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変わり始めるなにか

『今日はありがとう』 


 絵文字もスタンプも使わず可愛げのない文章をスマホに打ち込み京に送る。画面には送られた時間である8時15分と既読、という文字がすぐさま刻まれる。優はお風呂に入っていて、母から修理から帰って来たスマホを渡してもらった。


『気にしないで、それより優は大丈夫?』


 最初に返って来た返事は優を心配するものだった。


『俺のスマホの京以外の女子全員をブロックした以外は大丈夫』


 冗談のような返信だが本当の事である。

 母からスマホを返してもらい触っていると優が触りに来ようとしてきたので電源を切ったのだが、


「そんなに見せられないって事はやましいことでも隠してるんでしょ」


 という優の言葉に腹が立って、スマホを渡すといつの間にか京以外の女子全員をブロックするという独裁者顔負けの事をしたのでちょっと怒ってしまった。優は久しぶり怒られたのが堪えたのか逃げるようにお風呂に行った。独占欲や不安からした事なんだろうと何となく分かるのだが怒る所は怒っとかないと。


『優らしい笑 あと今日はごめんなさい』


 京が言いたいごめんは突然来たことか、浮気をしないか調べようとした事か、別れ際にした事なのか、どれか分からなくて適当な返信が見当たらず、


『何に対してごめん?笑』


 ちょっと冗談めかして打ったつもりが反対に煽っている様にしか見えなくて送ってから後悔してしまう。それでもすぐに既読は付き、少しの間の後に返信が来る。


『最後にやったこと、混乱させっちゃてごめんって意味!』


 京はきっと好きだという気持ちに俺が気づいて無いと思ってやったのだろう、いやそれも推測に過ぎないから本当の所はどうか分からない。それに対して何と返せばいいのか悩んでしまい数分が経ってしまう。既読を付けたまま放置しておくのはあまり好きではないのだが・・・更に数分経ってしまい頭の中で何と返すのが正解か堂々巡りになる。


『こんな風に謝られても困っちゃうよね笑』


 自分より先に京に返信をさせてしまった事に少し罪悪感を感じる。


『そんな事ないよ、謝られる様な事は何もされてないし』


今度は間髪入れずに返す。本当に謝らないといけないのは自分なのかもしれない。


『そっか、ありがと!嫌われてなくてちょっと安心した』


 京の返信は会って喋るのと違ってどこか可愛らしさを感じるのは、実際に会って喋ると男らしい喋り方のせいだろうか。


『嫌うわけないだろ』

『好きでもないでしょ笑』


 その文字列に思わず指が止まってしまう。嫌いな訳がないしむしろ好きだ。でもそれは友達として、だからそう打たなければいけない。

ゆっくり一文字ずつ指が綴り始める。あの京の赤く染まった顔を見た後だからか指は重苦しく心臓もバクバクしている。

それでもちゃんと言わないと、京はきっと優の唯一の友達のままで居てくれるはずだ。打ち終えて送信ボタンを押すと画面には、


『友達として好きだよ』


 この短い文章で京をどれほど傷つけるのか、落ち込ませるかも分かっている。そして京自身もその言葉を待っているはずだ。もう打ち込んで既読も付いたのだから後は待つだけだ、そう思ってスマホを机に置いていると背中から扉が開く音がしてスマホの電源を切りポケットに入れてそっちを向く。そこにはパジャマ姿の優が立っていた。


「考くん今隠したでしょ」


 何も言ってないし慌てた様子も見せないようにしたのにズバッと言い当ててくる。

「隠してねえよ」

「ほんとにー?」

「ほんとだって、それより風呂入って来るから」


このままではボロが出てしまいそうだと思って優の横を通って部屋から出る。相手にされなかったせいか通り過ぎた時ほっぺを膨らませていたが気にしない。

 いっそ言ってしまうのも手かとは思うのだが関係がこじれるのだけは避けたいのだ。階段を降りるといつもの様にリビングで酒を飲みながら寝転んでいる母に声をかける。


「お風呂お先に入るよ」

「はーい」


右手を突き上げて返事をしてくる。そのまま脱衣所の扉の前に立った所で階段の方を向く。


「こら優出てこい」


 階段の横の何も居ない空間に呼びかけると優がそーっと顔の半分だけを出してこっちを見てくる。


「こっちまで来て」


 手招きするとやっと全身を出して自分の前まで歩いてくる。


「考くんが隠し事してるのが悪いんだよ」


 怒られる前にくるなり不機嫌そうな声と表情で下から睨んでくる。


「いや、してないって」

「嘘つき!絶対してるって分かってるから」


 こうなってしまうと見せなければ優の疑心暗鬼は収まらないだろう。でも今見せて京との会話を見られたら在らぬ疑いをかけられない。

脱衣所の前で謎の睨み合いが続く。


「分かった、じゃあ一緒にお風呂に入ろう」


 最終的に思いついたのは気を逸らすという作戦だったのだが、いくら優でもこんなバカな誘いに乗るわけが、


「入る!」


 手を上げて元気よく答える。優、お前・・・

 何も言えず脱衣所のドアを開ける。中に入ると飛び込んでくるかと思っていた優は意外にも脱衣所の扉の前に立っている。


「あれ?入んないの?」

「うん、服脱ぐの見られるの恥ずかしいから」


 体の前に手をやってもじもじしている優を無視して扉を閉めて服を脱ぎ始める。今更恥ずかしいも何も無いだろ。脱いだ服を丁寧に折りたたんで全部籠に入れてから、風呂場に入り体を軽く洗って湯船に浸かる。それと同時に脱衣所の扉が開く音がしてそっちを見ると優のシルエットが服を脱ぎ始め、思わず目を湯船に戻す。焦っていて考えに至ってなかったが、今からここに裸の優が入って来るのかと思うとどう待って居れば良いのか分からない。とりあえず風呂場の天井を見上げて心を落ち着かせる。

 あー、どんどん頭が真っ白になって脳が溶けていく。真っ白な中でも京からの返信の事が頭の片隅で踊って頭の中を整理させられる。


「考くん入るよ」

 整理していた頭はぐちゃぐちゃとまた乱雑に飛び散り、風呂場に入ってきた優の情報で頭の中は一杯になる。


「どうかな?」

 胸から太ももくらいまでタオルを巻いた優が自信なさげにくるりと回ると、胸は小さいながらもくびれたウエストやお尻のラインが強調されて釘付けになってしまう。


「どうって、どうだろ」

 何て答えたら良いのか分からない。綺麗とか、エロいとかそんな不純な言葉ではとても表現出来ない。まるでそれを見ている事が幻のように感じる。


「何それ、もっとがっつくと思ったのに」

「いや、言葉じゃ言い表せなくて」

「ふーん、まあ良いや」


 自分の言葉を良い様に受け取ってくれたのか表情はどこか嬉しそうである。


「入るからちょっと詰めて」


 片手でバスタオルを抑えてもう片手でジェスチャーしてくるので、体育座りして足元を避ける。


「体洗わないの?」

「もう私さっき入ったから」


 そう言って足を上げて湯船に入って来るので目を自分の腹に向けて見ない様にする。ちゃぽんと両足を浸かり終えて体を浸けるかなと思った次の瞬間、子供のように激しくお湯をまき散らして勢いよく浸かってくる。


「ぷはっ、子供かよ!」


 自分の顔にかかったお湯を手で拭いて、優の方を見るとバスタオルを脱いで生まれたままの姿になって浸かっていた。俺と同じように体育座りをしていて大切な所や胸なんかは見えていないが、そわそわと落ち着かないのかこっちを見ずに横や下をせわしなく向いている。その姿に酷く可愛らしさを感じてしまう。

 きょろきょろと辺りを見回す優を見続けていると目が合い、「にへっ」、と照れたような笑みを浮かべられて耐え切れなくなる。


「優、こっち」


 手でこっちに来いと手招くと、優は手で胸を隠してこっちに来る。自分は足を伸ばしこっちに来た優の柔らかい体を受け止めると微笑む優の顔が目の前に来る。

隠していた手は背中に回されて肌を触れ合わせながら、華奢で力を入れてしまえば容易く折れてしまいそうな優の体をぎゅっと抱きしめる。胸が当たり、耳元にかかる吐息が体を熱くし、裸で優と抱きしめあっているという事実が頭を熱くしていく。




「考くん変態」

「仕方ないだろ」


 抑えようとする心とは裏腹に抱きしめあい続ける事で下半身は否応なしに反応してしまう。


「考くんてロリコンなの?」

「なんでだよ」

「だって私の体で興奮するから」

「好きな人間なら体の成長具合なんて関係ないだろ」


 いい加減に優の体を離そうと両手で押し返そうとするが優は離れる気なんてないのかぎゅっーと抱きしめ続けられる。


「離さないから」


 耳元で囁かれたその言葉にぞくっとする。


「考くんは京ちゃんじゃなくて私の物だから」


 その言葉に背筋が凍り付く。


「知ってたんだ、京ちゃんが考くんの事ずっと好きだって」


 確かに自分が気づいていて、身近に居た優が気付かないはずがないかもしれない。


「だから私を永遠に愛してくれるなら、京ちゃんを一回だけ抱いても良いよ」


 頭で何一つ理解できない単語の羅列に混乱する。京を抱く?なんで?

 優は自分を離して立ち上がり裸体をさらけ出しながら風呂場の扉を開け、


「私ベッドで待ってるから」


 それだけ言って出ていく。あまりの突然の事に理解が追い付かない、脱衣所で着替え始める優の方を見ながらぼうっとする。

やがて脱衣所から出ていったのを確認して風呂場を出る。タオルを取ろうとすると上に自分のスマホが置かれている事に気付き電源を点ける。


『友達としてでも嬉しいよ』


 一つ目のメッセージが画面に現れる、だが2つ目のメッセージに目を疑う。


『一度で良いから私にもチャンスを頂戴』


 優が言った意味を理解し、スマホを握る手が強くなる。




・・・・・・ああ、そうか俺は怖いのだ。京を傷つける事よりも優と自分の関係が変わったのと同じように、周りとの関係が全く別の物になってしまうのが、俺がこの3年間を壊してしまうかもしれない。


読んで頂きありがとうございました

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