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ファーストキス

「ただいま」


 玄関を開けて靴を脱ぐ。少し遅れてから、


「おかえり、帰ってくるの早くない?」


 母の声がリビングから聞こえてくる。母は関西出身で高校の頃関東に引っ越してきてそこで父と出会い、大学の頃出来ちゃった結婚をしたらしい。そのせいでまだ年は37と若い。父の方の親に産むことをかなり反対されたらしいが土下座をして頼み込んだらしい。そのお陰で俺が居るのだから感謝しないといけない。

 謹慎(きんしん)の事を母に報告するためにリビングへ向かうとソファーで寝転んでいる母が居た。


「謹慎になっちゃってさ」

「ほんまに?喧嘩でもしたん?」


 ソファーから体を起こして興味津々に聞いてくる。その姿は実に俺の親らしい。


「優が俺に屋上から告白して、2人とも謹慎になった」

「なんでお前から告白してないねん」

「いや、それはちょっといろいろあって」


 普段は関西弁ではないがこういう時だけ関西弁でまくし立ててくる。まさかそこを突っ込まれるとは思っていなかった。母親が詰め寄ってくる。とても子供を産んだ母親とは思えない綺麗な顔をしているがこういうき中身はチンピラと変わらない。


「ちゃんと答えんかい」

「実は・・・」


 自分がやったことを正直に話す。ここで嘘をついて優が来た時にバレてしまったら怒られることは分かっている。母は大きなため息をつく。


「はあ、ほんまに顔だけはまともに産んだのに、やることときたら親が親なら子も子や」


 いや親はあんただろ。


「それで優ちゃんはどこにいるん?」

「優なら寮に荷物取りに行ってる」


 そこでまたため息をつく。あんまりため息をつくと幸せが逃げると言ってしまいそうになるのを止める。流石に殴られたくない。


「広司さんも気が利かないけどあんたにもやっぱり遺伝してるんだね」


 広司とはうちの父親で単身赴任でしばらく家に帰っていない。


「ほら、カバン置いて優ちゃんの事迎えに行ってきなさい」

「え、でも言ってる間に来ると思うけど」


 三度目のため息をつく。


「あんたはいつも一緒に居るから分かんなくなってるかもしれないけど、そういうことされるだけでも嬉しかったりするの」


 いつの間にか母は関西弁ではなく真剣に話していた。


「そういうもん?」

「そういうもん、だから早く行け」


 リビングから俺を押し出して玄関に向かわせる。そんなに俺って気が付いてないのかな、なんて思いながら靴を履き終わると。


「じゃあ母さんは優ちゃんのためにいろいろ買ってくるから夕方まで帰らないから、2人で好きなことしてなよ」


 そう言ってカバンを持った母が自分と一緒に家から出る。


「いやそういうことはしないから」

「ちなみに広司さんは告白したその日に手出してきた」


 母と父のそんな話聞きたくなかった。てか父さんどんだけ手出すの早いんだよ。


「はあ、2人の子供を見ることになるのはいつの日になるのやら」


 そう言いながらママチャリにまたがって俺と反対の方向に走っていく。住宅街なのに誰かにこんな話聞かれたらどうする気だ。

 母が遠くなっていく姿を見てから自分も寮に向かって歩き始める。優がいつも俺の家まで来てくれていたからこっちに向かって歩くのは久しぶりかもしれない。家から少し歩いた一つ目の角を曲がったところで優が突然視界に現れる。大きなリュックを降ろしてその上に座っていた。


「おお、びっくりした。てかなにやってんの」

「重たくて疲れちゃって」


 優が小さいのもあるが、優の三分の一ほどありそうなリュックを背負っていたせいか汗をかいて肩で息をしている。リュックの柄は今どきの女子高生が背負うものなんかじゃなくて登山で見かけるようなしっかりした物だ。


「ふう、休憩終了!」


 リュックの上から降りて背負おうと伸ばす手を掴む。びっくりしたのか「うえ」っと変な声を上げて俺の方を向く。


「俺が持つよ」

「重たいけど良いの?」

「良いよ、優に持てるくらいだしそんなに重くないだろ」


 リュックを持ち上げようとするが思っていたよりも重く肩にかけるのに必要以上に力がいる。どんだけ詰め込んできたんだろう。


「大丈夫?」


 思っていることが分かったのか聞いてくる。


「全然大丈夫。早く家まで行こう」

「うん、今日はなんか気をま、気を回してくれるね」


 気を回すというのが言いにくいのか一度噛む。


「そんなに普段気付いてない?」

「うーん、結構ついてないかも」


 そう言ってお互い歩き始める。てかそんなに気付いてなかったのか、こういうのって自分じゃ分からないんだよな。母さんに感謝しないと。


「ねえ、考くん手つなごう」


 歩き始めてすぐに左手を出して言い出す。だが家までちょっとの距離しかない。それなのに繋ぐ意味なんてあるのかと思ってしまう。いやこういうところが気が付かないと言われるところだ。


「うん、すぐそこだけど繋ごうか」


 そう言いながら手を繋ぐ。すぐそこは余計だったなと思ったが優が嬉しそうにしているし良いか。本当に短い距離を歩いて家の前に着く。門を開けようと手を離そうとするが優の手は握られたままだ。


「優?ついたから離してくれないと」

「ああ!そうだよね、ごめんね!」


 慌てて手を離す。


「ぼーっとしてたら危ないよ」

「そ、そうだね、気を付ける!」


 元気な声で返事をしてくれる。優の話してくれた方の手で門を開き鍵をかけていない玄関のドアを開いて、座って靴を脱ぐ。優も横に座ってきょろきょろ辺りを見ながら靴を脱ぎ始める。久しぶりに来て緊張しているのだろうか。

靴を脱ぎ終わって優を待つ。待っていることに気づいたのか、


「ごめん、もう脱げるから」

「急いでないからゆっくりでいいよ」


 俺がそう言ってすぐに靴が脱げて優は敬礼のポーズをしながら


「無事に脱げました!」

「よかった!」


 俺も敬礼して頭の悪いやり取りをしてから2階に上がる。俺の部屋は階段から最も離れた部屋のドアを開けると優が俺より先に入っていく。


「考くんの部屋久しぶり」


 玄関の時と同様にきょろきょろと部屋を興味深そうに見始める。久しぶりなのは家に来ていなかったのだから当たり前と言えば当たり前なのだが。

リュックを扉の邪魔にならない所に置くと両肩がふっと軽くなる。優にこれを持たせ続けなくてよかった。


「私変わってるところ分かっちゃったかも」

「どこ?」


 前と変わらないように真ん中に低い机があり、それとは別に扉のよこに勉強机が置いてあって本棚の近くにベッドが置いてある。

 優は探偵みたいにゆっくりと歩いて気付いた場所に止まる。


「ここだけ変わってる!」


 そう言って、制服のスカートがふわりと宙に舞いパンツを見せながら背の低いベッドにダイブする。もう少し恥じらいを持ってほしい。


「よく分かったな、ベッドだけ古くなったから買い替えた」


 小学校の頃から使っていて流石に買い替えようという事になり1カ月ほど前に買い替えた。ベッドの高さが低いのは一度寝ぼけて落ちそうになってその恐怖がいつまで経っても克服できないからだ。本当は怖いからもっと早く変えたかったがお金がなかった。


「すーすー、考くんの匂いがする」


 いつのまにか優は布団に顔をうずめていた。そういうのはこっそりやるべきことだと思うんだが。止めようとベッドの近くまで行くと来ていることに気づいたのか怒られる前に顔を上げ起き上がり女の子座りになってこちらを向いて、


「考くん、お母さん居ないの?」

「ああ、今買い物に出かけてて、夕方に帰ってくるらしい」


 ちなみにさっき時計を確認したら1時過ぎくらいだった。優はそれを聞いて少し嬉しそうにする。母親の事を嫌いだったのかと思ったがそうではなく、


「じゃあさ、キスしない?」


 優から出た言葉に戸惑う。こんな事を言われたのが初めてだったのは、付き合ってなかったから当たり前だが目の前の小さな少女と俺は家族みたいに育ってしまったせいでキスという言葉にすごくギャップがある。自分が屋上でした時は話を聞く気配が無かったのと気持ちの高ぶりでやってしまった感は否めない。でも今はただ恋人としてやるってことだ。

 なかなか返事が出てこない俺を見て何とも言えない表情で、


「だめ?」


 下から見てくる優を見てムラっとしてしまう。ああ、俺はちゃんと女として優を見れるんだと安心する。


「いいよ」


 そう言って俺もベッドに乗って隣に座り優の方を向く。お互い顔を見合わせるがいざ目の前にするといつもと違ってすごく恥ずかしい。


「な、なんか恥ずかしいね」

「そうだな、最初のは勢いでやっちゃった感があったしな」


 優も同じ気持ちなんだと思うと少し嬉しい。

屋上でやったのとは違い自分の右手を優の頬に当て何回か触る。柔らかくて温かくて本当にここに居るんだと感じる。


「じゃあやるから」

「うん」


 そう言うと優は目を瞑る。ゆっくりと自分の顔を近づけてそっと優の唇に優しく触れる。優の体がびくっと震えてそっと唇を離す。さっきしたキスと違って決して長くなかったのだが恥ずかしくて優の方を見れない。それでもしばらくして優の方を向くとちょっと照れながら、


「考くんこれがファーストキスだからね!」


 そう言って今度は優が俺に抱き着いて2人で布団の中に倒れこむ。やっぱり屋上でしたキスは嫌だったんだとその時はじめて気づいた。気が付かないって言うのはこういう事か。

そんなことを思う俺とは対照的に胸に抱かれたままの優は言ってくれる。


「考くん大好きだよ」

「俺もだよ」

「本当に大好き」


抱きしめあいながら優の頭を撫でているとお互い疲れていたのかいつの間にか眠ってしまっていた。


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