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変わり始めた関係

すみません書き直しました。

 誰の制止も受けず泣きながら走り出していた。あの小さな少女をすぐにでも抱きしめたい。俺も心の底から好きだと言いたい。グラウンドを全力で走り抜ける。


「おえっ」


 泣きながら走っているせいか上手く息ができず嗚咽が漏れる。だがそんなことはどうでも良かった。昇降口を抜けて靴も履き替えず校舎の階段を全力で駆け上がる。躓いて顔を床にぶつけるが痛みなんて感じない。ただ早く優のそばに行きたかった。屋上のドアの前に着く。


「はあはあ」


 錆び付いたドアを開けると、屋上の真ん中でしゃがみ込んで大声で子供の様に泣きじゃくる優が座っている。


「うえええええええん」


 すぐに優の元まで駆け寄って力いっぱい抱きしめる。だらんとした優の腕が俺を拒否することなく泣き続ける。


「うええええええん、な、なんで、ううううう」

「優、ごめん、俺も優の事好きなんだ」

「うそだあああああ」

「本当だから」


 優は泣き止むどころかますます大きくなる。


「だっで、ずぎなひどいるっでぎいだあああ」

「ごめんそれは嘘なんだ。俺は昔から優の事だけ好きだから」

「うそだああああああ、どうじょうじでるだけだあああああ」

「同情なんてしてない、本当に好きなんだ」

「うそつきいいいい。うわああああん」


 感情が高ぶっているせいなのか全く言葉を聞き入れてくれない。

 抱き着くのを緩めると、優は手で顔を覆って下を向く。


「優、こっち向いて」

「やだあああああああああ」


 嫌がる優の顔の後ろに手を回す。


「優!」


 声に驚いたのか一瞬泣き声が止まり俺の方に顔を向ける。

その瞬間優の唇にキスをする。優の唇はとても柔らかくて泣いていたせいか潮の味がした。3秒ほどして唇を離す。突然されたことに驚いたのか泣き止むが顔が険しくなる。


「なんで、なんでそんなことするの!慰めるためにやるなんて最低だよ!」

「違う!慰める為なんかじゃない!」

「嘘言わないで!好きな人に」


 そこまで言いかけたところでもう一度キスする。


「ん、ん」


 優の手が俺を離そうと力を入れるが、離さないように力を入れて強く抱きしめる。次第に強張っていた優の体も次第に柔らかくなっていく。キスなんて初めての事だからどうすればいいか分からない。ただ離れないように長く長くキスする。

お互い息が続かなくなり抱きしめるのを止める。


「はあはあ、俺が好きなのは優なんだ」 

「じゃあなんで嘘ついたの?私の性格直したいから?」


 自分に原因があるとしか思っていないんだろう。


「私がダメな子だから?」

「違う、優はそのままでいて欲しい。ただ俺の気持ちが伝わらないから優から告白してもらおうと思ったんだ」


 懺悔するように正直に話す。


「優は俺に好きな人が出来るなんて考えてないと思ってて、それでおれ、う、あんなに考えてくれてたの

に」


 そこまで言うと涙がまた出てくる。


「優のことをちゃんと考えれなかった自分が情けない。弄ぶようなことして本当にごめん」


 頭を下げる。殴られようがどつかれようがどうでも良かった。むしろ思いっきり叱ってほしい。でも優はやさしい。


「私こそごめん、ずっと関係が変わるのが怖くて逃げ続けてた、うう」


 優も俺と同じようにまた泣き始める。会話が終わったのを確認してなのかは分からないが教師が来て立つように促される。

 結局泣き止んだのは教師に指導室に連れていかれて30分経ってからだった。




 なぜか自分の膝に座っている優が机を挟んで向かい合って腕を組んでいる50代の生徒指導の教師に言う。


「私が悪いから、考くんには怒らないでください」

「宮下。まず高田の膝から降りろ」


 嫌そうな顔をして渋々降りると、次第に優の表情が曇り始める。


「先生、こんなことを言うのも何なんですけど」

「なんだ」

「多分僕の膝の上の方が話が早く終わると思います」

「うううう、うわあああああ」


 精神的に不安定な優はまた泣き始めてしまう。元々繊細ではあったが俺のやってしまったことで今はすぐにでも泣いてしまう。


「わかった。早く膝の上にのしてくれ」


 隣で泣いている優を持ち上げて膝に乗せる。徐々に泣き止み始める。それを見計らって教師は話し始める。


「まず宮下がやったことは謹慎ものだ」


 優に語り掛けるように話す。


「屋上に入ることは禁止されているし、これからお前たちを真似してやる生徒が出てくるかもしれない」


 それはそうだ、このままお咎めがなかったら行事の度にこんなことが起こるかもしれない。


「だから罰を与えなきゃいけない。宮下分かるか?」


 うんうんと頭を揺らす。


「でも先生は宮下の告白を聞いて高校生が目立ちたいからとか、そんな気持ちでやったことじゃないことは分かった」


 先生は真剣な目で僕たちを見ながら話す。


「だから先生たちは宮下だけに罰を与えたくないんだ」


 優は何が言いたいのかいまいち理解できなかったのか頷くのを止める。


「高田も一緒に謹慎しろ」

「な、なんで!考くん関係ないよ!」


 その言葉に優が立ち上がりそうになるのを後ろから手を回して止める。先生は椅子から立ち上がり僕たちの前に来る、


「宮下落ち着いて聞け」

「落ち着いて聞けるわけ、ふぐ」


 ムキになって反抗しようとする優の口を手で押さえる。


「今回だけは特別に2人で高田の家で謹慎しろ」

「本当ですか!ありがとうございます」


 優ごとめいいっぱいにお辞儀する。先生はきっと優の複雑な家庭事情を知ってくれていたのだろう。


「え、なんで?寮じゃなくていいの?」


 お辞儀した姿勢で聞いてくるので体を起こす。


「優の本当の家は俺の家だろ」

「考くん・・・ありがとう!」


 膝の上で嬉しそうこっちを見て抱きしめてくる。本当に喜怒哀楽の激しい子だ。先生はそんな自分たちを横目に俺に聞いてくる。


「親御さんに電話しておかなくていいか?」

「大丈夫です。うちの親は子供みたいなものだと思ってますから」


 小学生の頃から一緒に居るから、優が孤児院に居ることを嫌がって昔はよく遊びに来ていた。最近はそれもめっきり減ってしまっていたが。


「そうか、先生はお前たちのカバンを持ってくるから大人しくしてろよ」

「なにからなにまですみません」

「先生ありがとう」


 優の言葉に先生は少し照れ臭そうにして部屋から出ていく。先生が出ていって膝に乗っていた優が膝に乗ったまま体をこっちに向けて向かい合う形になる。


「先生っていい人だったんだね、私は怖い人だとずっと思ってたのに」

「俺もそうだと思ってた」


 ただ怖い人かと思っていた。教師はみんな規則に縛り付けるだけだと感じていたがこういうことに理解のある人だったなんて。前に怒られた時は自分たちが勝手に屋上に忍び込んでしまったせいだったが。


「ねえ、考くん目瞑って」

「え?なんで」

「いいから」


 言われた通りに目を瞑る。こういうとき漫画とかならキスとかされるんだろうな。優は絶対にやらないだろうが。そう思って目を瞑って待っているとごそごそと音がした後自分の膝から降りていく。先生に大人しくしておけと言われたのに全くその気がない。そして椅子を引いた音がする。


「よーし、いいよ」


 目を開くと椅子に座って腕を組んだ優が座っている。一瞬なにをしているが分からなかったが気づく。


「ああ、先生の真似か」

「正解!」


 当てられたのが嬉しかったのか笑顔になる。続けて低い声を出して先生の真似を続けるが女の子が出せる声ではなくて変な声になる。その姿に思わず笑ってしまう。


「えへへ、似てるかな?」

「いやー、どうだろう」


 正直全く似てないが似てないと答えるのも可哀そうで濁して答える。


「先生の前でやったら喜んでくれるかな?」


 多分優は先生の事が気に入ったから謎の愛情表現をしようとしているんだろう。


「いやそれは・・・練習しよっか?」

「やるやる」


 俺も先生と同じポーズを取って低い声で先生の真似をする。それがツボに入ったのかゲラゲラと笑い始める。しばらく優と一緒に練習する。


「宮下、お前意味わかるか?」

「高田だけ謹慎に加えて反省文10枚提出しろ」


 扉の方を向くと顔を赤くした先生が立っていた。優の笑い声のせいで来たことに気づいていなかったようだ。


「えーっと、優もできるよな?」

「うん!宮下お前意味わかるか?」


 優の下手くそな物まねをにこやかに見た後、


「高田は30枚反省文を書け」

「ちょっと待ってください、俺は先生が良い先生だと気づいてつい!」

「35枚にしてほしいか?」


 これ以上口答えしないことにした。



 結局先生は俺に30枚の感想文を課した後、持ってきてくれたカバンを渡して生徒が来ないようにと校門のところまで送ってくれた。

校門から出てしばらくしたところで止まって、


「ねえねえ、久しぶりに手繋いで帰ろう」


 優が右手を出して言う。手を繋ぐなんていつぶりだろう。小学生の頃はよく優から手を繋いできていたが高学年になるとそれもなくなって、中学高校と歳を重ねるにつれてべったりと俺にくっつくこともなくなっていた。今でも朝は一緒に登校したり昼休みにたまに優に会いに行ったりするが。

 差し出している右手を掴んで歩き始める。歩幅の狭い彼女に合わせるようにゆっくりと歩く。


「もしさ、恋人じゃない時に考くんより好きな人が出来たらどうする?」

「そうだなー」


 快晴の空を見上げながら考える。もちろん嫌だが家族同然だと思っていた自分にはその恋が成就してほしいとも思う。


「もしそうなったら寂しいけど優の恋が叶うように応援するかな」

「私みたいに告白したりしないの?」


 不安そうな表情をしながら聞いてくる。


「うーん、それで優が悩んじゃうならしないかな」

「でもやらなかったら私が考くんから離れちゃうんだよ?今までみたいに一緒に学校もいけないよ?」


 右手が強く握られ、表情が曇る。


「あー、いや、俺も思いだけは伝えるかもしれない」

「やっぱり考くんもそうなんだ!」


 優の表情が明るい表情へと戻って安心する。


「考君の家に着いたら、寮に荷物取りに行ってくるね」

「ああ、分かった」


 それからは2人でゆっくりと歩き、なんでもない普段の会話をして自分の家の前で優を見送った。


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