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012  明日への展望が、見えました <シモン>

R15-発動中

残酷な描写有-発動中

シモンは、憤っていた。


ふざけやがって!ふざやけやがって!ふざけやがって!


夕食を食べ終え、空になった食器を、ディナーベルを鳴らし、メイドに取りに来させ、代わりにブランデーを持ってこさせた。

執事が、渋々、持ってきて

「旦那様に、『心を入れ替える』と、お約束されたばかりでしょう。それが、こんな酒精の高いお酒を召しあがるのは・・・」

「うるさい!さっさと置いて、出ていけ!」

シモンは、氷の様な目で、執事を睨みつける。執事は、背筋を悪寒が走るのを感じ、そそくさと出て行った。


傍らで、ガタガタと震えるシルヴィ。

自分に向けられた怒りではないと解っていても、ブリザードの中にいる様で、身も心も凍る様な感覚に陥っていた。

実際、指先やつま先には感覚が無くなり、体毛の一本一本が、自分に突き刺さる針になったようで、全身をひりひりとした痺れに覆われていた。



ふざけやがって!

シモンは、また一杯、ワインの満たされたグラスを呷る。


私を婿にしてやるだと!まるで私が養子の様ではないか!

私が、女をもて遊んだ。だと。女の方が、遊ばれたがったんだ!

男爵令嬢の件だとて同じだ。確かに賭けはしたが、執拗に誘惑したわけじゃない。ちょっと声をかけたら、勝手にのぼせ上ったんだ。元々、そういうのを期待して王宮へ来たあばずれだったんだ。


大体、自分はどうだ?【結婚許可証】を発行させ、孕ませようとした女を、あっさり私に譲る。なんという不誠実さだ。さっさと帰ったのも、女を納得させる為だろう。

私に【白い結婚】を強いたのも、自分の女だからだろう。


何が『【白い結婚】はいつでも無効にできる』『意に沿わなければ廃嫡』だ!

解っているんだ。私に隠れてヤるだけヤって、女が男を出産すれば、私を廃嫡する気なんだ。


くそっ!使い捨てになんぞされてたまるか。



大体、ジゼルが、メイドを【人形】などと形容するわけがない。

あの父上が、あそこまで激高したのは、図星をつかれたからに違いない。

ふん。しばらくは大人しくしておいてやるさ。

多分、城塞邸の寝室だな。ジゼルが遊び、あの芳しい香りの染みついた人形と、同じベッドで寝ているのかもしれない。


シモンは、頬を朱に染めた。

それを、思った瞬間、ジゼルを汚された気がしたからだ。


ジゼルは別格だ。

緩やかなウェーブのかかった明るいブロンドの、ふわふわと煙の様に揺れる様は、軽やかで、嬉しくなる。

華奢で、抜ける様に白い肌は、消え行ってしまいそうで、壊れてしまわないか不安になる。

あどけない深緑の瞳は、頼りなげで守ってあげたくなる。

淡いピンクの唇は、物憂げで、その不安を取り除いてあげたくなる

彼女の香りは甘く、古典演劇『花妖姫』の主人公、鈴蘭の妖精のミュゲそのものだ。


鈴蘭?

そうか!鈴蘭か。


結婚式ということは、鈴蘭の花束が用意されている筈。

式の直前まで、水に浸しているだろう。

その水には酷い毒性があり、数年前にも、ある伯爵が誤飲して亡くなった。と聞いた事がある。

それを、父に飲ませればいい。

父さえ亡くなれば、誰がどう言おうと、シュバリー辺境伯は私だ。


ふふっ。やっぱりジゼルは特別な女性だ。


父を殺す。

それこそが、最良の方法であると確信すると、シモンは、ハッとシルヴィを見た。

身体の震えは治まっていたが、指先はプルプルと震えたままだ。


ジゼルが鈴蘭の妖精なら、シルヴィは人間になったミュゲかな。

従者の格好のまま、じっと立っているシルヴィに、シモンは微笑みかけた。


「いつまでも、胸を締め付けていては辛いだろう?巻いている布を取っていいよ」


シモンは、テーブルに置いてあるブランデーの封を自ら開ける。

シルヴィは、驚いた様にシモンを見た。


膨らんだ胸を平に見せる為、胸にぐるぐる巻きに巻いた布を取れと言われ戸惑っている。

こういう顔をしているシルヴィは、可愛い。

ジゼルの可愛さには、遥かに及ばないが、なんなら、飽きるまでの間、囲ってやってもいい。


シモンは、既に、シュバリー辺境伯になった気でいる。


「あ、あの。シモン様。それでは、その・・・どうか、後ろを向いていていただけませんか?」


そういう関係になってなお、こうした恥じらいを持っているのも好ましい理由の一つだ。

「何?私に後ろを向けって命令してるの?」

「そ、そういう訳では・・・」

「じゃぁ、ほら」


シルヴィが羞恥に耐えている姿を眺めつつ、シモンは、別の事を考えていた。

その昔、アデライード様に『花妖姫』として紹介された伯爵夫人。

女体というものを教わった初恋の女性。


流石に、父も彼女の事は、調べられなかった様だ。


意を決して、シルヴィはシモンの背を向ける

ベストを脱いで蝶ネクタイを外す。それから、膝をついて座り込み、シャツのボタンに手をかける。

第二ボタンまで外したところで、シモンは、背中から抱きしめた。


「きゃっ」


悲鳴をあげかけたシルヴィの口を押さえる。

「ごめんね。イジワルを言って。すごく可愛かったよ。男装もいいね。すごくエロティックだ」







鳥の鳴き声が聞こえる。晴れやかな結婚式当日の朝。

シモンの部屋には、空のワイン瓶が3本とブランデーの瓶が一本転がっていた。

シモンは目覚めなかった。

シモンの肉体は、石膏の様になって横たわっていた。


あぶない。

つい、趣味に走りすぎてしまうところだった。

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