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俺、テイムされます - オオカミシェフの異世界漂流記 -  作者: たかじん
第2章 アルベルノ王国《王都マクスウェル》
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第9話「賑やかな王族の日常」 後篇

美幼女三姉妹って素敵な言葉だと思います(真顔

引き続きブックマーク・評価よろしくお願いします。

 メイド服。

 といても控えているメイドたちとはかなり形状が違う。


 大きく開いた胸元とか。

 フリルだらけになった見た目とか。

 あと太ももまで見える短いスカートとか。


 むしろナニをお世話するつもりなんですかね? とおっさん臭いことを考えてしまう。

 これを作った職人とはいい酒が飲めそうだと確信した。


 なにより十三歳という年齢からは想像できないほど育った、約束された勝利の果実に視線がバキュームされるデザインが素晴らしい。

 まるで彼女のために仕立てたような完成度。

 元の世界だろうと異世界だろうと、女の子の胸とは吸引力のかわらないただ一つの掃除機なのだ。


「ふむ、ウィルディーくんはあの服の良さがわかると見える」

「自慢じゃないけど、この手の分野には理解が深い自覚がある」

「……さすがだ兄弟」

「なに大したことないさ兄弟」


 ガシッ! としゃがんだガブリエルと腕を組む。

 メイドの白い目が俺に向けられた気がした。

 なんで俺だけ? やっぱりイケメン無罪ってやつかチクショーめ!!

 異種族間の友情を再確認したところで、ガブリエルは理由を語りだした。


「いつもの悪癖さ。上に立つ者ならば、下々の生活を知らねば~っていうね」

「あーやっぱりそれか」


 上流階級キャラにはよくある、庶民目線に興味があるお嬢様。

 それがフレイアという女の子だ。

 とはいえ言ってることは正しいと思う。

 上に立つ者が下の者を無視した話の結末が、ロクなものであったためしがないしね。

 でも彼女の場合、その興味が本当に好奇心でしかないのでタチが悪い。


「この前は市場の売り子で、その前は奴隷商だっけ?」

 

 この一週間でフレイアが興味を持ち突貫した仕事を指折り思いだし、両手の指が全部折れたあたりで考えるのをやめた。

 しかもこれでただ邪魔になるだけなら周りも『迷惑になるからやめなさい』と言いやすいのに、彼女の場合だいたいいい結果しか残さないから余計タチが悪い。


 商店手伝えば新たな流通先を開発し売れなかった新商品をトレンドに押し上げ、奴隷商をやらせれば商品の奴隷たちの衛生状態を改善し、結果的に商品価値と奴隷たちの生存率を向上させた等々。武勇伝には事欠かない。


 しかもそこに裏表も姑息な打算もない。

 ただ「こーした方がよくね?」といういろいろの事情から出来ない発言を、その性格と王女という立場をフルに使って実行してるに過ぎないのだ。

 ティアと違って、なーんにも考えてないのに素でうまいこと立ち回ってるあたり、天才肌なだけなティアとは違って正真正銘の天才って感じだ。


 このあたりティアの要領の良さの上位互換感がある。

 振り回されるまわりの気苦労も上位互換だろうけど。


「あはは、うん……一緒にいるのも一苦労さ」


 抑揚のない声で遠い目を窓の外に向けるガブリエルがその証拠だ。

 フレイアに比べればティアのじゃじゃ馬っぷりも可愛く見えるな。

 しかも、これよりさらに厄介な姉妹がいるのだから、カルノ王たちにもさらに同情してしまいそうになる。


「で? もう一匹はまだなのか?」

「ウィルディーくん、仮にも主の妹相手に一匹呼ばわりはどうかと思うな」

「いや、あれはもう野生児と変わらんだろ?」


 敬意もなにもなくボロクソなことを言っていると、噂をすれば何とやら。

 乱暴に扉が開き、小さな影が飛び込んでくる。

 比喩ではなく、文字通り飛んできた。

 人影は勢いのまま空中でトリプルアクセルを決めると、靴底を滑らせ砂埃をあげつつ着地。伏せた顔をバッと上げると開口一番。


「セーフ!?」

「残念、お前が最後だぞリリィ」


 息を切らした声にフレイアがどこか得意げに顎を逸らす。

 その仕草に飛び込んで来た女の子はムッと口を尖らした。


 綿アメみたいにフワフワな金髪を二つに結ったツインテール。

 小枝や枯葉だらけなうえに、せっかく整った顔も泥だらけだ。

 服装もティアのドレス姿ともフレイアのメイド服とも違う。

 よく言えば素朴で動きやすそうな、悪く言えば地味な村娘みたいな格好。

 腰のズタ袋なんてなんでも高価そうなこの部屋では違和感しかない。

 服から露出した村娘らしくない苦労知らずの白い肌が浮いて見えてしまうくらいだ。


 第三王女、リリィ=フィルデア=アルベルノ。

 今年で九歳になるアルベルノ王国三姉妹の末っ子だ。


「フー姉様ずるい! 窓から入ったら早いに決まってるじゃん!」

「使えるものを使うのは当然だろ?」

「リリの使い魔はリリ乗せて飛べないもん!」

「ならお前は別の方法を探すんだな」


 ぐぬぬと悔しがるリリィと勝ち誇るフレイア。

 大方どっちが先に帰ってこれるか競争していたのだろう。

 その内容が子どもっぽいから微笑ましくはあるけど。


「リリィ、食事の前にせめて泥を落としてきなさい」

「えーーかぁさまぁ、お腹空いたから先に食べちゃダメ?」

「ダメです。アンドリュー、お湯の用意を」

「はい、奥様」


 サテルが控えていた執事長アンドリューに声をかける。

 すると執事長の後ろに控えていたメイドが数人、先に部屋を出て行った。

 おそらくお湯を沸かすために窯に火を入れに行ったのだろう。

 蛇口をひねればお湯が出た元の世界とは違い、ここでは魔術でも使えない限りお湯ひとつ沸かすのも重労働なのだ。


「さあリリィ様、こちらに」

「ヤ! 先にご飯!」


 おっと、わがままモード発動だ。

 この子は末っ子だからか、二人に比べて物わかりの悪いところを見ることが多いな。


「しかし奥様の命令ですので」

「泥を落とせばいいんでしょ! エア!」

「あーいあい、精霊使いが荒い奴なのじゃ」


 呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン、とばかりにリリィの言葉を引き継ぎ声が聞こえてくる。

 発生源はいつの間にか彼女の首に巻きついて大あくびをしたオコジョっぽい生物だ。


 まっ白な毛並みに黒一色の瞳。

 細長い胴と尻尾をマフラーみたいにからませている姿はとにかく可愛いのひと言に尽きる。

 その口がもみょもみょと動くとリリィを青い魔方陣が足下と頭上で挟むように出現。

 青い風がリリィを包み、しばらくしておさまるとすっかり綺麗になった姿が現れた。


「うん、ご苦労!」

「あんね、大精霊の魔術を洗剤がわり使うんは、わらわとしてはどうかと思うのじゃが?」

「使えるものは使えってフー姉さまも言った!」

「趣旨がずれとらんかの?」


 大精霊《氷結》アストラエア。愛称はエア。

 リリィは使い魔の諦めた声を無視して、勝ち誇った顔をアンドリューに向ける。


「これで文句ないわね!」

「……」


 どうしましょう? とサテルを振りかえる。

 やれやれと首を縦に振るのを確認し、アンドリューは道を譲った。

 その姿に満足げに顎を逸らしたリリィは、そのまま席につくのかと思いきや、


「そこのワンコ!」


 なぜか俺の目の前で足を止めた。

 毛の中でテリアがビクンと震えたのがわかった。

 そりゃ精霊が大精霊を前にしたら緊張するか。

 気づかないふりをして俺は視線を伏せたまま答える。


「何でしょうかリリィ様」

「いい鳥が手に入ったわ! 調理しなさい!」


 ズタ袋が投げられ目の前に転がる。

 袋の口から覗くのは森の中では高級食材だったスイチョウの頭だ。

 それも一匹や二匹じゃない。

 軽く一〇羽はいる。

 

「あの、これは……」

「取ってきたのよ! これって美味しいんでしょ!?」


 え? もしかして泥だらけだったのってこれを狩りに行ってたから?

 いや、たしかに言ったよ?

 前にちょっと機会があったから、お菓子を作ったときに他にも作れないのかって聞かれて、その時たしかに言ったよ?


 でもだからって自分で捕まえに行くか?

 仮にも王族が?


「あの、調理なら料理長にお任せしたらいいかと」

「だってあなたが作った方がおいしいし、面白いんだもん!」


 ズバッと言いにくいことを堂々と言う。

 それはもう、腕を組んで鼻息荒く言い切った。

 お、おいおいおい。その言い方は調理場の連中の立場がないだろ。


「ミー姉さまもそう思ってるでしょ!」

「へ?」

「家出してる間ワンコのご飯食べてたんだもん! どうして文句を言わないの!?」

「え、えーと」


 まさか話をふられると思っていなかったのか、ティアがキラーパスに動揺している。

 ティアもズバズバ言うけど、あれでわりと周りの空気を読むタイプだからな。

 ……仕方ない。


「わかりました。じゃあ夕飯に一品作らせてもらいます」

「ん! 素直なのはいいことよ!」

「……しかし、条件があります」

「? なに?」

「今後、獲物は食べる分だけ捕まえるようにしてください」


 家族五人で食べるにしてもスイチョウ十数匹は多すぎる。

 きっと大精霊の力でも使って手当たり次第捕まえたのだろう。


「なんでよ! いっぱいいた方がいいじゃない!」

「乱獲は森を殺します」

「森が死ぬ? なに言ってるの、そんなわけないじゃない!」


 んーやっぱり理解してもらえないか。

 まぁ食物連鎖の話しをしだすと長くなりそうだし、今回はこれくらいでいいか。


「とにかく、捕まえるのは自分たちが食べる分だけ、そう約束してくれるのなら腕を振るいましょう」

「よくわからないけどわかった! 約束すればいいのね」


 調子のいい返事だ。

 本当にわかっているのだろうか?

 俺の不安をよそにリリィは言質をとったと満足げに空いた席へドカッと座る。

 後ろを向いたとき、首に巻きついた大精霊が両手を合わせてウィンクしていた。

 面倒に巻き込んですまんのじゃ、といったところか。


 たしかに、一品作ると言ってから控えていたシェフたちの視線が厳しい。

 当然だ。

 一週間前にやってきた人ですらない犬っころが、自分たちの仕事に割り込んできているのだから、面白いわけがない。

 特にここの料理長はプライドの高い女だもんな。

 厨房を使わせてくれと言っても何だかんだと言って煙に巻かれる未来しか見えない。


 これはティアにもひと言入れてもらうか。

 そんなことを考えていると全員そろったテーブルでは、食事の前の祈りが行われていた。

 この世界の宗教についてはまだ詳しくないからよくわからないけど、異世界版いただきますみたいなものだろう。

 賑やかだったフレイヤとリリィもこの時ばかりは大人しい。


 ――ただ、大人しいと言えば。


 二人の登場以降、空気のように大人しくなったティアが気になった。

 まるで二人とあまり話したくない。そういうかのように一歩引いた態度。

 はじめはキャラの濃い姉妹に押されてるだけかと思った。

 ……でも。

 この一週間、俺なりに交流を深めて、なんとなく理解していた。


 社交的で、なんでも人並み以上にこなし結果を残してしまう姉。

 図抜けた行動力と我の強さで我が道を行く妹。


 これだけならティアも負けていない。

 ティアの機転や理解の早さは二人の優秀さに引けを取らないものだ。

 まぁたった一週間だ。

 彼女たちのすべてがわかるわけないし、ティアとも付き合いが長いようでひと月と少ししかない。

 もしかすると他に彼女たちの間でわだかまりの種はあるのかもし、表面部分しか見えていない感は否めない。


 それでも表面がわかれば上澄み(・・・)くらいはすくい取れる。

 ときどき談笑をかわしながら食事をする家族の中、淡々と料理を口に運ぶティアを見て。

 その後隣のドラゴン先輩とリリィの首に巻きついたままのエアに視線を滑らせ確信する。


 ――ようするに、彼女の劣等感の原因は俺なのだ。


 魔獣種の頂点である竜種を従える姉。

 世界の知識である精霊の長を従える妹。

 それに比べて俺は明らか目劣りする。

 なにせ客観的に見れば文字通りどこの馬の骨ともわからない犬っころなのだ。


 いけない。

 このままではいけないぞ。

 

 ティアは俺と契約するつもりだったと言ってくれた。

 けど、本当のことである保証はない。

 もしかすると俺に気を使った方便って可能性もある。

 いや、この際そんな細々としたことは関係ない。

 俺は彼女に命を救われた。

 その彼女が、俺を救ったことで辛い立場になってしてしまっている。

 そのことを許していいのか、という話しだ。


 …………いいわけないよな。

 ならまずは、俺が有用であることをしめす必要がある。

 俺の持つスキルを駆使して認めさせる必要がある。


 俺の持つスキル。

 つまり、元の世界から持ち込んだ料理人としての叡智と創作ファンタジーの知識。

 そしてこの世界で身につけた魔術の力。


 どこまで通用するかはわからないし、うまくいく保証はない。

 なにせ料理は味覚がバカになり、この世界の食材も知らない。

 同じものを再現できるかもわからない。

 ゲームやアニメの知識もすべてこっちと同じであるとは限らないだろう。

 魔術に関して言えば、大精霊を従えるリリィに軍配が上がるだろうし、ティアの師匠なる人物もまだ会っていないがきっとすごいはずだ。


 どれも下位互換で終わる可能性の方が高い。

 それでも、やるだけやる必要がある。結果を残す必要がある。

 この王宮という狭い世界の中で。


「腹をくくれってことか」


 変にプレッシャーを覚え、大きく深呼吸を一つ。

 するとリリィが置いていったスイチョウの入ったズタ袋が目に留まる。

 何はともあれ、

 まずはこいつの調理について考えることにしよう。

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