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俺、テイムされます - オオカミシェフの異世界漂流記 -  作者: たかじん
第2章 アルベルノ王国《王都マクスウェル》
32/45

第16話「使い魔な一日」①

4月に入り100ブックマークこえてましました!

日刊で書きはじめて3週間。多くの感想もありがとうございます!


引き続きブックマークのほどよろしくお願いします。

「……いた」


 茂みを音が出ないようにかき分けた先に、俺は目的のものを見つけた。

 丸々と太った白い毛玉――ウサギだ。


 とはいえよく知る兎とは少し異なる。

 まず耳が短い。

 それだけでウサギというより大きなねずみみたいに見えるのだから不思議だ。

 あと手足が長い。

 後ろ足でピョンピョン跳んで動くというより、リスみたいにテッテケーと走る感じ。


 もはや原形をとどめてないじゃないか! と思うだろうけど、ウサギと呼ばれているのだから仕方ない。文句はこの世界の生物学者に言ってほしい。

 それに付け加えると、捌いた時の肉質も非常にウサギ肉に近い。


 日本じゃ一般的じゃないけど、洋食料理ではジブエ肉として兎はかなりポピュラーだ。

 俺自身、和洋中とだいたいのものは作るけど、専門は洋食。

 クセが強くて扱いにくいけど、調理馴れた食材である。

 道の食材も触ってて楽しいけど、やっぱりたまにはこういうのも調理しないと勘が鈍るよね。


「うし、あぶり出すか」


 このまま仕留めることもできる。

 でも今日はそれだけが主目的ではないので、俺はカバンから刀を抜いて魔術を発動させる。

 目標はウサギの後方にある草。

 ざわざわと不自然に揺れる音に、ウサギは敏感に反応して音とは反対の方向……俺に向かって駆けはじめる。


「ワゥッ!」


 タイミングよく隠れていた茂みから吠えると、予想外だったウサギは混乱のあまり茂みから飛び出してしまう。俺の目的がそれであることも知らずに。


「そっちに行ったぞー」

「了解!」


 茂みを抜けた先は遮蔽物のないの腹だ。

 そこで待ち構えていたのは馬に乗ったティア。

 集中しているのだろう、片目をつぶりペロッと舌を出しながら引き絞っていた弓を放つ。


 シャッ!


 空気を裂き飛んだ矢は狙いからわずかに外れ地面に突きささった。

「あ!」という声と共にもう一射つがえるが、それより早く兎は茂みに隠れてしまう。


「あーー! もう! また失敗した!!」

「いやいや、さっきのは惜しかったよ」

「おしいって、全然違うところに飛んだじゃない」

「はじめての人はまっすぐ飛ばすのも難しいよ。あとは照準だね。今度は両目を開けて射てみよう」

「それだとぶれてもっと狙いにくくない?」

「弓の場合はむしろ逆なんだ。たとえば――」


 悔しがるティアに駆け寄ったのは、同じように馬に乗る彼女の婚約者。

 エルドレム・トルウェスだ。

 彼の手にもティアと同じ弓がある。


「ねぇ、魔術を使っちゃダメなの? 正直使いにくいだけなんだけど」

「それじゃあただの『狩猟』になってしまうだろ? 僕たちがしてるのは『娯楽』だよ」

「……無駄にしか思えないわ」

「その無駄を楽しむのも狩りの楽しみさ」


 二人がしているのはいわばハンティングだ。

 俺が追い込み、飛び出したところを狙い撃つ。

 元の世界でも行われる原始的な、人と動物が協力するスタイルでもある。


 とはいえティアの言う通り、矢より威力のある魔術や速く動く武人のいるこの世界では、弓での狩りは無駄以外の何物でもない。

 だからこれは、「効率を度外視してその場の空気を楽しむ」ものであり。

 元の世界風に言えば、「疲れているのに休日まで女の子と出かける」という意味であり。

 つまるところ、今日はティアとエルドレムのデートだった。


     ※


 俺がマクスウェルに来て一年がたっていた。

 そしてティアも十一歳になった。


 はじめのころは邪険にしていたエルドレムのことも、最近は慣れたのか、あるいは諦めたのか。こうして二人で出かける機会は増えているように思える。

 まぁ必ず俺も同伴なのはかわらないけど。

 たぶんティアなりの勝手に決められた婚約者への抵抗のあらわれなのだろう。

 ただ肝心のエルドレムは気にしていないらしい。

 たぶんペットくらいにしか思ってないのだろう。

 まぁ気持ちはわかるけどね。


   ※


「あれ? ティア?」


 再び獲物を探して茂みに潜りかえってくると、そこには困った笑顔を浮かべたエルドレムだけがぽつんと立っていた。


「飽きちゃったみたいでね。フラれちゃったよ」

「あ~ご愁傷さま」


 まぁ五回連続で失敗だったもんな。

 そろそろキレる頃だと思ってたけど、意外と我慢したな。

 これも出会ってから一年分大人になったということだろうか。


「ふぅ……これもダメか」


 で、置いてけぼりをくらった男は、年甲斐もなく本気で落ち込んでいるらしい。

 珍しい。

 これまで何度すげなくされてもどこ吹く風でアタックしてたくせに。

 だから内心ではティアのことは本気じゃないのかと思ってたけど、気のせいだったのだろうか?


「ずいぶん落ち込んでますね」


 もしかして本物のロリコンさん?

 そんな危機感から直接聞いてみることにした。

 もしロリコン陽性反応があれば犯罪係数をデストロイヤーしておかなければ。


「あはは、ハンティングはボクの一番の趣味でね。それにも興味を持ってもらえないとなるともう……ね」


 ふむ、好きなものに興味を示してくれなかったことがショックなだけのようだ。

 だったら執行猶予くらいはあげてもいいだろう。


「ティアって興味のないことにはとことん無関心ですからね」

「君は彼女のことをよく知ってるんだね」

「もう一年ちょっとの付き合いですから」

「……え?」


 俺の回答に心底驚いたように目を見開く。


「一年ってそんなに最近の付き合いだったのかい?」

「ええ、まぁ」

「……もっと小さなころからだとばかり思っていた」

「言われてみればそうですね」


 どうやらもっと昔からの付き合いだと思っていたらしい。

 考えてみればエルドレムも半年の付き合いだ。俺とも大きな差はない。


「ねぇ、僕のどこが悪いのかな?」

「……」

「彼女の気を引きたいんだ。頼むよ、秘訣を教えてくれないかい?」


 おおっと、これは事案発生かな?


「ほら、婚約を破棄されるにしても、アルベルノ王国との交流は続くだろ? ならあまり心証を悪くしたくないんだ」


 と思ったらそうではないらしい。

 なるほどエルドレム自身この婚約は難しいと自覚しはじめているのか。

 すでに破棄された後にその目は向いているようだ。

 ふむ、そういうことなら協力してもいいかもしれない。

 さすがに他国の英雄さんが、十ちょっとの女の子に振り回される光景は、中身がおっさんな俺からするとちょっと不憫だしな。


「ティアって娯楽にあまり興味ないんですよ」

「娯楽に……興味がない?」


 クエッションマークを浮かべるエルドレム。

 うん、気持ちはわかる。あれくらいの歳の子って普通は一番遊び盛りだもんね。

 だから彼もティアを連れ出しては喜ばそうと頑張っていたのだから。


「アクセサリーや香水のような贈り物の方が喜ぶということかな?」

「いや、そんなのより珍しい本の方が喜びますよ」


 言ってしまえば研究者気質なのだ。

 閉鎖的でストイックというか、知的好奇心の塊というか。

 花より団子ならぬ、花より参考書。

 効率主義で論理的。理路整然としたものを好み、無駄を嫌う。


 そんな子どもらしさも淑女らしさの欠片もない。

 そのくせ誰よりも可憐な俺のご主人様。

 それがミーティア=フィルデア=アルベルノという女の子だ。


「ということは、よく部屋に籠って勉強しているけど、あれも?」

「本人は嬉々としてやってますね」


 むしろ一日数時間までと我慢してるまである。テレビゲームか。

 ほうっておけば数日は飲まず食わずでこもりそうだし、むしろ好きなことを我慢して自制してるあたり、ほんと子どもらしくない。


 人によっては可愛げがないと思われるかもしれない。

 そのあたり、フレイアやリリィと比べて使用人たちからの評価がよくない遠因なんじゃないかと考えている。


「エルドレム様ならむしろ、どのように祖国の内乱を治めたかや、魔術や武術の稽古をつけてあげる方が喜ぶと思いますよ?」


 自分で言っていて、思うどころか確信をもてた。

 なにせティアが俺に興味を持ったのも『やたら魔術のうまい魔獣』だったり『聞いたこともない食べ物を作ってくれる』という好奇心からだ。

 そう思ったのだが、なぜかエルドレムは難しい顔で俺を見ていた。

 いや、見ていたというか睨んでいた。

 英雄などと呼ばれながら温厚な彼らしくない視線に、少し寒気がした。

 あれ? 俺、変なこと言っただろうか?


「内乱、か……あまり話しても面白くないけどなぁ」


 と、疑問を持ったのも束の間。

 先ほどの雰囲気からコロッと苦笑いを浮かべると、困ったように曖昧に答えて頭を掻く。

 気のせい、だったのだろうか?


「でも、うん。魔術と武術なら教えられるかな」

「……あれでティアは初段で三重奏水魔術師ですよ?」

「うわぁ、それはすごいね」


 一応注意してみたけど、「まいったなー」と驚くだけで余裕がある様子。

 つまりそれくらいなら教えられる実力はあるってことか。

 ティアでも大人と比べてもかなりのレベルなのだが、さすが『不世出の皇将』なんて言われるだけある。


「よし、なんとなくわかった。さっそく試してみるよ」


 そう言ってさっさと去っていく背中を見送る。

 誰もいなくなったのを見計らい、ふわっとあらわれ鼻先に座ったテリアが、足をプラプラさせつつ豊かな胸の前で腕を組み見上げてきた。


「あーあ、協力なんてしちゃって。よかったのかい?」

「彼にも彼の立場はあると思うしね」

「相変わらず君は甘ちゃんだな」


 しょうがないなぁという感じで眉間をつつかれる。

 別に協力したつもりはないんだけど、そうやら彼女にはそう映ったらしい。

 事実を言っただけだし、ティアもエルドレムも、双方不幸な今の状態より、少しでもマシにした方がいいと思っただけなんだけど。


 やっぱり敵に塩を送るのはまずかっただろうか?

 ……いや、敵って。なんの敵だよ。

 心中で自分にツッコミながら、二人を追って帰路につくのだった。


生活環境の変化で当分1話を3000~4000文字くらいで押さえていこうと思います。

馴れてきたら従来の6000~9000文字に戻そうと思います。


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