第16話「使い魔な一日」⑤
この2~3日でPTが50~60一気に増えました(白目
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ティアとリリィを王宮まで見送り今日の仕事は終了だ。
まさに送りオオカミってやつだね!
違うか? 違うな。
二人はわざわざいいと言うけど、エンジェルパウダーの件以来、マクスウェルの治安は微妙に悪い。
念を押すにこしたことはないだろう。
屋敷に帰りアクア邸であてがわれた部屋へ戻った途端、俺はベッドに倒れ込む。
やっと訪れた、誰ともかかわらない一人でいられる時間だ。
はっきり言ってこの毎日は疲れる。
料理を作るだけなら疲れない。
今じゃオオカミとはいえ体は若いのだ。
三日三晩寝ずにアイディアを練っても全然平気な自信がある。
だから、この疲労は気疲れだ。
周りの視線、目上に対する姿勢、守るべき相手。
まるで修業時代に戻ったような感覚だ。
あのころも師匠である父の技術を盗もうと、先輩を追い抜こうと、それでいて年功序列には気をつけようと、それはそれはさじ加減に気を払いまくった。
それこそ一時期胃薬が常備薬になったほどだ。
辛くも懐かしい。
あの頃は地獄にしか思えなかったけど、今思い出すと案外悪くない。
人の記憶というやつは、存外いい加減のようだ。
「……あ、ヤバ。明日の食材を発注しないと」
最後の仕事が残っていたことを思い出す。
机に置かれた小さな紙に土魔術を使って細かく文字をカキカキ。
それをクルッと小さく巻いて、部屋の隅におかれた鳥籠に近づく。
中にいるのはククと名付けたその鳥は、この部屋唯一の同居人だ。
見た目はキジに近い。
全身白色、羽根先だけ空色で尾は長く優美さを覚える。
フウチョウという種類の鳥で、その色の多様さから愛好家やコレクターの多い鳥でもある。
おそらくこの世界でもっとも繁栄した鳥の一種なのだけど、ククほど綺麗なフウチョウを俺は見たことがない。
それもそのはず、白と空色の体色は王家で飼育されている希少種なのだとか。
この子をくれた時ティアに教えられた。
俺は適当にエサをあげつつ、その隙に鳥の足についた筒へ巻いた紙を入れて蓋をした。
「市場、ポール、青籠」
耳元で単語をつぶやく。
彼女の任務はメモを宛先人へ届けることだ。
元の世界の伝書鳩に近い。
違いがあるとすると、この鳥は複数の巣をつくる習性があって、食事中に刷り込まれた場所へ飛んでいく習性があることだろう。
俺が呟いた単語はそんな彼女の巣の一つ。
『市場で王宮御用達になってる商人ポールさんの青い籠へ飛んでくれ』とかそんな感じの命令だ。
ちなみに、白と空色は王家で飼われたフウチョウの証なため、伝書鳩として飛んできたときは優先してもらえる特典がある。
でなきゃこんな時間に飛ばして翌朝に用意しておいてもらえるなんて、アマ○ン並みの無茶な納期がこの世界で許されるはずがないからね。
ククの美しさにはちゃんと理由があるのだ。
頭の上を止まり木にした彼女を運び、窓を開ける。
外はすでに日が落ち真っ暗だ。
鳥は夜目が効かないことが多いからはじめは心配だったけど、問題なく翌朝には帰ってきていたので最近は気にしなくなった。
「よし、行っといで」
夜の闇に消えるククを見送り今度こそ寝ようときびすを返す。
と、その視界に不思議なものが掠めた。
窓の下、屋敷の庭に誰かがいた。
「あれって……」
意外な人物が見慣れないことをしていた。
少し悩んで俺は部屋を出る。
階段を下り火の落ちたリビングから庭へ出た。
「こんばんわ」
「……? ウィルディー?」
蔓を編んだような椅子に腰かけたアクアが振り返る。
ちょうど雲間から月が覗き、月明かりが彼女の横顔を照らす。
直視すらはばかられる美しさに息をのんだ。
「どうかした?」
「いえ、とくにようは」
「寝れない?」
「そうでもないです」
「……怖い夢でも見たの?」
ガクッとずっこけそうになる。
いや、なんだその子どもに言うかーちゃん台詞。
なんだか一気に気が抜けて、さっきまでの緊張が吹き飛んでしまった。
相変わらず彼女の見た目と喋った後のギャップは慣れないなぁ。
「そうじゃないです。何をしてるのかと思いまして」
彼女の掌には小石くらいの光る石が置かれていた。
月明かりが彼女を照らすたび、少しずつ大きくなる光景は、まるで月明かりを集めて形になっているような不思議な光景だ。
「それも魔術ですか?」
「そう、【固定】。知らない?」
「聞いたことがあるような、ないような」
そもそも属性がなんなのかすらわからない。
たぶん無属性なんだろうけど、月明かりを集めるなんて繊細な作業、簡単な魔術でないことくらいはわかる。
「月が、綺麗だったから」
「残しておきたかった?」
「うん、今日を残したかった」
今のひと言には想像できない重さを感じた。
そういえば、普段は気にしないけど、この子は俺よりずっと年上だったことをお思い出す。
それこそ元の世界で過ごした日々を足しても十倍以上年上なのだ。
それだけの日々を生きる。
それってどんな気分なのだろう。
「それって飾って残すんですか?」
少しアンニュイな気分になった俺は自然と彼女の隣でお座りし、そんなことを質問していた。
「ううん、……火」
サラッとリリィよりさらに短い、っていうかもうひと言まで略された短縮詠唱で、指先にライターほどの火を灯すと、月の石を炙るアクア。
煙が出たところで火を止め、俺に渡してきた。
「あの、これって?」
「香りを楽しむ」
「へ?」
「芳香」
言われて気づく。
石からなんとも言えない不思議な香りが漂ってきていた。
花とも、木とも違う。
主張は薄いけどスッと入ってくるような落ち着いた香り――ああ、なるほど。
唐突に気づく。
これは夜の香りだ。
「月の光をアロマにしてたのか……面白いな」
「? あろま? 違う、芳香」
「あ、うん。同じ意味ですよ」
相変わらず噛み合わない会話。
でも今はそれでもいっかと思えるくらいに穏やかな気分だった。
疲れた体、矢のように過ぎる時間。
その中で最後の最後で訪れた、ゆっくり進む穏やかな夜。
今の気分を無粋なツッコミで台無しにしたくなかった。
「……ねぇ、アクア様」
「ん、なーに」
「僕にもこれ、教えてもらえませんか?」
そのお願いは自然と漏れたものだった。
何となく今みたいな時間を今日限りにするのはもったいなく思ったから。
あわよくばまた二人で月を眺める時間があればなぁと下心があったから。
「ん、いいよ」
いつもと変わらない。
でも少し砕けた口調。
超級の魔術師で、なにを考えているかわからない女の子。
そんな印象しかなかったアクアを、ほんのちょっと理解し合えた。
そう思える夜だった。
そんな感じで、使い魔と王宮料理人としての日々は過ぎて行き、
気づけばマクスウェルに来て二年がたち――ティアの十二歳の誕生日が迫っていた。
過去最短になってしまいましたorz申し訳ないです
でも、そろそろ速度戻せそうなので、少しずつ文章量増えてくるかもしれませんw
 




