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お風呂あがりに

「あれ?優は?」


 いつも以上に長く入った風呂から出て、リビングでくつろいでいる母に尋ねる。今はテレビを見ることに忙しいのか右手で上を指さす。てっきり母と一緒に話でもしているかと思っていたのだが。


「ありがとう」

「うん」


 階段を上がって自分の部屋に向かう。階段を上っていると長く浸かりすぎていたせいかふわふわして足を滑らせそうになる。

自分の部屋に着きドアを開くと机の上に置いた鏡と正座で睨めっこしている優が居た。


「なにやってんの?」

「笑顔の練習」

「なんで?」

「考くんが笑顔が好きって言ってくれたから、にー」


 指で口角を上げてこっちを向く姿に思わず笑ってしまう。もはや笑顔というよりも変顔と言った方が正しかった。


「あれ?できてない?」

「あはは、ちょっと不自然かな」

「えー、酷いなー、頑張ったのに」


 本当に頑張って練習していたのか口元から指を離してしょんぼりしている。部屋に入り机を隔てて優の前にあぐらをかいて座る。優は入ってくる自分を目で追いながらこっちを向いてくるので、座ると同時に優と同じように指で口角を上げる。


「にー」

「ふ、ふふ、あはははは、変な顔―、はははは」


 こっちを見ていた優がさっき笑った自分の比にならないくらい笑い始める。笑い上戸である彼女はそのせいか分からないが笑いながら涙を浮かべている。しばらく笑い終わるのを待っていると、笑いすぎて疲れてしまったのかお腹を押さえて机に突っ伏す。


「ひー、あは」


 呼吸を整えているのか「ふー」と深呼吸する音が聞こえて落ち着いたのか顔を上げてこっちを向く。


「ひ、ひひ、あははは」


もう指で口角を上げたりしているわけではないのだが、顔を見合わせただけでフラッシュバックするのかまた笑い始めてしまう。数分間それを繰り返してやっと落ち着いたのか顔を見合わせても笑わなくなった。


「確かに口角上げると変だね」

「そうだろ、それに今みたいに自然に笑ってる優の笑顔が好きだから」

「えへ、じゃあ無理しないで笑うね」


 変な声を上げて照れる。


「それが良いよ、それと母さん最後にお風呂入るだろうから温かいうちに入っておいで」

「分かった!じゃあ行ってくる!」


 そう言って机の下をごそごそと漁りだす。何をしているのかと思っているとパジャマを取り出して部屋から出ていく。こっちを向いて、


「じゃあ後でね」


 手を振ってドアを閉めて出ていく。下の階に行くだけなのに大袈裟だな。


「はあ」


 ごろんと床に転がって天井を見上げる。優ってこんなに可愛かったか?笑顔が好きって言われたから笑顔の練習してたとかヤバいだろ。優はぶりっ子とかじゃなく、天然なのかおつむが足りていないのか理由は分からないがああいうことを平然とやってくる。自分に対してだけなのかもしれないけど。ごろごろと転がりながら改めて優とキスしたことを思い出し優が彼女であることを実感する。それとともに階段でキスをせがまれた時の顔を思い出す。


「あれはなんだったんだろう」


 考えてもよく分からず、優の事は何でも知っている気でいたが自分の知らない優が居るのかもしれないという結論に一応至った。分からない事を考え続けても仕方ない。転がるのをやめ大の字で寝転がると足に布のような物が触れる。


「うん?なんだ?」


 足は机の下にあって、上半身を起こして机の下を探ってみると布地の物を掴む。そのまま机の下から出

し水色の布を広げる。


「うわ、下着じゃん」


 飾り気のないパンツが出てくる。さっきパジャマと一緒に持って行くときに落としてしまったのだろう。初めてこんなに間近で女の子のパンツを見た。匂いとかって・・・いやいや、変な考えに至る前に優に送り届けよう。立ち上がり部屋を出て母にバレないように階段を降りる。そっとリビングの方を見るとまだテレビに釘付けなのか気づかれない。バレたら一々面倒くさいのは目に見えている。

 簡素な脱衣所のドアの前に着く。まさかまだ服を脱いでたり風呂から出たばかりだといけないのでノックをするが返事はなくドアを開けると中から鼻歌が聞こえてくる。気づかれていないなら置いておくだけで良いかと思ったが、知らないうちに自分の下着が思っている場所と違うところにあったら疑われてしまうのは自分なので声をかけることにした。


「優、パンツ忘れていったから置いとくよ」


 中で「ざばん」と湯船から出たのが分かる音がして、風呂のドア越しなのでなんとなく優が立っているのが分かる。


「あ、ありがと!適当に置いといて!」


 早口で言う。


「じゃあパジャマの上に置いとくから」

「考くん変なことしてないよね!」

「してるわけないだろ!」


 即座に答える。そんなこと考える前に持ってきた。


「匂ったりも?なめたりも?」

「するわけないだろ!もう部屋に戻ってるからな」


 そう言って猫をモチーフにしてある青いパジャマの上に置き、脱衣所のドアを閉めて出る。そんなに俺は変態的な事をすると思われていたのか、ちょっとショックを受けながら部屋に退散する。部屋に入って優のさっき言った言葉のせいか悶々としてしまう。


「反省文でも書くか」


 仕方なく気を紛らわせるために書き始める。




「ただいまー」


 まだ乾いてない濡れた短い髪をバスタオルで拭きながら、さっき脱衣所で見た服の至る所に猫の記されたパジャマ姿の優が帰ってくる。パジャマ姿なんて初めて見たのでついつい見てしまう。視線に気づいたのか、


「考くんさては私のパジャマ姿に見とれてるね」


 腕を前にやってセクシーなポーズを取ってくるのだが、胸のない優がやってもなにも強調されていない。


「見とれたっていうか可愛いなって」

「えー、セクシーじゃないの?」


 優の低い身長と可愛いが幼い容姿ではとてもじゃないがセクシーは無理がある。なんてことは口が裂けても言えないので、


「どっちかっていうと可愛いかな」

「まあそれでもいいけど」


 ぴょんぴょん跳ねるように移動して優の持ってきたリュックを漁り始める。なにをしているのかと聞こうとすると、優の手にドライヤーが握られていた。コンセントに差し込んでからあぐらをかいている股の間に座ってきて優がすっぽりと収まる。


「考くん昔みたいに乾かして」


 手に持っていたドライヤーを手渡される。ドライヤーのスイッチを入れて優の髪を乾かし始める。髪がなびく度にシャンプーの良い香りがする。


「考くんは最後に乾かしてくれたのいつか覚えてる?」


 小学生の頃は孤児院に居るのが嫌でよく泊まりに来ていた。


「中学くらいの時じゃなかった?確か学校の帰りにいきなり雨降ってきたんだっけ?」

「そうそう、ちゃんと覚えてるんだね。その時考くん私の髪乾かしながらなんて言ったか覚えてる?」


 思い出そうとするも一つも出てこない。今思ってることを代わりに言う。


「うーん、良い匂いがするとか?」

「そんなに良い事言ってたら掘り返さないよー」


 てことは失礼なこと言ったのか。


「なんだろう、思い出せない」

「もう、あの時はね、猫を乾かしてるみたいって言ったんだよ」


 もう亡くなったがその頃猫を飼っていたせいかもしれない。


「それは滅茶苦茶失礼だ」

「ほんとだよ!今の私なら怒ってたよ」


 なんて言いつつもその声には一切の怒気は含まれていない。


「考くん」

「うん?」

「今の私はどう?」

「いま?」

「まだ猫かな?」


 先ほどよりもトーンの低い声で聞いてくる。


「彼女になれたかな?」

「そんなの、彼女に決まってるだろ」


 そう言いながらわしゃわしゃと頭を撫でる。


「ちょ、完全に動物扱いじゃん!」

「こうでもしないとなかなか乾かないんだよ」


 手を緩めながらそんなことを言うと、あぐらに座っていた優が自分の方にもたれかかってきて思わず手を止める。、


「もっと時間かけて乾かして」


 もたれかかったまま自分を下から覗き込むようにねだるような目線で言わる。


「分かった」


 最初の様に丁寧に髪を乾かし始める。乾かしやすい上や横を時間をかける。時間をかけたと言っても短いのでそれほど時間はかからなかった。気持ちいのか乾かしてる間優は静かにしている。最後に後ろ髪を乾かそうとするがもたれられているせいで上手く乾かせない。一旦体を起こしてもらおうと声をかける。


「優、ちょっと頭上げて」

「・・・」

「優?」


 優の顔を覗き込むと寝息を立てもたれかかったまま器用に寝ていた。さっき静かなのは眠かったからのようだ。お風呂上りに眠くなるのはよくわかる。起こさないように手に持ったドライヤーを机の上に置き、もたれかかっている優の体をそっと床に寝かす。気持ちよさそうに寝ていて全く起きる気配はない。このまま寝かすと風邪を引きかねないので自分のベッドに移したいのだが、持ち上げると起こしてしまいそうだ。


「どうしよ・・・」


 優のぷにぷにとしたほっぺたをつつきながら考えるが思いつかない、ここまで触って起きないなら抱き上げても多分大丈夫だろう。優の膝と腰辺りに手を入れてお姫さまっだこで持ち上げられるように準備する。


「せーの」


 足に力を込めて持ち上げるが優の軽さに高く上げ過ぎそうになる。想像していたよりも全然軽い。低い身長や優が気にしているから何処とは言えないが小さい事を考慮しても軽い。痩せすぎているように見えないのだが、もしかしたら寮でのご飯が美味しくないから栄養が足りてないのか、なら好きなだけ夜ご飯を食べさせてあげればよかったかもしれない。一度ちゃんとご飯を食べてるか京に聞かないと。優が寮で暮らし始めて2年目にしてやっとそんな事を気にかけ始めるなんて本当に情けない。


「そーっと」


 口に出しながら起こさないようにベッドの上に降ろす。低めのベッドにしておいてよかった。


「う、うーん」


 起こしてしまったかと思ったがそのまま寝息を立て始める。ベッドで寝ている優の姿に身長何センチくらいなんだろうと気になる。高校に上がった時に何気なく聞いたら拗ねてしまってそれから聞けていない。あれから伸びたように見えないし150無いくらいかな。京は170くらいで優と並んでると下級生にしか見えないんだよな。自分は177くらいだから手を繋いで歩いてたらもしかしたら親子に見えるかも。そのうち聞いてみよう。

そんなことを考えてから忘れずに布団をかけて部屋から出る。優と一緒に寝るつもりは最初から無かったので母に父親の部屋で寝ることを伝えに下に降りる。母は風呂から上がったのか下着姿でリビングでソファーに座りビールを飲んでいた。


「父さんの部屋借りていい?」

「なんで?」


 酒を片手にこっちを向く。机の上には酒のつまみに柿の種が散らばっていた。


「優が俺のベッドで寝てるから、父さんのベッド借りたいから」

「えー、優ちゃんと寝なよ」

「嫌だよ」


 昼に寝たせいで目が冴えすぎてすぐに寝れないだろうし、絶対一緒に寝れば我慢できなくなるのは目に見えている。それに最初はお互い同意のもとでそういう事はしたい。


「どうせ優ちゃんが寝てるから襲いそうになるとか、2人が分かってる状態じゃないとセックスしたくないとかでしょ」

「セックスっていうんじゃねえ」

 

 キスの事も当てたしさすが自分の母親だ。てか生々しい言い方をしないで欲しい。


「交尾のほうがいいの?」

「・・・セックスの方で良いです」


 さっきから顔がにやにやし続けていて鬱陶しい事この上ない。


「あー、広司さん帰って来ないかな」

「帰ってくるの来月だっけ?」

「そうそう、優ちゃん見てたら娘が欲しくなっちゃった」


 そう言って酒をあおる。こんな話を平気で息子にしてくるのは年がまだ若いからなのか、酒のせいなのか、それとも馬鹿なのだろうか。


「でさ父さんの部屋借りるよ」

「ええよ、だけど母さん間違えて襲っちゃいそう」

「冗談よしてくれ、会話が汚すぎる」


 とても息子と話す会話ではない。関西弁もちょっと見え隠れしているのでこれは酒のせいだと思う。


「避妊具はベッドの横の引き出しにあるからね」

「使わないけどありがと」

「生はだめよ」

「分かった。じゃあおやすみ」

「おやすみー」


 もうなんでもいいから早く会話を終わらせたかった。階段を上がり自分の部屋の隣の父の部屋に入る。単身赴任であまりいないせいかベッドと机、本棚以外の余計な備品はほとんど何もない。ベッドに腰掛けると母が言っていたナイトテーブル的なものがある。

 父と母の夜の営みになんて一切興味ないが実物を実際に見たことがないので気になってしまう。引き出しに手をかけて思い切って開ける。


「うわあ」


 思わず声が出る。確かに避妊具は入っていたがそれ以外にもいろんな物が入っていた。


「最悪だ。見なきゃよかった」


 父と母はなんてもの使ってるんだ。だめだ、もう忘れて寝よう。そう思いベッドに潜ると昼寝したのが嘘のように眠りにつけた。


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