告白
「優に告白しようと思うんだ」
「え?まだ付き合ってなかったのか?」
放課後の誰も居ない教室で友人の大平と向かい合って話す。新しい担任の発表もクラス替えも終わったばかりだというのに大平は相談に乗ってくれた。
「付き合ってるわけないだろ」
「いや、そんなの分かんねよ」
「まあ、それで告白しようと思うんだけどどうすれば良い?」
大平は考え始めたのか手を口の前にあてて机を見ている。
「うーん、呼び出せば?」
「どこに?」
「教室とか、体育館裏とか?」
「うーん・・・」
シンプルで悪くないのだが普通に呼び出しても上手く伝えられる自信がなかった。
「ていうか今までも付き合ってたようなもんだろ」
「どこがだよ、ほとんど遊びにも行ってないぞ」
高校に入ってから家に来る回数も減り学校以外で会うことは少なくなっていた。春休みの間は学校もないから2、3回遊びに出掛けたが。
「遊びに行かなくても毎朝一緒に登校してるし帰りは教室の前で待ってる、休み時間まで2人で居る、これは付き合ってるのと変わらないだろ」
「俺にしたら特別な事じゃないし休み時間毎回一緒にいるわけじゃないからな。それに小学校からずっとそんな感じだったし」
休み時間まで毎回一緒に居るほど学校での友人関係を疎かにするつもりはない。
「でも今年で卒業だからちゃんと恋人として付き合いたいんだよ。ずーっと微妙な距離のままだし」
長く一緒に居すぎて感覚がもう家族になってしまっている。恋人として付き合っていきたいが女の子としてちゃんと愛せているのか正直不安を感じる。
「てかさ普通に告白したら付き合えるだろ」
「前に一回やったら私も好きだよって言われたんだけど、恋人という意味じゃなかった」
それのせいで一度ぬか喜びさせられた。大平も2年間俺たちと付き合っていれば優がそういう事に無頓着なのが分かったのか。
「ああ、そういうの鈍そうだよな」
「そうなんだよ、正直優に告白する自信がないわ」
机にだらんとうつ伏せになる。そのまましばらく何かいい方法は無いかと考えていると、
「それなら向こうから告白してもらえば良いじゃん」
大平の提案に体を起こす。大平は続けるように、
「俺が孝一に好きな人が出来たって相談受けたから、もしかしたら付き合っちゃうかもしれないから早く告白した方が良いとか伝えるのどうよ?」
大平らしからぬまともな考えに思わず感嘆の声が漏れる。それに気づいたのかちょっと自慢げにしている。
「いい考えだと思うけど、優がそんなこと考えたことなさそうだからちょっとどうなるか不安」
「確かに」
「まあ、それくらいやった方が良いかもな」
少しくらい強硬策の方が良いかもしれない。大平は立ち上がって机の横に置いてある鞄を手に取って立ち上がり、
「じゃあ今日の夜にでも伝えておくわ」
「迷惑かけてごめんな、今度なんか奢るわ」
俺も鞄を手に取って続いて立ち上がる。
「それじゃあ可愛い子でも紹介してくれ」
俺が優以外の女の子との接点がないのを知っているから冗談ぽく言ってくる。
「優の基準で良いなら紹介するぞ」
「それは勘弁、危なっかしくて見てらんない」
高校の2年間で何度か問題を起こしているので大平の気持ちはよくわかる。でも小さなころから一緒に居る俺にしたらそれくらいの方が落ち着く。
「ちょっと手が掛かる方が可愛いぞ」
「惚気てんな」
そんな話をしながら帰路についた。
「ふわー、ちょっと遅いな」
あくびをしながら自分の家の前で優が来るのを待つ。いつもは待ってくれているが今日はどういう反応をするか気になってしまい少し早く待っている。それにいつも優に待たせてばかりなので自分が反対の気持ちを味わってみようと気まぐれに思った。
優が現れるであろう方向を見ていても来ないので、暇になってしまい今は空を見上げている。雲一つない快晴でちょうどいい気温で気持ちい季節だなあ、なんて思っていると。
「考くんおはよー」
いつもと変わらない笑顔で挨拶してくれる。
「おはよう」
「待ってくれてるなんて珍しいね」
「優がいつもどんな気持ちで待ってるか知りたくてね」
そう言って歩き始めるがその言葉に驚いたのか少し顔が険しくなる。
「そ、そうなんだ。気持ちわかった?」
「うーん、早く来ないかなって気持ち」
元々待ったりするのは好きじゃないせいか実際に早く来ないかと落ち着かなかった。待つのが好きなんて人も珍しいが。
「ふーん、よくわかってんじゃん」
「優もそんな気持ちなんだ」
そう言うと優の顔が明らかに崩れる。どうしたのかと聞こうとすると。すぐに笑顔に戻って、
「それよりさ春休みの宿題やった?」
その後はたわいもない話をして教室の前で別れて告白なんて素振りはなく、結局さっきのような顔になることは一度だけだった。
「大平休みなのか」
耐震工事のため体育館が使えず校庭での全校朝礼があって皆がぞろぞろと並び始めているのだが大平の姿は見当たらない。てっきり他のクラスにでも行っているのかと思っていたが風邪かもしれない。反応がどうだったか聞きたかったんだが、そんなことを思いながら自分のクラスの列に並んでいると後ろから走ってくる音が聞こえて振りかえると大平が居た。遅刻してきただけのようだ。
「おはよ、伝えてくれた?」
「はあ、はあ、伝えたのは伝えたんだけど、孝一に好きな人ができたから付き合うかもしれないって伝え
たらそこから連絡付かなくなっちゃて。お前にそう伝えようとしたら繋がらないし」
「ああ、いまスマホ修理に出してるんだ」
春休みに優にスマホを壊されてしまって、もうすぐ修理が完了して届くと母が言っていた。息を整えた大平が話始める。
「ところで優ちゃんは変わったところとかなかった?」
「ちょっと元気がなかったくらいかな。俺に好きな人が出来たから、とかいう話は全くしてない」
一度だけ顔がゆがんでいたのが気になったがそれ以外には気付いたことは無かった。
そんなことを話しているとどこからか『屋上に生徒がいるぞ』という声が聞こえてくる。嫌な予感を感じながらも孝一と校舎の屋上を見ると優ちゃんが立っていた。しかも拡声器を持っている。
突然の事にみんなが静かになったところで拡声器にスイッチを入れて話し出す。
「私は孝くんの事がだれにも負けないくらい好きです。誰よりも考くんの事が分かる自信があります。考くんは家族のいない私を小さいころから家族みたいにいつも見守ってくれて、優しくしてくれて、悪いときにはちゃんとしかってくれる。家族に捨てられて、イジメられて友達にさえも見捨てられたのに考くんだけは唯一見捨てないでくれました。そんな考くんに1人だった私は救われました。たくさんの幸せを教えてくれた考くんが大好きです。本当に感謝しかありません。考くんありがとう。でも考くんはほかの人が好きなことを知ってます。もし考くんに好きな人が出来たら、そんな都合の悪いことは考えないようにしてきました。今の関係が壊れるのが怖くて、いつか変わることは知っていたのに。現実から目を逸らしすぎてもう手遅れなんだと気づきました、諦めなきゃいけないんだと思いました。だけど諦めるなんて無理。考くん、こんな私だけど考くんの好きになった人より可愛くなるし、優しくなるから、もう泣かないから、もうわがままも言わない、考くんの理想の人になるから、考くんのこと世界一好きだから、だから、わ、わたじとづぎあってぐださい、わだじを、え、えらんで、ひどりに、じないで、ううう、ひく」
自分の目に涙が流れていた。