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俺、テイムされます - オオカミシェフの異世界漂流記 -  作者: たかじん
第2章 アルベルノ王国《王都マクスウェル》
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第16話「使い魔な一日」③

野ウサギ(リエーブル)()ロワイヤル風(ア・ラ・ロワイヤル)になります」

「これはまた珍妙な」


 テーブルにおかれた皿への評価はいつもそんな感じ。 

 でも批評ではないことはその声音で明らかだ。


 ついでに言えばカルノ王以外も似たような表情だ。

 唯一普段と変わらないのはティアだけど、彼女は味見で先に一口食べているからなだけで、はじめは同じ顔をされた。


 やっぱりこの体じゃ味の良し悪しが詳しくわからないしね。

 いまなら味見はルナでもいいんだけど、なんとなく森での生活の延長線で、最終確認はティアの仕事になっていた。


「ウィルディー、説明してくれるかい?」

「はい」


 変化といえばこれも変かだろう。

 ティア経由だった質問が、いつのころからか俺に直接話すようになっていた。

 少しは認められたということだろうか? だとすると頑張ったかいがあった。


「リエーブル・ア・ラ・ロワイヤルはジビエ料理の一種です」

「じびえ……あ! ワンコ、それって!!」

「はい、リリィ様。前回気に入っていただけた猪鍋とは同じ系統の料理ですね」


 猪鍋はひと月前に作った料理だ。

 野生肉はまずいと言って聞かないリリィのために作った一品でもある。


 たしかに独特の臭みはカルノ王のような辛党で酒好きにはたまらないクセだが、女性は嫌う傾向が強い。

 とくに子ども舌なリリィは顕著なのだろう。

 この世界の料理でも、とにかく香辛料をぶち込んで臭みを『消す』ことが食べるうえで当然とされていた。


 気持ちはわかる。

 だが、食わず嫌いはいただけない。

 そこで登場するのがジビエ(野生肉)料理だ。


 旨みの根源は忌避するべき『臭み』にこそあるという、反骨心なのか単にひねくれているだけかわからない理論の上で作られた、一部から狂信的な人気のある調理法だ。

 難易度がクッソ高い料理だけに苦労したけど、その甲斐あって今ではリリィの好物となっている。ただ週一の頻度で猪を狩ってくるのは困るからやめてね?


「猪鍋と同じ……それにしては洗練しているわ。私はこちらの方が好きです」


 お、さすがティアのお母さん。

 繊細な舌をお持ちだ。



「さすが王妃様。ロワイヤルとは王の意味。王のために作られたジビエ、それがこの料理です。ソースは血と葡萄酒(ワイン)、骨や内臓やキノコ類を煮込んで作った濃厚なシヴェソースになります。少々コクが強く好みがわかれると思い、酸味が爽やかで脂を流すさっぱりとしたバルサミコソースと、ハーブとバターを合わせたベアルネーズソースも用意しております。お好みでおかけください。ジビエは野性的な料理です。そのため女性に不足がちな鉄分を多く含みます。……失礼ながら、サテル様は最近貧血気味に思いましたのでできましたらシヴェソースをお試しください」



 いつも通りの長い解説に、カルノ王が血相をかく。


「なに? サテル、体調でも悪いのか?」


 寝耳に水だったのだろう、目に見えて狼狽していた。

 そんな心配にサテルは困った笑みを浮かべた。


「たいしたことではありませんわ。少しふらつくときがあるだけです」

「そう、か。すまない。気づいてやれなかった」

「あなたの性格だと公務に支障が出ると隠していましたから。彼は夫より私の体調の変化をきづかってくれていた。それだけです」

「……こ、これが仕事ですので」


 あの、サテルさん? 言葉の端々から伸びるトゲが痛いッス。

 こっちに飛び火しそうな挑発やめてくれません?

 なんだかカルノ王の目が痛いんですけど……あとティアとリリィもなんで睨んでるの。


「ワンコー。リリ、キノコって苦手~」

「……そう言うと思いキノコは出汁にしか使っていません。そのキノコも好きとおっしゃっていたクロブを使っていますので安心して食べてください」


 この世界の食材は微妙な違いはあっても多くは元の世界とよく似ている。

 だが中には全く見たこともない食材が転がっていることもある。


 クロブもその一つだ。

 見た目はシメジに似ていて、色は水色というゲテモノ感半端ないキノコだ。


 だけど焼いて食べるとかなり強い香りを出すキノコでもある。

 水に入れて煮込むととんでもなくいい出汁が取れ、これがトリュフソースと非常に近い。

 そこで俺はこれをシヴェソースのベースとして使っている。

 俺の説明を、リリィは「ふーん」と気のない返事をして続けた。


「ところでさー、なんでかしこまった喋り方なの? やめてっていったじゃん!」

「……こういう場ですから」


 もうイチャモンをつけたいだけじゃないのかこの子?

 とにかく以降は特に質問もなくつつがなく食事は終了。

 意外だったのは元の世界だと好みの別れるベアルネーズソースが人気で、追加で作る羽目になったことだろう。


 この世界の肉は品種改良なんてされていないため、とにかく個性が強い。

 クセや臭みが強いって言い方の方があってる。 

 そのためハーブの力技で消すのが一般的だ。


 本来は白身魚などの淡泊な味にアクセントをつける意味で使用するソースなんだけど、強い味に強い味をぶつけるこの世界の味付けには合ってるんじゃないかと試してみた。というわけだ。

 肉にハーブを使うことに馴れていることもあって、想像以上に愛称が良かったらしい。

 

 ふむ、これは意外だ。

 一つ勉強になったね!


     ※


 食後は運動だとばかりに、夜はフレイアに付き合わされることが多い。

 俺としても一級の武人である彼女との鍛錬は貴重な経験だ。


「剣技――【乱】」

「くっ!」


 彼女の剣技は単純だ。

 とく早く、とく強く。


 先手必勝、後れをとったなら力で押し勝つ。

 単純ゆえに攻略は難しいって言葉はよく聞くけど、あれは本当だ。

 とにかく彼女には隙らしい隙がない。

 そのためこっちも力押しのチキンレースをせざるおえなくて、いつの間にか彼女の土俵でやり合うことになってしまう。


 俺には【付与】があるから詠唱を省略できるけど、並みの魔術師なら数瞬と立っていられないだろう。いや、フレイアが俺を標的にしていないからなんとか鍛練に成り立っているのだ。


 この半年彼女に付き合ったおかげで、魔術の腕は格段に上がったと思う。

 なのにフレイアには最近汗を流すようになっただけで、まだ余裕があるように思える。

 ……ほんと、規格外な女の子だよ。


「よし、今日はここまでにしようか」

「お疲れさまでした」

「ウィルディーくん、また腕をあげたね」

「あはは、お世辞でも嬉しいです」

「お世辞じゃないさ。魔術の展開速度だけなら私の知るどの魔術師より上だよ?」

「どの魔術師って……リリィよりもですか?」

「ああ、宮廷魔術師と比べても、あの魔女様と比べてもね」

「アクア様とって、さすがに言い過ぎでしょ」


 さすがにビップサービスがすぎて笑ってしまう。

 スーヤの件以降、俺も少なからずアクアと関係を持つようになった。

 その関係で何度も魔術を使っているところは見ている。


 ――はっきり言って彼女は化物だ。


 リリィだけでなく、王宮魔術師をはじめこの国にも多くの優秀な魔術師がいる。

 恐れ多いことに、俺もときどきそんな凄腕の魔術師として数えられるようになってきた。


 でも、その中でもアクアの評価は頭一つ抜けている。

 というかくるぶしくらいはつき抜けている。


 俺が密かに唯一自信の自慢にしている魔力量では二倍以上の差をつけれれているし、全属性使えるうえにすべて三重奏以上とかチートもいいところだ。


 つまり一人独走している状態なのだ。

 というか大精霊と契約しているリリィより上の魔術師って事態で異常すぎる。

 そんな人より一部とはいえ上と言われても現実味がない。


「冗談のつもりはないんだけどな」


 しかしフレイアは本気で言っているらしい。

 まぁ彼女は魔術を使えないし、話半分くらいにしたほうがいいだろう。


「これでも君には感謝しているのだよ?」

「感謝、ですか?」

「うん、なにせこんなにめいいっぱい殺ってもついてきてくれる相手は、今までいなかったからね」


 その呟きには少量の悲壮感が滲んでいた。

 ……というか、いま「やっても」って単語の漢字おかしくなかった?

 え? なにこの子怖い。


「みな最初は喜んで相手してくれるのだが。どうも私は人を追い込み過ぎるみたいで根。だいたいひと月もたたずに離れて行ってしまうんだ。だからオオカミくん、君は私ほはじめての相手といってもいいかもしれないね」


 ……いや、はじめての相手って、おい十四歳。

 はじめての練習相手だろ。誤解かを招くからやめい。

 運動後で頬が上気してるんだから、勘違いする奴もいるぞ。

 ただでさえ最近のフレイアは女らしい丸みがでてきて色香が出てきてるってのに。


「あはは、それは光栄です」

「むぅ、ここまで言っても本気にしてもらえないか。難儀な男だね、君は」


 珍しくぷくぅと膨れるフレイア。

 いやいや、俺にどうしろっていうんだよ。

 そんな困り顔の俺を察して、フレイアはまた苦笑し別の話題を切り出した。


「そういえば、最近料理人として板についてきたね」


 料理人としてっていうか、もともとそっちが本業なんですがね。


「今日の料理もじつに美味だったぞ。野営で野生肉はよく食べるが、美味いと感じたことはなかったんだけどね。あの肉は君がとってきたのかい?」

「いえ、ティアとエルドレム様と一緒にですよ」

「……エルドレムだと?」


 意外なところに反応したフレイアの声が低くなる。


「どうかしましたか?」

「あいつは好かない」


 おや、これは意外だ。

 彼女のようなタイプは英雄的な存在には好意的だと思ったんだけど。


「理由を聞いても?」

「勘だ」


 勘かー、そりゃどうしようもない。


「あえて言うならティアも好いていないようだからかな」

「ティアが?」

「ああ、あの子の人を見る目は私も買っている。だからエルドレムは信用できない。いつもそばにいるのに気づいていなかったのか?」

「……いえ」


 気づいちゃいる。

 というかあからさまだもんなティアって。


 でもなぁ、はじめはともかく今じゃ自国の微妙な立場に利用されたあげく、ティアのお守りをさせられている可哀想な人ってイメージしかないんだよな。


「君も気をつけておいた方がいいよ」


 とはいえ忠告は聞いておくべきだろう。

 俺は頭の片隅のメモっておくことにした。

【野ウサギロワイヤル風】

 本来は兎の肉を酒・内臓・骨・血とともに煮込んで作る古典料理。

 歴史は古く紀元前ヨーロッパではすでに元祖は登場している。ただし今の形に固まったのは中世、ルイ16世の時代と言われている。というか現在のフランス料理の源流のほとんどは彼の時代。そろそろ料理物転生小説でこのあたりの時代を題材にしたものが登場してもおかしくないまである。

 ただでさえ野性味が強くクセの強い肉をおいしく食べようというコンセプトで進化した宮廷料理。血で作ったソースは非常に濃厚。作中ではこのクセの強さを懸念し、いろいろなソースを用意しました。実際に作ってみましたがベアルネーズソースは現代人の舌には合いませんでしたのでやめておくのが無難かとw

 野性味あふれる味、というと聞こえはいいけど、オス兎はかなり固く、初めての人はメス肉で挑戦しよう。個人的にジンギスカンのマトン肉は日本でも手に入りやすいので、この臭みが無理だった人にはオススメできません。パンチが強いことで有名なマトン肉の数十倍はパンチがあります。クサヤとシュールストレミングくらいの戦闘力差……でした。

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