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痣と笑顔

「いった!」


 顔に強い衝撃を受けて目を開けると何故か寝始めた時は優の顔があったところに足が来ていた。ああ、蹴られて目が覚めたのかと理解する。


「昔からだけど寝相悪いな」


 もう寝れそうにもないので体を起こすと、足元でよだれを垂らして気持ちよさそうに寝ている優の顔が見える。そして寝転んでいるときには気づかなかったがスカートが捲れあがって細くて綺麗なスラっとした足が覗いていた。優がベッドにダイブした時にパンツが完全に見えた時よりも、スカートからちらりと覗かせている太ももにエロさを感じてつい見てしまう。脚フェチとかそういう訳ではないのだが男ならこういう時、誰でもついつい見てしまうだろう。


「うーん」


 特に足に触れることもなく5分程眺めている。流石に直接触れるのは気が引けるけど優にこういう気持ちを抱けるんだと分かって不思議な感じだ。こうなってくるとスカートもめくりたいという願望が出てくるが、そこまでやると人としてダメだと思いいい加減ベッドから降りる。外が暗いなと思って時計を見ると6時を指していた。5時間も寝ていたのか。優は依然起きる気配がないので起こさないように電気を消して部屋を後にする。

 階段を下りるとキッチンの方から「トントン」と子気味よく料理をする音が聞こえて、帰ってきてるのかとキッチンに入るとシチューの良い香りがして思っていた通り母が料理をしていた。


「おかえり」


 その声で気づいたのか母は料理をしていた手を止めてこちらを向いて、


「ただいま、優ちゃんはまだ寝てるの?」

「うん、ぐっすり。寝てることなんで知ってるの?」

「5時ごろに帰ってきて、2人のこと呼んだんだけど降りてこないから見に行ったのよ。そしたら抱き合ったまま寝ててね」


 ちょっとニヤニヤしながら話してくるのが鬱陶しい。それに部屋に勝手に入ってくるのはやめてほしい。


「手は出してないからな」


 キスをして足は眺めたがそういうことはしていない。


「服着てたし分かってるわよ。どうせキスくらいしかしてないんでしょ。それよりその顔の(あざ)はどうしたの?」

「痣?」


 母が引き出しから手鏡を取り出して渡してくる。受け取って顔を鏡で見ると、


「うわ、なんだこれ」


 よく見なければ分からない程度に頬のあたりに青痣ができていた。


「心当たりないの?てっきり優ちゃんに迫って殴られたのかと思ってたのに」

「どんだけ必死に迫ったんだよ」


 あの優が自分を殴るなんてよっぽどのことをしない限りないだろう。告白させたことに関してはよっぽどのことだから一度しっかり謝るべきだと思うが。

どうして痣があるのか再び料理を始めた母の姿を見ながら考えるが、優の寝顔とか柔らかそうな太ももの事しかまともに思い浮かばない。しばらくしてふと思い出して母に言う、


「寝ぼけた優に蹴られたからかも」


 母は手を止め後ろを向くことなく会話を始める。


「あはは、見に行った時は抱き合ってたのによく短い間にそんなことになったわね」

「あー、確かに。起きたら顔じゃなくて足があったからびっくりしたよ」

「そんな痣ができる威力で蹴られたらすぐに思い出すと思うんだけどねえ」


母が言いたいことは分かる。思い出せなかったのはじっくり見ていた足が記憶のほとんどを埋め尽くしていたせいだが、あんまり痛みを感じなかったのは寝ぼけていたせいかもしれない。


「5時間も寝てたから寝ぼけてたからかも」

「あんた達そんなに寝てたの」


 表情は見えないが驚いた声が聞こえる。


「お互い疲れてたから」

「まあ、一番疲れたのは優ちゃんだろうけどね」


 その通り過ぎて胸が痛い。


「あんまり優ちゃんに負担かけちゃダメだよ」

「分かってるよ」

「ならいいけど、ご飯作り終わったから優ちゃん起きてたら呼んできてくれる?」


 そう言いながら3人分のお皿を用意してサラダを大きな皿に移している。俺も呼びに行くために立ち上がる。


「分かった、シチュー?」

「うん、優ちゃん好きだったでしょ」

「前に食べたがってたから喜ぶと思う」


 寮の生活ではそんなに美味しいものは出ないらしく、よく母の手料理をお昼休みに分けていたがシチューまで持っていくことはできなかった。

 キッチンを出て階段の一段目を上がろうと足を上げると2階から扉の開く大きな音が聞こえる。優が起きたのかと思って上げた足を降ろすと、勢いよく走ってくる音が聞こえ階段の上にそのまま飛び降りてくるのではないかという勢いで優が現れる。優は2階から自分を見つけたのか階段を走り下りてそのまま立っている自分に飛び込んでくる。飛び込んできたというよりも容赦なく突っ込んできた優の体を支えきれず後ろに倒れてしまう。


「がはっ」


 背中を打ち付けて一瞬激しい痛みが襲う。上に乗っている優をよけようと、


「優ちょっとよけてくれない?」

「うう、ひぐ、う、ひぐ」


 優は泣いていた。まさかどこかに体をぶつけたのか。


「大丈夫?どっか痛めた?」

「ち、ちがう、また考くんが居なくなる夢見て、うう」


そんなことで泣いていたのか。でも「また」って?

顔を上げて真っ赤にした目で聞いてくる。


「考くんは私を捨てないよね?どっかに行っちゃわないよね?」

「大丈夫だよ、優のこと捨てないよ」


 落ち着かせる様に頭を撫でる。これで落ち着くかは分からないが昔から事あるごとに撫でていた。それが良かったのか自分の言った事で落ち着いたのかは分からないがすぐに泣きやむ。


「あんた達なにやってんの!」


 大きな音に気づいたのか母がキッチンから顔を覗かせている。


「あー、優が走って降りてきて足滑らせたんだ」


 夢が怖くて泣いてしまった、なんて高校生にもなって言われるのも恥ずかしいだろうと思い適当な嘘をつく。優もそれが分かったのか、


「シチューの良い匂いがするからつい走って降りてきちゃって」


 その言葉に母は嬉しそうにする。昔から知っているだけあって母の扱いが上手い。それによく即座にシチューを作っていると分かったものだ。


「あら、そうだったの。大きな声出してごめんね。早くこっちにいらっしゃい」


 母はまたキッチンの方に消えていき、自分も立ち上がろうとするが優は一向に自分の上から降りようとしない。


「優が降りてくれないと立ち上がれないんだけど」

「考くんキスしよう」

「え?こんな」


 と言いかけると自分の答えも待たずに俺の頬に手を当てて唇を重ねてくる。


「ん、ん」


力を入れて押し返せばやめさせることも出来るだろうがさっきの優の姿を見ていると安易にそんなことをすれば傷つけてしまいそうでできない。そんなことを考えているとすぐに唇が離れ頬を撫でられる。


「はあ、考くんはちゃんとここに居るんだね」


 今まで見たことのないようなうっとりとした表情を一瞬浮かべて頬から手を離して自分の上から降りる。


「早くご飯食べに行こう」


 すぐにあの表情は幻だったのだろうかと思わせるようないつも通りの笑顔を浮かべ手を差し出してくる。その手を掴んで立ち上がるとそのまま引っ張れるようにキッチンに向かう。中に入ると3人分のご飯が準備されていて母が既に席についていた。


「2人共お昼ご飯食べてないからお腹空いてるでしょ、ほら早く座って食べましょう」

「そういえば食べてなかった!美味しそう!」


 手を離して嬉しそうに席に座る優の姿はいつも通りでさっきの優の姿が嘘みたいだ。


「ほら、考くん早く座ろうよ」

「ああ」


 突っ立ている自分に座るように促され優の横の椅子に座る。母が前に座っていて気持ちとしては面接官に質問される前みたいだ。俺が座るのを確認して母が手を合わせる。


「じゃあ、いただきます」

「いただきます!」

「いただきます」


 俺と優も手を合わせて続くように挨拶をしてスプーンを手に取り食べ始める。


「すごく美味しい!やっぱ照ちゃんのシチューは最高だね」

「久しぶりに作ったんだけど喜んでもらえてよかったわ」


 母が優に考くんのおばちゃんと言われたのが嫌だったのかいつのまにか母の下の名前の照代から照ちゃんと呼ばせていた。


「優ちゃんはこんなに素直なのに孝一はなかなか美味しいって言わないから」

「美味しいよ」


不愛想に答える。美味しいけど照れくさくてそんなに毎回言ってられない。


「はあー、心が籠ってないのよね」

「考くん恥ずかしがり屋だから」

「放っといてくれ」


 図星をつかれて余計に恥ずかしくなる。高校生の息子が母親の料理を毎回の様に褒めちぎっている方が異常だ。


「そんなことより2人が付き合うなんて思ってなかったわ」


 あまりの急な話題のへんかんにむせそうになる。最初からこの話をしたかったのか。優の方を向くとちょっと恥ずかしそうにしている。


「てっきりお互い恋人になるような好きじゃないと思ってたのにねえ」


 にやにやとこちらを見ている姿は完全に大阪のおばさんだ。母は続けて全く遠慮することなく、


「優ちゃんは孝一のどんなところが好きなの?」 


質問になかなか答えられず恥ずかしそうにもじもじしいる優を愛でるように母は見ている。答えることが決まったのか顔を赤くして、


「えっと、優しいところ」

「優ちゃんは本当に可愛いわね、娘にしたいくらいだわ。ところで孝一は優ちゃんのどこが好きなの?」


 聞かれるだろうと予想はしていた。具体的にどこが好きかといざ聞かれると難しい。優という存在自体が自分にとって欠かせないものでそこにいることが当たり前という感じで、全部好きなのだ。優の方を向くと不安そうにこちらを見ていて迂闊な事は言えない。


「ほら、どこが好きなのよ」

「笑った顔とか・・・」


 親の前でこんなこと言わされるのは苦痛でしかない。


「中学生みたいな答えね」

「そんなにすぐ具体的に思いつかないんだよ」

「えへへ、笑顔かー」


 でれでれと嬉しそうにしているので良かったと安心する。その後も嬉しそうにしている優と母が盛り上がって会話をしていた。しかしさすがの母も今日の告白の事は触れない方が良いかと思ったのか最初に2人の好きな所を聞いた以外は無難に他の話をしていた。




「ごちそうさまでした!」


 シチューを3回もお替りした優の明るい声で食事が終わる。4回目のおかわりをしようとしたところで流石に止めた。決して皿が小さい訳ではないと思うのだが。先に食べ終わり皿を洗っている母から、


「もうお風呂沸いてるから好きな時に入りなさい」

「ありがとう」


 優は今食べ終わったところだし先に自分から入ると言おうとする前に、


「2人で入ってもいいわよ」


 冗談っぽく言う母の声が聞こえてくる。明らかに自分をからかって遊んでいるのが分かる。


「入らないに決まってんだろ」

「え?入んないの」


 横から母には聞こえないくらいの驚いた声を優が上げる。いや小学生の頃は入ってたけどもう高校生だぞ。


「入るわけないだろ」

「わ、分かってたよ!もちろん冗談だから!」


 大袈裟に顔の前で手を振る。さっきの声はどう聞いても冗談で出た声ではないと思うのだが。


「じゃあ俺から先に入るから」


 そう言ってキッチンから出て廊下歩き脱衣所で服を脱ぐ。優は深く考えずに一緒に入るなんて言ったんだろうけど入ったら絶対我慢できなくて襲ってしまうに決まっている。足見てるだけでも耐えられないって言うのに。それでもついつい優の裸を思い浮かべてしまう。


「ちょっと風呂で頭冷やそう」


 それにあまりに食事中は優がご機嫌で忘れていたが階段の前であんな風になったのもよく考えないと。結局心を落ち着けて考えているうちに30分も風呂に浸かっていた。


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