないわたしと一緒にいるのか、まるで分からなかった。

 部活にはもっと仲のいい友達がいる。その方が楽しいんじゃないのかと、疑問に思ったのだ。

 彼女は楽しそうに笑った。


「例え話をしよう。どうして殺人が大罪か考えたことある?」


 中二病かよ。

 でも、彼女をからかう事ができなかった。


 わたしも、『死』について、いつもいつも考えていたから。


「そんなの当たり前の事じゃん」

「違うよ。あたしが問いかけているのは、『当たり前』になった理由」

「……」


 わたしが応えないでいると、彼女は一人で語り始めた。

 初めから応えに期待していなかったのかもしれない。


「人は子孫を残すことが一番の役目なんだよ。そのために、文化を発展させたり、子を産んだりするんだ。殺人は、その人が生むであろう子を、文化を、『可能性』を完全に奪う。だから大罪なんだ」


 彼女は両手を広げて主張した。

 まるでそれが、世界で一番重要な事のように。


「そう。でもそれ、部活関係ないじゃん」


 わたしの口からそっけない言葉が零れた。

 しかし、彼女は真剣に否定したんだ。


「関係大有りだよ! だってこの学校、部活が強制なんだよ⁉ 信じらんない! 人の時間を奪っているんだよ⁉ 時間は『寿命』だ! それを奪うって事は、『可能性』を奪うってことだ! 殺人と同じだ! 部活を強制にした奴を刑務所にぶち込めないかなぁッ⁉」


 彼女は地団駄を踏んで憤慨した。

 わたしは、感情でぶん殴られたような気がした。


「部活は合わなかった?」

「うん。元々時間の無駄だと思っていたし。どうせ無駄にするなら、仲のいい友達のいる部活に入りたいじゃん? でもみんな、部活に本気すぎてついて行けなかった」

「そっか」


 わたしは、呟いて手元のジュースを啜った。

 甘い。甘すぎて吐きそう。

 流行に乗ったのが間違いだった。


「あー。早く大人になりたいなぁ……。大人になれば、奪われる側じゃなくなるのかも」


 彼女は足をぶらぶらさせてボヤいていた。


 分かんないよ。

 だって、わたしは大人になんてなりたくないから。


 彼女が話しかけてきたあの日、彼女が『もったいない』と言った理由が分かった気がした。

 彼女から見れば、わたしは『自殺し続けている』生き方をしていたんだろうな。




 ――

 ――――


 わたし達は高校生になった。

 偶然にも、わたしと彼女は同じ高校だった。

 彼女は部活に入らず直ぐに帰宅する。そして、いろいろな知識を仕入れてきた。


 流行を調べて、おしゃれをして、おしゃれなカフェに行って、カラオケに行って、本を読んで、映画を観て、スポーツをして、何の目的もなく街を歩いたりした。

 彼女の友人たちも一緒に遊びには行っていたけど、一番彼女と行動していたのはわたしだったと思う。

 これぞ青春! って感じの一年だった。楽しかった。生きているんだなって思った。




 ――だからわたしは、嘔吐した。




「大丈夫?」


 彼女はわたしの背中をさすりながら、自販機で買ってきた缶を差し出した。

 わたしはありがたくジュースを飲んで一息ついた。


「ありがとう」


 ちびちびとジュースを飲んでいると、すぐに中身が空になった。

 カラになった缶を見ていると、無性にイライラした。

 自販機の横のゴミ箱に空き缶を投げた。でも、入らなかった。

 わたしは、ころころと地面を転がる空き缶をぼんやりと見つめていた。


「インターンシップ。そんなに嫌だった?」


 わたしの心臓がどきりと跳ねた。


「何でそう思うの? 確かに、インターンシップの帰りだけど」

「だって、中学の時にあんたの性格が暗くなったの、職業体験が終わってからじゃん?」


 図星だった。

 あの頃は希望に満ちていた。早く働いて、お金という武器を得れば何でもできると信じていた。


 でも、ダメだった。

 たった一週間の経験で心が死にかけたんだ。これから何十年もあの牢獄に囚われると考えただけで吐きそうになった。


 わたしは死ぬほど労働に向いていない。

 心が死ぬ。


 働くことを考えるたび、頭に死ぬ方法がぐるぐる回るほどに嫌いで、耐えがたくて、わたしの世界は灰色になった。


 でもみんなはケロリとしていた。


 この悩みをみんなで共有できればよかったのに。

 人が死ぬほど辛くても、『甘えている』だの『クズ』だの言われるのは目に見えていた。

 共感なんて、ただの幻想だ。


「あはは……。気付いていたんだ。わたしって本当に人間の才能ないんだなぁ。……いっそのこと、死んじゃったほうが楽なのかなぁ」


 あの地獄が始まるまで時間が無い。

 それまでの短い時間を、貴重な時間を、くよくよ悩んで過ごすのは『もったいない』。そう思って、必死に楽しんできたけど、やっぱり駄目だった。


 一度意識すると、心が死ぬ。


 彼女はしばらく黙っていたが、少し逡巡した後、意識して軽い調子で切り出した。


「もしも、もしもの話だよ? もしも、高校卒業までにあんたの気持ちが変わらなかったらさ……。あたしがあんたを殺していいかな? あたし、人を殺してみたい(・・・・・・・・)んだ」

「……え?」


 わたしは何を言われたのか分からなかった。

 時間をかけて少しずつその言葉を飲み込んでいく。

 中学生の夏、どうして彼女がわたしに声かけたのか。その理由が分かった気がした。


「あんたの命、あたしにくれない?」


 学校からの帰り道。

 空き缶を蹴り飛ばしながら、彼女は軽い調子で切り出した。

 真っ赤に染まった夕暮れに照らされた彼女の横顔は、どこか緊張感が滲んでいたように思う。でも、同時に、清々しくも見えたんだ。

 わたしは、こっくりと頷いた。


 それがわたしと彼女の、世界へ向けた、ちっぽけな反抗の合図だった。


 彼女はこれまで見たことのない笑みを浮かべ、わたしの唇に口付けた。

 わたしは抵抗する事なく受け入れた。


 わたしも彼女も度し難いクズで、本心を話せば眉を顰められる存在だ。

 この社会に向いていない。


 でも、空気を読んで自分の心を殺すのはもう嫌だった。


 わたし達はちっぽけな戦いを始めたんだ。




 わたし達の距離はこれまで以上に近くなった。

 放課後だけではなく、教室でも話すようになった。

 お互いの家に頻繁に泊まるようにもなった。

 友達以上の距離で、やりたいことを、今まで以上に一緒にやったんだ。


 夜のベッドの上では誰の邪魔も入らない。

 世間では眉を顰められるクズな思考を包み隠さず話す事ができた。


「きみは、どうして人を殺したいと思ったの?」

「部活の顧問がすごく楽しそうだったから」


 彼女は教室では見せない笑みを浮かべながら答えた。


「楽しそうだった?」


 いつも激を飛ばして怒っているイメージしかなかったが。


「大会で勝った後、顧問は感動して泣いて喜んでいるんだよ。まるで自分のおかげで勝てたみたいにさ。ちょっと調べれば、あいつの指導は非合理の塊だって分かるんだけど」

「ふぅん?」


 ほとんど部活に関わっていないわたしには分からない感覚だ。


「でも、非合理な指導で無駄に時間をかけて練習させられていたみんなもさ、感動で泣き出すんだよね。気持ち悪い。カルトかよ」

「あー。その光景はたまにテレビで見る」


 スポーツ強豪校をリポートした番組だ。大体は、キツイ練習と、大会後に選手たちが泣いているシーンばかりだ。

 うちの家族は感動してみていたけど、わたしにはちっとも共感できなかった。

 だってわたしは当事者じゃないし。


「強い立場になってさ、生徒に無駄な努力を押し付けてさ、最後のうまい汁だけ啜るの。他人の時間を『寿命』を奪って気持ちよくなるんだ。常識だとか伝統だとか、耳障りのいい事を言ってさ。自分が正義だって面してさ。すっごく楽しそうだよね。――だからあたしは、他人の時間を奪う極地ともいえる殺人をやってみたい。どれだけ気持ちよくなれるんだろう! 今からすっごく楽しみっ!」

「本当に性格が悪いね、きみは」


 わたしは面白くなってクスクスと笑った。

 彼女はいたずらっぽく頬を膨らませた。


「いい子ぶらないでよ。あんたにもそういう部分があるよ。きっと、人は弱い者虐めが大好きなんだ」

「本当に性格が悪いよ、きみ」


 彼女の行為は、人の服を剥いて、『ここに裸の変態がいますよ!』と叫んでいるのと同じなんじゃないかな。少なくとも、わたしにはそう見えた。

 わたし達は顔を見合わせて、もう一度笑った。




 ――

 ――――


 高校生活は流れるような勢いで過ぎて行った。

 卒業式が終わった後、みんなは仲のいい友達と打ち上げにバラバラに帰った。


 一方、わたしは一人で帰路に着いていた。

 この時、わたしは何かを予感していたのかもしれない。


 気が付くと、手足を縛られた状態で、中学校の教室に倒れていた。

 彼女が初めて声をかけてくれた教室だ。


「おはよう」

「うん。おはよう」


 窓から差し込んだ月を背に立つ彼女は、これまで見たことのないほど儚げだった。


「ねぇ。あの時の約束、覚えてる? 気が変わったりしていない?」


 それは、彼女からの最後通告だったんだと思う。

 今ならまだ、あの日常に戻れるのだと。


「うん。変わってないよ」


 わたしの口から、驚くほど軽い声が漏れた。


「そっか」


 彼女は鞄を漁ると、一本の包丁を取り出した。

 月明かりに照らされて、きらきらと光っている。バックの中には、まだまだ予備の刃物が詰め込まれているようだった。

 彼女は刃物を床に置くと、わたしの制服をはだけさせた。そして、胸元に顔を押し付けた。


「なぁに?」

「すっごく心臓がどくどくいってる。やっぱり、怖い?」

「怖いよ。すっごい緊張してる。今にも吐きそう」

「あははっ、最期くらい綺麗にいこうよ。ここで吐いたら台無しだね。……良かった。怖がってくれないとやる意味がないんだ」

「きみも体が震えてる。怖いの?」

「怖いね。すっごく怖い。でも、それ以上に興奮してる」

「ほんとにクズだね、きみ」


 わたしは、仕方のない人だなぁと笑った。

 彼女もクスクスと笑った。しかし、すぐに笑みを消した。


「……ねぇ、どうして抵抗しないの? あたしはあんたが理解できない」


 彼女は本当に不思議そうだった。

 時間を何よりも大事にする彼女には、わたしを理解できないのは当然の事なのかもしれない。わたしは時間を捨てようとしているのだから。


「わたしは生きるのに向いていない。生きるのがつらい。死んでしまった方が楽だと思ってる。でも、こんなクズでも、世界に何かを残したかったんだ。傷でもいいんだ。何かを、何かをこの世界に残したかったんだ……っ!」

「そっか」


 彼女は穏やかに笑って、わたしの腹部に刃を押し込んだ。


「あっ――」


 熱い。体の内から火の手が上がったみたいだ。

 じっとしていられない。暴れまわって気を紛らわせたい。

 しかし、拘束されているわたしは動く事ができなかった。


 彼女は刃物を捻って傷を広げ、刃物を引き抜いた。

 血が飛び散る。血が流れていく。

 血が、命が、わたしの身体から消えていく。


 彼女はわたしの両手首をつかみ、唇を塞いだ。

 柔らかい。少し落ち着く。

 そして、しばらくすると、わたしの体の痙攣が収まってきた。

 熱が少しずつ引いてきた。寒い。

 それを確認した彼女は、ゆっくりと唇を離して、いたずらっぽく笑った。


「あははっ、汚れちゃった。汚なぁい」

「……ひっ、どぃな、はなの、じょしこうせいに、むかって、さ……」

「あははっ、もう卒業したじゃん」


 彼女の頬は赤く、高揚しているのが見て取れた。

 今にも自分を慰め始めてしまいそうだ。


「ね、ねぇ……。さむいんだ……、おねがい……」

「うん」


 彼女はわたしの体を抱きしめた。血に汚れるのも厭わずにだ。

 彼女の熱を感じる。

 それでも、寒さは去ってくれなかった。

 わたしは痛みと寒さで、彼女は恐怖と興奮で震えていた。


 痛い。辛い。苦しい。

 自分を貫いて生きるのは、本当に辛い。

 これなら、空気を読んで、自分を殺して、世界に溶け込んだほうが楽だったかもしれない。

 今更になってそれに気が付くだなんて、本当にバカだ。救いようがない。


 でも、後悔はない。


 わたしも彼女も自分を偽る事ができなかった。

 自分を偽る事をかっこ悪いと思ってしまったんだ。

 みんなが当たり前にしている戦いを拒んだ。ただの子供だった。


「ねぇ、わたし、がんばったよ……」


 眉を顰められるかもしれない。

 でも、わたしは、わたし達は、わたし達なりに戦ったんだ。


 ふと、檻の中のウサギと目が合った。

 バカだな、と罵られている気がした。

 でも、わたしは誇らしげに胸を張ったんだ。


 ――さようなら。戦友。




 ――

 ――――


「あはっ、最高……」


 彼女は、着崩れた制服を正してぽつりと呟いた。

 彼女の足元には少女が眠っていた。もう死んでいる。


 机に腰かけ、火照った体を夜風で冷ました彼女は、艶めかしい吐息を吐いた。最高の気分だった。もう、死んでしまっても構わない。

 でも、まだまだ足りない。人間の欲に底は無い。


 机から身軽に飛び降りると、軽い足取りで歩いていく。


「ねぇ。あたしはまだ、戦うから。だから、――ばいばい、戦友」


 ぽつりっと呟いて、彼女は教室を後にした。




 ――

 ――――


 三月七日早朝、○○県××市、△△の○○中学校で少女の刺殺体が発見された。

 身元は市内に住む高校三年生、▽▽▽▽さん(十八)と判明した。▽▽▽▽さんは、前日の夜から行方が分からなくなっており、警察に届け出が出されていた。第一発見者は登校した○○中学校の学生であった。▽▽▽▽さんは、ロープで全身を縛られており、死因は腹部を刺されたことによるショック死だと思われる。警察は誘拐殺人事件として、犯人、犯行動機を調べている。また、同日、△△市では複数の行方不明者が出ており、事件との関連を調査している――――


 ――

 ――――


 世間を騒がした連続殺人事件はすぐに終息した。

 コメンテイターは、如何にもな解説をつけて動機を語っている。人々は、アレが原因だった、コレが原因だったと騒いでいる。

 誰も、真実には辿り着けていない。けれど、みんな自分の分析が正しいと信じていた。

 犯人の友人は『こんな事をするような人には思えなかった。明るい人だった』と泣きながら語っている。

 関係者の元には大量のマスコミが押し寄せている。


 被害者も犯人も、子供ばかりだった。だから、話題性は抜群だった。


 それでも、すぐに忘れ去られていった。


 事件は時間と共に風化していく。あの事件の事を口にする人は驚くほど少ない。

 世界についた傷はすぐに小さくなってしまった。

 数十年後、関係者がみな死ねば傷は完全に癒えるのだろう。


 ――今日も人々は楽しそうだ。


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