第20話「亡国の姫君」
三章です! 一ヶ月でここまで来ました。。。。
引き続きブクマなどよろしくです♪
線路は続くよ何処までも。
そんな歌があったけど知名度のわりに何の曲か知っている人は少ないと思う。
そういう俺もよく知らない。
そも何処で聞いたのかも覚えてない。
なのにそんな歌を思い出したのは目の前の光景ゆえだろう。
だだっ広い、延々と続く砂漠の海。そこには線路のような道標は一切ない。
――ラドロア砂漠。
アルベルノ王国西方、タイタニオ山脈を迂回した先に広がる世界最大の砂漠地帯だ。
俺の故郷である『深き森』とは山脈を挟んでお隣さんということになる。
山一つでこんなにも気候が変わってくるのだから驚きだ。
どうやらイサキウス大陸は北東から、元の世界でいう季節風のような同じ方向に吹き続ける空気の流れがあるらしい。その湿った風がタイタニオ山脈にぶつかることで、マクスウェルは雨に恵まれ、『深き森』が育つ環境が整っていたらしい。
そして雨が降り水を吐き出しきった空気は山脈の反対側へと流れていく。その乾燥した空気が長い年月をかけこの砂漠を完成させたのである。
そう考えると自然ってやっぱりすげぇよなぁ。
そんなすごい自然がむき出しになった砂漠は、元の世界と同じで厳しい環境だ。
当然、そこに生息する魔物のレベルも他とは一線をかく。
魔獣はほとんど住みつかないという時点で、その過酷さは察して余りある。
そんな理由から、この砂漠を横断する商人はほぼいない。
魔物は異常なくらい好戦的だがバカじゃない。
自分が勝ってない相手には手を出さないし、時には群れて襲ってきたり奇襲したり、そんなずる賢さがある。
ゆえに、食べ物や水を大量に運ぶ商人など、彼らからすれば獲物だ。
だから砂漠を渡る場合、海側から大きく迂回する必要がある。それこそ突っ切れば3ヵ月のところを、迂廻路は1年以上かけて移動する必要があるのだ。
一日あれば世界の裏側に行けた元の世界では考えられない。
やっぱりこのあたり魔術があっても異世界か。科学の力は偉大だ。
ともあれ、そんな理由からこの砂漠に踏み入れる人間は少ない。
商人だって霞を喰っているわけじゃない。
襲われて全財産を失うリスクを負うくらいなら四倍の時間をかけてでも迂回するか、そも横断しようとは考えないだろう。
でも、どんなものにも例外というものはあるわけで。
その例外の一つが俺の真下にいた。
「魔物は勝てない相手には襲いかからないだったか」
そりゃそうだろうと、与えられた宿の屋上からそれを見下ろす。
そこにはオアシスに顔をつっこみ喉を潤すバカでかい顔があった。
俺は現在、巨大なカメの魔獣――タリスマンの背に築かれた都市にいる。
いや、正確には商団らしいのだけど、もうこれ商人って規模じゃない。
街、タウン。
そう呼んだ方がしっくりくる規模。
マクスウェほどの広さはさすがにないけど、その四分の一くらいはあるタリスマンの甲羅の上には多くの建物や建ち並んでいる。
工房、教会、ギルド、居住区。
たぶん人が不自由なく一生を暮らせる規模の街だ。
こんなものが山のような四本足を動かし、えっさらおっさら歩いてくるのだ。
魔物でなくても「こいつはやべぇ!」と裸足で逃げだす。
なんでもこのカメ、この商団のまとめ役の女が契約している使い魔なのだとか。
グレイ・アマンダとかいう、見た目は中学生くらいなのに食えない女で、正直あまり関わりたくないというのが本音だ。
まぁ、でも、うん。
俺たちにとって後見人みたいな存在だし、無碍にしないほうがいいだろうけど。
「あ! ウィルくんこんなところにいた!」
と、一人黄昏ているところに、キンキンボイスが聞こえてくる。
ふわりと現れたのはテリアだ。
暑さのためか、いつも薄着なのに、もうそれ衣しか羽織ってないんじゃないの? きわど過ぎんよ! 見えそうだよ! おっぱいプルンプルン!
とか口走っちゃいそうな格好だ。
じつにけしからん、もっとやれ。
「もう! 完治したって言ってもまだ病み上がりでしょ! なんでこんなあっつい炎天下の下にいるのさ!」
「いや、なんだかじっとしてるのが落ち着かなくて」
「ウィルくんは王宮で働きすぎてたんだから、いまくらい安静にしなよ」
「いや、でもさ。みんな大変なのに――」
「安静にして早く良くなる。それが今の仕事だよ」
「……」
「それともウィルくんはボクたちだけじゃ不安かな? 信用できないかな?」
「……その言い方はずるくないか?」
そんな言い方をされたら頷くしか選択肢がないじゃないか。
「ふっふー、女の子はずるいくらいが愛嬌なんだよ」
「はいはい」
ぼーっと黄昏過ぎて、いろんなことを考え思い出し過ぎて。
落ち込んでいた気分が、テリアの軽口のおかげで少し救われた気がした。
やっぱりテリアって、自由奔放に見えて人をちゃんと見ている。
こういうのを年の功っていうのだろうか。たぶん俺たちの中じゃ最年長だろうし。
実年齢的にも、精神年齢的にも。
「ってことでほら! 部屋に戻るよ!!」
「わかった、わかったから耳を引っ張るな! ただでさえ片方欠けてるのに!」
促されるまま屋上を後にする。
室内に入る直前、砂漠特有の乾いた風が、街の喧噪を運んできた。
暑さに負けない快活な声。俺の新教とは裏腹に明るく元気で、未来の希望にあふれていたのだった。
タリスマンの背の都市。
そして現在そこには二つのグループがうまれてしまっている。
元の住人たち、『アマンダの笛吹』。
そして俺たちのようなマクスウェルから逃げてきた難民たち。
一方的に助ける側と、一方的に助けられる側。
二者の亀裂は日に日に増していることを、俺は薄々感じ取っていた。
――マクスウェルの落日。
のちにそう呼ばれたアルベルノ王国首都陥落事件から二週間がたっていた。




