プロローグ
「あーあ、やっちゃった」
自分が死んだ事実を咀嚼して出たのはそんな間抜けな一言だった 身内が死んだ時は悲しんだり悔んだりするが、いざ死んでみればなんの感情も沸かない むしろ、妙な清々しさまであった
こっちはこんな感じになってるのか 想像や文献と違うじゃん なんかつまらんな
死者の行き先を決めるのは地獄の裁判であったり神聖な部屋で女神が道を示すイメージがあったが違った 相談するためのカウンターと椅子があるだけで、田舎にある市役所のような雰囲気だった 相談者が邪魔でちゃんとは見えないが職員は多分天使だろう 俺と同じように待っている人は十数人、窓口の数からして30分もしないうちに順番は回ってくる 30分で自分で無くなってしまうという事実に感傷的になる 死んでも動じなかった人間が自分が消える事は嫌なことに少しだけ笑えてきた
もう自分を思い出すことはなくなるだろう なので最後に振り返ることに決めた
名前 宮下健太 享年16歳
2月26日に日本に生まれる 両親健在
幼少期は内気で無口 その性格から友達が少なくいつも一人でいることが多かった
中学に上がり厨二病を患う その時に存在感がないやつから痛いやつにランクアップする
高校生になってからも厨二病は完治しなかったが中学時代のトラウマから人との会話を避けるようになった
自分のプロフィールを簡単に考えてみたが、これ以上考えると死んでいるのに死にそうになるので別の事を 自分が死んだときのことを考えることにした
学校からの帰り道の出来事だった 人といるのが苦手で部活にも入らず友達もいない俺はいつも通り一人で帰っていた
「ん? 随分と濁っているな 今日は」
そうつぶやき、足を止める そこは人通りが少なく木で人の視線も入りづらい公園 そこで厨二病全開で闇の力ごっこすることが最近の日課となっていた
「だが、奴らは運がない 俺のような者の近くにゲートを開いてしまうとはな」
そのような戯言が本気でかっこいいと思っていた自分を殴りたくなる 運がないのはその日課が原因で死んだお前だと思いっきり笑ってやりたい
「負の力が強まっているな そろそろ散らさねばまずいことになるな」
夕方は魔が活性化するという無駄な知識からそのような設定になっていた 嬉々として祓う準備のマネをする
「さて、そろそろ始めるとする―――
「すいません ちょっといいですか?」
その時俺は後ろから声をかけられた 普段の俺ならここでヘタレてまごまごするのだが、邪魔された怒りからか厨二設定を続けてしまった
「なんだ 今いいところだったのだ 邪魔を・・・する・・な」
「あー、邪魔してごめんね 話聞いてもいいかな?」
声をかけてきたのは警察官だった 用件は聞き込みだったが挙動不審の人間に話を聞くってなにを考えていたんだろう
「はい‥‥ あぁ、問題ないが」
一瞬素に戻るか悩んだが、さっきの返答からかやけくそに対応をしてしまった 厨二病患者の考えはめんどくさい
「そう‥‥ ありがとね」
そう答えると警察官は微妙な顔をする 多分聞く相手を間違えたとでも考えていたんだろう だが、すぐに真面目な顔になり質問をしてきた
「実は最近この公園で不審者がいるって通報が多くてね 何か知らない?」
「ここはよく通るが、全く知らんな ちなみに、通報され始めたのはいつから?」
「2,3週間前からだね 危ないから早く帰ったほうがいいよ」
2,3週間前 その言葉を聞いて察する そこで素知らぬ顔をしておけばよかったが残念ながらボッチにそこまでの対応力はなかった
「そうなんですね 忠告ありがとうございます じゃあ僕は帰るんで さよなら」
怪しい変化だった さっきまで痛い言動だった奴が敬語を使えば誰だって疑う
「ちょっと待って 話はまだ聞きたいことがあるんだけど」
警察官が逃がさないように肩を掴んでくる このままでは逃げることができない
「分かりましたよ 話せばいいんでしょ話せば」
投げやりな態度を見て油断した警察官が手を離す
「そうだよ じゃあ聞くけど あーちょっと待って‼」
その隙にもちろん逃げだした そのあとに死が近づいていると知らずに全力で逃げ回った そして十字路で車にぶつかり今に至る
自分で思うのもあれだけど残念な死に方だな
そんな死に方は自分らしいと言えば自分らしいが心残りは警察官だ 俺のせいで懲戒免職とかになってないならいいけど
そんなことを考えていると待ち人数が着々と減っていった 振り返りも無くなったので自分が今からお世話になるであろう天使を見る 大変そうだ 1日に何人捌くかは知らないが人手が足りてなさそうである
天界も大変なんだな やっぱり下が苦労するのは現実と一緒なのか 天使の上司にあたる女神はなにをやってるんだろうな サボりか?
そんなしょうもない事を考える程度には気を緩めていた だが、すぐに気を引き締めることになった 急に周りの景色が変わる 市役所から趣味の悪い執務室のような場所に変わった 辺りを見回すと椅子に座っている女性が・・・いや少女が目に映る さっきの天使と違い神々しさはある だが、とても小さい 10歳の子供にしか見えない
「一応言っておきますけどサボっているわけではないです 業務管理や別の道の提示が私の役割なんです 通常の斡旋は部下の天使に任せているだけです」
「はぁ……。」
女神が若干不機嫌そうに言った それを伝えるためだけに俺をここに呼んだのだろうか というか人の脳内を勝手に見ないでほしい
「んっっ……。 宮下健太さんあなたには特例として2つの選択肢があります」
咳払いをし女神がそう切り出す ちゃんと用事があったらしい だが、この話を聞いてしまったらめんどくさいことに巻き込まれそうな予感がしていた




