閑話「三姉妹」
ウィルの名前が聞こえた気がして振り返った。
ちょうど廊下の角に消えていくメイドの姿があった。
どうやら噂話だったらしい。
ただ陰険なものではないことは、その表情からうかがえた。
最近、王宮で彼の名前を聞かない日はないように思う。
魔術でフライパンをふるたび姿を変える食材に、多くのシェフが憧れの声をあげていた。
フレイア姉さまとの特訓は、近衛兵すら息を飲むすごさだという。
リリィと街を走り回ればどこからともなく感謝の声が民衆から響き。
師であるアクアでさえ、無口なその口から時々話が零れるほどだ。
彼が来るまで、自分をフレイア姉さまとリリィのおまけくらいにしか見てくれなかった母サテルでさえ、ここ一年はすれ違えば軽く会話するくらいになっていた。
そのすべての中心にウィルが、あたしの使い魔はいる。
彼は頑張っている。
森から突然こんな街に連れてこられて、戸惑うことも多いだろうに頑張っている。
はじめのころはあたしも張り切っていた。
魔人化もできない、魔獣としての格ではガブリエルやエアとは大きく劣る。
そんなウィルだ。
あたしの使い魔ということは、そんな彼らと比べられるということでもある。
きっと苦労するだろうなーと思っていたのだ。
この際だ、はっきり言おう。
ウィルの実力はこの二年で間違いなくあがった。
それこそあたしの想像よりはるか上のレベルにだ。
頭でっかちで実戦経験のない宮廷魔術師どもなんて目じゃない。
たぶん、真っ向勝負をすればあたしだってもう勝てないだろう。
身体能力の差なんて関係ない。
彼の【創作】の飽和攻撃は武人だろうと魔術師だろうと等しく脅威だ。
自分の長所――ウィルなら魔力量と器用さか――を生かした単純な力押し。
それは単純ゆえに対処は難しい。
たぶんこのあたりの考え方はフレイア姉様の影響だ。
二年ま毎日のように一緒に鍛練してれば似ても来るだろうしね。
それでも、ガブリエルがエアに比べれば、まだまだ高すぎる壁がある。
まさに種族の壁――生まれた時に決定した越えられない絶対的な差がそこにはある。
なのに、ウィルは腐らなかった。
それどころか、あっという間に自分の居場所を作ってしまった。
雲の上であるはずのガブリエルやエアの信頼を勝ち取ってしまった。
つけ加えるなら、フレイア姉さまやリリィにも認められている。
あたしにとって、あの二人との関係は辛く苦しいものばかりだ。
もちろん嬉しかったり楽しかったりする記憶もある。
二人はまわりなんて気にせず、同列の姉妹として見てくれていることも知っている。
でも、どんなに頑張っても勝てない、優秀すぎる姉と妹。
どんなに頑張っても、どんなに結果を残しても、「でも二人に比べたら」と言われればそこまでで。あたしが毎日コツコツ積み上げたものを、二人は鼻歌混じりで超えて行ってしまう。
はじめは仕方ないと思った。
人それぞれだと理解もしていた。
でも感情は納得してくれなかった。
その事実が、少しずつあたしを蝕んでいた。
そうしてはじけて飛び出した先で、あたしはあの灰色オオカミと出会った。
今にして思えば、ウィルを使い魔にしようと思ったのは、ある種の八つ当たりだったのだと思う。
ハイウルフとして見れば間違いなく優秀なウィルディー。
でも、他の種族と比べればたいしたことはない。
世界は広い。
彼より魔術を巧みに使う種族はいるし、魔力だって多い者はいるだろう。
生き物としての話しならノウシウスに敵うはずもない。
上を見ればきりはない。
その姿に自分を重ねていたように思う。
一般人と比べれば間違いなく天才肌だけど、本当の天才と比べればたいしたことのない自分。
その置かれた状況に、勝手に似た者同士だと思っていた。
でも違った。
彼は彼なりにできることとできないことを見つけ、できることはさらにできるように研鑽し、できないことは比べられる相手にでも頭を下げて教えをこう。
変なプライドのせいで部屋に閉じこもってうだうだしている自分とは大違いだ。
だから、わかってしまった……気づいてしまった。
姉妹と比べられている。
そのことに劣等感を覚えているのも、周りからの評価に怖がっているのも。
全部自分の弱さが原因だということに。
敵わないなぁと思う。
でも、唯一違うのは、ウィルはあたしにとって届かない壁ではないということだ。
つまり、言い訳はできないということ。
「はぁ、傷をなめ合えるパートナーだと思ったら、まさかお尻を蹴られるとはね」
でも、悪くはない。
生来、あたしは負けん気だけなら負けなし自信がある。
その負けん気であの天才姉妹どもと比べても『見劣りする』程度まで武術も魔術も修めることができたのだ。
その自信も自負もある。
つまり、これがあたしの強みなのだ。
そして今、目の前には……すぐ隣には自分の全力をぶつけられるパートナーがいる。
そのことが、あたしを燃えさせてた。
うん、もっと頑張ろう。
あたしもあたしなりに。
「ミー姉さま!」
と、そんなことを考えていると声と共に誰かに抱きつかれた。
『ミー姉さま』とあたしを呼ぶ人など一人しかいない。
あたしは彼女を優しく抱きしめかえした。
「リリィ、危ないから抱きつくのはやめて」
「はーい!」
あ、このはーいはわかってない時のはーいだ。
天真爛漫といえば聞こえはいいけど、もう十一歳になるのだから落ち着いてほしい。
目を離せばどこかに飛んで行ってしまいそうで心配になる。
「どうかした?」
「うん、今日も見回りに行くの! それで、ね」
モジッと、抱きついたまま上目遣いで聞いてくる。
フレイア姉様とは違う、ツインテールにした自分と同じ金髪が不安げに揺れていた。
「ワンコを探してるんだけど、どこにいるの?」
「ウィル? うん。ちょっと待ってね」
契約者と使い魔はお互いどこにいるか常にわかる。
便利なんだけど覗き見してるみたいで、正直好きじゃない。
とはいえ連絡を取ったりどこにいるか探すには便利だ。
早速あたしは目をつぶって意識を集中すると、ちょうど彼が見ている光景が見えてきた。
同時に彼が今考えていることや、なにをしようとしているかも大雑把に流れてきて。
そして、あちゃ~と思う。
「厨房ね。でもやめた方がいいわよ? たぶん今、すごく集中してるから」
「あーそっか。じゃあやめとく!」
ふだん我儘なリリィにしては物わかりがいい。
でも特に驚かなかった。
ウィルはよくリリィを「こっちの都合を無視して引っ張り回す困ったお嬢様」と苦笑していたけど、あたしは知っている。
リリィがウィルを誘う前は、必ずあたしに相談していることを。
迷惑になるタイミングでは絶対に邪魔しないようにしていることを。
あれで気に入った相手に嫌われるのを一番嫌がる子だからなぁ。
いじらしいというかなんというか。
今でこそお転婆だけど、これで将来は一途な女の子になるかもしれない。
そんなことを考えるのだった。
「あたしが付き合おうか?」
なんとなく、使い魔の問題はご主人の問題な気がしてそんな台詞が出てきた。
あといえば、普段二人がどんなことをしているのか知りたかったというのもある。
話は聞いているけど、「知っているのとできるのは違う」というのはウィルディーの口癖だ。
経験しておくのもいいだろう。
「ミー姉さまが?」
パッと咲いた花がすぐに萎んで枯れる。
「えと、でも、いいのかな?」
「なにが?」
「……ワンコに怒られないかな?」
ああ、なるほど。
たしかに使い魔はご主人の安全を守るのが仕事だ。
なにせご主人が死ねば自分も死ぬのだから当然だろう。
ウィルの性格を理解している身とっては、それくらいで怒ったりしないと断言できるし、そも自分は自由にしてるのに、あたしにだけ制限をかけるようなことはしないことも理解している。
というかあれで、興味のあること以外にはズボラというか。
「まぁいいんじゃない?」と適当なところがある。
だから別に気にしないと思うんだけど、
「大丈夫よ。文句を言われたらあたしがフォローするから」
「うん、じゃあいい、のかな?」
でも傍から見ると、朝から晩まで働く働き者って感じにしか見えないのかもしれない。
つけ加えるなら、ウィルは自分に甘えてくる相手に甘いところがある。
それはスーヤしかり、リリィしかりだ。
普段そんな真面目で優しい姿しか見ていない彼女たちには、「仕事を邪魔しちゃダメ!」という意識が強いのかもしれない。
そう言えば以前どうして二人に甘いのかと聞くと「妹を甘やかすのは兄の特権だ」とかわけのわからないことを言っていた。
いやいやいや、。
リリィはあんたの妹じゃないでしょとつっこめば「ティアの妹だろ?」と繋がってるのか繋がってないのかわからない返答をしてくるからお手上げだ。
……というか、だ。
妹というなら、あたしもフレイア姉様の妹なんだけどなぁ。
何故か二人ほど自分には甘くない使い魔に、理由のわからないむかつきを覚えつつリリィの後を追うのだった。
※
「ほい、今日の晩飯に出す『海老とクチュースのトマトクリームスフレドリア』」
「ん」
夕食前にウィルが料理の試食を持ってくるのは、この二年の日課だ。
といっても全部は食べない、ひと口だけだ。
どうしてかこのオオカミは、これだけの料理の腕がありながら味に自信がないらしい。
「湯気が出てるわよ?」
「ここの料理って冷めても美味しいか、常温がほとんどだったからね。アツアツの美味しさってのを知ってもらいたいんだ」
「おいしさを知ってって、あなたこの料理をどこかで作ったことあるの?」
「え?」
「なんだかエビとかブロッコリーとか具材いっぱいなんだけど、森じゃ作れないよね?」
「えーと……いろいろ試してたらできたんだよ、うん」
うそつけ。
こちとら感覚も共有してるから、この料理をはじめて作ったって知ってるんだぞ。
と言ってやるとどんな顔をするだろう?
ちょっと興味が沸いたけど、やめておくことにした。
誰にだって隠しごとの一つや二つある。
何より変な勘繰りをして、この時間が無くなるのもちょっと寂しいしね。
気を取り直し、あたしはさっそくフォークで表面を刺す。
サクッとした感触はパイ生地に似ている。でもそれより脆い。
何だろうと思ったら強烈に主張した香りが弾けた。
なるほど、チーズを蓋にしているのだ。
「表面は卵の卵白を泡立てたメレンゲにモッツアレラチーズを入れて濃厚な仕上げにしてみた。やっぱりトマトにはチーズが一番合うからね。クリームソースでとろみと奥行きをつけたドリア……穀物を焚きこんだ料理にもチーズを使ってる。具はエビ・を主役にカリフラワー・アスパラ……クチュースとか野菜を多く入れてある」
いつものごとく長々と解説してくれるけど、はっきり言って全部はわかっていない。
というか、ときどき言い直してるのはなんなのだろう?
自分でもよくわかっていないのだろうか?
「……………………パンティーと一緒に食べるとおいしいよ」
そしてパンティーの名前を出す時、決まって照れるのが謎だ。
相変わらずこの灰色オオカミの感性はわからない時がある。
正直、せっかくの料理なのに横でペラペラしゃべられるのは気が散るんだけど、あくまで試食だし、なによりいつもひょうひょうとしたウィルが唯一生き生きとする瞬間だ。
そう思い聞くだけなら、そう悪いものでもない。
「……あ、美味しい」
ふわっとしたスフレ、トマトとチーズの酸味、野菜の甘み。
最後にドリアと呼ばれたトロッっとした触感が心地いい。
野菜の触感にエビの弾力、クチュースの独特の触感もあって飽きさせない。
何よりそれらを一つにまとめるチーズが絶妙だ。
たしかにチーズを焼く料理は知っている。
というかマクスウェルでは一般的な調理法の一つだ。
とろみをつけてスープにすることもよくある。
でも焼いたチーズの芳ばしさと濃厚なとろみを同時に楽しむ料理は知らない。
一つの皿に二つの触感。
ウィルが作る料理はそういうものが多い気がする。
食べる相手が最後まで飽きさせない配慮というか。
一口目と最後の一口で別の顔を覗かせる楽しみというか。
たぶん、リリィやフレイア姉様みたいに好き嫌いある人でも食べやすくするためなのだろう。
相変わらず料理にかんしては細かすぎるくらい細かくて繊細なんだなぁ。
……ただちょっととろみが強すぎないかな?
濃厚すぎて舌に絡みついて熱い。というか、
「あっっっっっっついわね!!」
「えぇ!? そんなに??」
驚くウィルが自分のぶんをペロッと舐めて首を傾げる。
「…………そうでもないけど」
「あはたひはがはかなんひゃはいほ!?」
「ティアって猫舌?」
「なひよへほしたっへ!!」
また妙なことを言って誤魔化そうとしている。
ハイウルフという種族はみんなこうなのだろうか。
「まぁいいじゃん。ティアって普段隙らしい隙が無いんだしさ。それくらいの方が可愛いと思うよ」
いや、スーヤは普通だったし、やっぱりこいつが変なのだ。
それも超のつく。
いつもいつも見たこともない料理を次々生み出し、魔術の考え方も柔軟なくせに、自分の台詞の意味を理解してないんだ。
もしくはその言葉が相手に与える影響とかもまったく考えちゃいないのだ。
……ほんと、変な奴。
思わず恨みがましい目で見ていると、部屋の扉が叩かれた。
「悲鳴が聞こえたけど、どうかした?」
入ってきたのはフレイア姉様だ。
今日はシェフ服を着ている。
どうやらメイドをするのが飽きて、次はシェフに挑戦しようというのだろう。
相変わらず好き放題なお姉様だ。
「ん? いいにおいがするね」
「はい、ちょうど今日出す予定の料理の試食をしてもらってまして」
「ほほう、試食とな?」
あ、姉様の目が獲物を狙う目になった。
その目はまっすぐ『どりあ』を見つめている。
「ひ、ひと口食べてもいいか?」
「いいですけど、夕飯までの楽しみにした方がいいのでは?」
「む、むむむ、たしかに。しかしこう旨そうな香りを出されては……」
あ~姉様、よだれよだれ。
「熱いので火傷しますよ?」
「安心しろ、私の舌はそんなやわじゃない」
そういう問題かな?
同じく疑問に思ったウィルと二人首をかしげてしまう。
「だが、うん。やはり我慢しよう」
おや? 意外だ。
今の流れだと結局食べてしまい、ひと口では止まれず全部食べ、結局ゆ半夕飯を食べれなくなってお父様に怒られるところまで想像できたのだけど。
「いいのですかお姉様?」
「だってこれはオオカミくんがミーティのために作ったのだろう? だったら遠慮しておくよ」
「どうして?」
「料理は作る人を思って作るもの、だろう?」
そう言ってウィルにウィンクを投げる。
「師匠の言葉は聞かないとね。あとでオオカミくんが私のために作ったものを食べるよ。とびっきりを頼むよ?」
「あはは、了解です。お任せください」
お姉様がシェフに興味を持ったのは、間違いなくウィルの影響だろう。
その証拠に最近は一緒に厨房にいる姿をよく見る。
そういえば二人はよく鍛練後にお茶をしているらしい。
姉様は粗暴に見えるときがあるけど、お茶だったりダンスだったり。
意外と令嬢っぽい趣味が多い。
でも基本自分で楽しみはするけど、誰かにふるまうことは稀だ。
軽食のお礼とはいえ、どういう風の吹き回しだろう?
……それにしても、姉様は普通ならキザッたらしいかなって仕草も様になるなぁ。
同じ姉妹で三つしか変わらないのにこの差はちょっとずるいと思う。
あたしなんて全然成長してないのに……というか、最近リリィにも負けそうなのに。
ってこら、ウィル。なにちょっと照れてるのよ。
「それよりオオカミくん、言われたものを作ってみたんだ。食べてみてもらえないか?」
「あ、さっそく作ったんですか? 早いですね」
「ルナくんに見てもらってだけどね」
そう言うと廊下に置いてあったワゴンからクロッシュで蓋のされた皿を持ってくる。
どうやらあたしではなくて、一緒にいる確率の高いウィルにようだったようだ。
「お姉様、それって?」
あたしが聞くと姉様は得意げに豊かな胸を張った。嫌味かな?
「ああ、『お好み焼き』だ」
「おこのみやき?」
聞いたことがない。たぶん夕食にも出たことはないんじゃなかろうか?
「懐かしいね。はじめて君とお茶会をしたときもこれだったっけ?」
「あ~そういえばそうでしたね」
「ふふふ、まさかあれを私も作ることになるとは思いもよらなかったよ」
……む、なんだかモヤッとした。
なんでだろう、二人だけがわかる思い出話をしているだけなのに。
「でもわざわざ僕じゃなくても。言ったと思いますけど、僕の味覚は人とはちょっと違うので。ティアやルナの方が正確だと思いますよ?」
「いいのだよ、小難しいことは。私は私の手料理を君に食べてもらいたいだけだしね」
…………………………ん?
今なにやら引っかかる言い回しがあった気が?
あたしが首をかしげている間に、二人のやりとりは続く。
「まぁあれだ、日ごろ鍛練に付き合ってもらってるしね。お礼……と言うと厚かましいけど、そんな感じだと思ってもらえると嬉しいな」
「そんな、僕も十分ためになってますし気を使っていただかなくても」
「そうは言ってももう作ってしまったのだ。捨ててしまうのも勿体ないだろ?」
「まぁ、そういうことなら――あ、これって」
「うん、君は肉が苦手と言っていたからね。海鮮ベースにしてみたんだ」
「苦手なのは生肉手、焼いた肉はむしろ好きな方ですよ」
「なに? そんな当たり前な――ああ、そうか。君はオオカミくんだもんね。そういう機会があっても不思議じゃないのか。しかし参ったな。……不味いかい?」
「いいえ、エビにイカにホタテ……クルー貝。ちょっと主役がどれかわからないゴチャッとした感じはありますけど、とても美味しいですよ」
「そ、そうか。そうかぁ」
「でもお好み焼きは余り物で練習するために教えたメニューなので、次は高価な食材は使わないように頑張ってみましょう」
「うん? 次?」
「はい、作ってもらって申し訳ないですけど。生地はダマになっているし少し焼きすぎです。たぶん海鮮に火を通そうとしたんでしょうけど、もともと生で食べれるくらい鮮度のいい海鮮です。神経質になる必要はないかと。どうしても火を通したいのなら、先に具材だけ炒めて、その上に生地を流すのがいいかと思います。だから、次はそこに注意してみてください」
「うん。次、な。ふふ、ああ! 次はもっとうまいモノを食わせてやろう!」
料理についてはとことん妥協しないウィルの真面目な感想に、テーブルに頬杖しながら彼の語りを子守歌に、手料理を食べる姿を見つめるフレイア姉様。
微笑ましい光景のはずなのに、何だろう。
何故か冷や汗が出る。
具体的に言うと、リリィがときどきウィルに向ける視線と似た色を感じる。
もっと具体的に言うなら、いまは眠れるドラゴンだけど、何かのきっかけで何かを自覚すれば何かがコロッいっちゃいそうな嫌な予感。
何何言いすぎて具体的も何もないけど、そうとしか言いあらわせない恐怖があった。
……いや、でもウィルだよ?
一生懸命なところは好感がもてるし、真面目で実直なところも、それでいてストイックなところもグッと来ないと言えば嘘になるけど……オオカミだよ?
アルベルノ王国の三姉妹。
高嶺の花すぎて、男たちの興味は好意を通り越し崇拝の域に達した女の子たち。
そんな彼女たちを振り回しているのが、どこの馬の骨とも言えないどころか、人類ですらないオオカミだということを知る者は、今のところまだ、誰もいないのだった。
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