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俺、テイムされます - オオカミシェフの異世界漂流記 -  作者: たかじん
第2章 アルベルノ王国《王都マクスウェル》
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第14話「幼い正義の味方」 ①

幼女幼女した末っ子リリィメインストーリースタートです。

正直一番書きやすかった……幼女万歳

 マクスウェルにやってきて半年が経過した。

 王宮の人たちとの関係も一部例外を除いて良好だ。


 朝はティアの服やパンツの用意を手伝い、午前はルナに料理の基本を教育し、午後はフレイアとの鍛錬で汗を流す。夜は夕飯の準備、その後の自由時間にガブリエルをはじめ使い魔仲間や使用人たちとの交友にせいを出す。

 そんなローテーションを続けているうちに、あっという間に月日はたっていった。


 ちなみに一部例外というのは厨房の連中やアクアのことだ。

 まぁ前者は仕方がない。

 けれど後者はできるだけ改善したいところだ。

 なにせ王宮最強の魔術師様だ。お近づきになれるならなっておいて損はない。

 今度菓子折りでも持って行こうかしら?


 そんな打算と保身を計算していてふと気づいた。

 半年も王宮にいて、一人だけほとんど友好を深められていない相手がいた。

 リリィ=フィルデア=アルベルノ。

 お転婆な野生児第三王女様である。


     ※


「リリィについて知りたい~?」


 朝、起きぬけで寝ぼけ声のティアに俺は話題を振ってみることにした。

 案の定、唐突な漠然とした質問に、ティアはうさん臭い物を見る目で振り返る。

 相変わらず自室で誰かの目がない時のティアはとても自然体だ。

 ファーストコンタクトがこんなティアだった俺からすると『森にいた頃のティアみたい』という言い方の方がしっくりくるのだけど。


「そんなの知ってどうするのよ?」

「あんまり話したことがないからさ。食事を作ってる以上、彼女のことも知っておいた方がいろいろやりやすいだろうし」

「そう? 結構話してるところを見るけど」

「食事時にどこからともなく手に入れた食材を渡されて、何かこれで作れと一方的に命令されることを会話というのならそうかもね」

「あ~そういやそっか……うーんでもなぁ」


 寝癖のついた豪奢な金髪の毛先で遊びながらなにやら考え込むティア。

 はて、何か難しいことを言っただろうか??


「あの子って風みたいな子だから、どこでなにしてるかってよくわからないのよね」

「いやいや、それはないだろ。かりにも第三王女なら護衛くらいつけるだろ普通」


 なにせあのフレイアですらいつも兵士を引き連れているのだ。

 まぁおおっぴろでなくこっそり後をつけてる感じだったし、護衛というより監視役って感じだろうけど。


「リリィは四重奏火魔術師よ。下手な護衛よりその肩書で十分なんじゃない?」

「よ、四重奏!?」


 ってことは俺やティアよりも上ってことじゃないか!

 はへぇ……魔力は多いと思ってたけど、そんな実力者だったとは。


「それどころか土魔術は使えないけど水も風も二重奏まで使えるわよ」

「……ティアの姉妹って凄まじいな」


 姉は妙手級の武人で、妹は四重奏魔術師。

 どちらも並の才能なら一生をかけてもたどり着けない境地だ。

 それをあの若さでか……さすがドラゴンや大精霊を使い魔にしてるだけあるな。


「でしょう? ほんと、嫌になっちゃう」


 はぁ……とため息をついてティアは明後日を見上げる。

 やっぱり彼女にとってこの話題は触れてほしくない部分のようだ。

 話題を変えようかと思い始めた時、ティアが「あ!」と声をあげ掌を打つ。


「でも捕まえる方法はあるかも」

「お、マジか」

「うん、しかもあなたしかできない方法がね」


 にんまり笑ってその方法とやらを耳打ちする。

 ……なるほど、試す価値はありそうだ。


「んじゃ、せいぜい頑張って~」

「ティアは来ないのか?」

「あたしは……まぁ……うん」


 曖昧な反応に首をかしげるとタイミングを見計らったように部屋の戸がノックされる。


「……どなたですか?」

「ミーティア、僕だ。エルドレムだ」


 その名にティアの肩がピクンと反応した。

 しばらく悩んだ末、ティアは「どうぞ」と声の主の入室を許した。


「おはようミーティア。今日もお迎えにきたよ」


 サラッとした茶髪に柔らかい微笑みを浮かべた背の高い男。

 パッと見は線の細い印象をうける。優男と言ってもいい。でもその胸に輝く勲章の数々が若くして彼がなしえた偉業の数々を称えている。


 エルドレム・トルウェス。

 元帝国で、現在は共和制を採用した国、ローゼンストック。

 その元皇族の一人にして軍人という変わった経歴を持つ彼こそ、カルノ国王が連れてきた、ミーティアの婚約者その人だ。


   ※


 帝政ローゼンストック。

 一〇年前、大陸を二分する戦争があった。

 それが、アルベルノ王国を盟主とする南側陣営と、ローゼンストックを盟主とする北川陣営だ。王国を超える国土と技術力と資源を有したローゼンストックは、当時は間違いなく最強の国家だっただろう。


 だがその強さが仇となる。

 盟主と言いながらほとんど単独戦争という形になったローゼンストックは、アルベルノを中心とした連合国を前に敗戦。その影響で皇帝政は破棄され現在も皇族は存在しているが、ほとんど形式だけのものとなっている。


 また全領土の一〇パーセントに相当する工業地帯と資源地帯をアルベルノ王国に戦後賠償として没収され、広大だった国土も『地域の独立』を名目に小分けに分断。さらに全盛期当時(・・・・・)の国内総生産の二〇年分もの賠償金を要求されることとなる。


 軍備制限もうけ、常備軍はアルベルノ王国よりも少なく、聖具などの武具はファラット神聖国より少なく、マクレス連邦より航空戦力を持ってはいけないこととなった。


 以上のことからローゼンストックは一小国にまでその威光を失墜させた。

 ……かに見えた。 

 だが多くの逆風の中、その国は立ち直ることとなる。

 核心的な国家方針の大転換。

 工業の機械化と一本化。

 分断独立された国家を共和制の採用という荒業で再び一つにまとめ。

 機械化の一方で軍備制限をうけていなかった魔術師の軍事利用。


 敗戦国を縛りつける幾重もの荒縄の継ぎ目を狙うかのような綱渡りな国家運営により、帝国は不死鳥のごとく甦った。

 現在ではアルベルノ王国を頂点とした、マクレス連邦・ファラット神聖国・キリーカ帝国に並ぶ五国目の列強として『五大列強』といわれることも少なくない復興をみせた。


 ローゼンストック共和国。


 それは過去の栄光と繁栄、近代の挫折と屈辱、そして戦後の不屈と成長。

 清濁併せ呑み築かれた技術立国である。


   ※


 本で読ん知識を思い出しながら二人を見守る。

 あの知識の通りなら、皇族と言っても王国では一般人と変わらないのだろう。

 ただ彼が一般人と違う点があるとすると、若くして将官であるということだろう。

 何でも戦争後のゴタゴタでおこった内乱で多くの功績を残し、祖国では『不世出の皇将』と呼ばれて英雄扱いなのだとか。


 だとすると、カルノ王も思い切ったことをしたものだ。

 それだけ今のローゼンストックに勢いがあるのか。

 それとも他にも理由があるのか。

 なんにせよ彼は今年で二十一歳。

 ひと回りも年齢差がある二人が並んでも親子、よくて兄妹くらいにしか見えない。

 元の世界なら絶対ロリコン認定でポリスメン待ったなしだ。

 結婚するにしてもまだまだ時間はある。


「本日も部屋でお勉強かな?」

「ええ、エルドレム少将」

「そっか。じゃあ僕もお付き合いするよ」


 わかっていたその返答に、ティアはあからさまにため息をついた。


「毎日よく飽きませんね。どうせ今日も会話もなく本を読んでいるだけですよ?」

「そこは問題ないかな。読書は好きな方だしね」

「……少将ともあろう立場の人が、こんな小娘に時間を割いていていいんですか?」

「未来の妻のために割く時間が無駄とは思えないよ」


 歯が浮くようなセリフをさらっと言われ、さしものティアも言葉に詰まる。


「あたし、はじめて会った時に言いましたよね? あなたと結婚するつもりはないって」

「ああ、だからこうしてその気になってもらえるよう毎日通っているんだからね」

「無駄な努力よ」

「無駄になるかは僕の頑張り次第さ」


 彼がこの城にやってきてひと月。

 毎日続く押し問答は今日もかわらず続けられた。

 押し問答というけど、ぶっちゃけティアの一方的な拒絶だ。

 どういうわけかこの男、一〇以上も年下の女の子の生意気な態度に嫌気をさすどころか、こうして変わらずアピールを続けている。一時は本気でロリコンなのかと疑ったくらいだ。


 でも、どうやらそうではないらしいということを、俺はテリアから聞いていた。

 ローゼンストックには莫大な賠償金がまだ残っている。

 その緩和と両国間の貿易の活性化。

 おそらくエルドレムの目的はそのあたりなのだと言う。

 ようするに政略結婚だ。そこに本人の意思は関係ない。


 そしてそれを理解しているティアも、いくら拒絶したところで折れないということもわかっている。それでも言わずにいられないあたり、ティアの不満が相当なものだということがうかがえた。


「そんなわけで、一緒していいよね?」

「……わかったわよ。ごめんウィル。そういうことだから」

「了解、じゃあ一人で何とかするよ」


 そう言って先に部屋を出ようとする。

 戸の前に立ったエルドレムと目が合う。


「ごめんね。ご主人様を少し借りるよ」

「……ええ、どうぞ」


 短く答え戸を閉める。

 そして「わふぅ」とため息をつく。

 悪い人ではない……と思う。

 なんと言うか、オーラがあるのだ。

 できる男オーラとでもいうか、そんな感じ。

 何より他国の皇族でありながらカルノ国にも信頼されるくらいなのだから、きっとかなりの傑物なのだろう。

 話していて相手を立てることを忘れないし、不快感を覚えたこともない。

 彼について悪いうわさは聞かないし、メイドたちの間ではティアを羨ましがる者も少なくないくらいだ。


 不安とか不満とか、そんなの覚えることないはずなのに。

 なのに、俺にはどうしても彼と仲良くできるビジョンが浮かばなかった。

 たぶんそれは、彼の噂があまりに良すぎるから。

 二十一歳で将校に登りつめた知将。戦後の混乱で怒った内戦や侵略すべてで勝ち続け、軍から離れれば優れた政治家として、王家の代表として外交にも精を出す完璧超人。

 非の打ち所のないその経歴が、俺にはどうしても胡散臭く思えてしまうのだ。

 まぁ俺がひねくれているだけかもしれないけど。


 あと、そう。

 つけ加えるなら……彼が来てからティアと行動することはめっきり減った。


 それは仕方ない。

 いくらティアが望んでなくても、エルドレムは国王の決めた婚約者。

 彼との水入らずの時間に使い魔がどうこうするわけにもいかない。

 政治利用されている彼女を救いたいと本気で思っている。

 でも、それがこの世界の常識なのだ。

 権力者にとって女は政治の道具。

 娘だろうと関係はない。

 そこに蔑みや差別的な含みなんて一切ない。


 だから、なにも言えない。

 ティアがなにも言わないなら動くことなんてできない。

 少し寂しいけど、仕方がないことだ。わかっちゃいる。

 それでも彼女とも長い付き合いになるのだ。

 生意気で大人びているけど、俺からしたら子どもも子どもだ。

 なんとかしてあげたい……と、思うのは自然なことだろ?


「王族間の複雑な問題に、俺になにができるんだって話だけど」


 俺はまた、最近癖になりだした深い溜息を吐くのだった。

 ……答えのないことで悩んでも仕方がない。

 今はもともと考えていたことを実行しよう。


 そう、リリィについてだ。

 ティアにはあとでおやつを作って機嫌でもとればいいさ。

 どうせいつも通り不機嫌にしてるだろうし。

 そう脳内の一日のスケジュール帳に書き足しながら、俺も動き出す。

 題して、第三王女捕獲作戦!

 なんちって。

1パートの文字数は7000くらいだったのですが、多いとよく言われるので、1回4000~5000くらいで区切ってみます。

読みやすくなったかしら??

感想など頂けると嬉しいです。

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