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俺、テイムされます - オオカミシェフの異世界漂流記 -  作者: たかじん
第1章 はじまりの地《深き森》
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第7話「決闘、そして」 後篇

昨日は「ブックマークくれくれ♪」言って本当にしてくれた心優しい方々がいっぱいいて、創作意欲めっちゃ回復しましたwww ほんとにありがとうございます!

引き続きブックマーク・評価よろしくお願いしますb

「やった、やったぞ!」


 崖の下に落ちて行った弟を見届け、ブレイヴは抑えきれない歓喜に酔う。

 声をあげ笑おうとし、走った激痛に顔をしかめた。


「ッ! まぁ、俺もタダじゃすまなかったけどな」


 半分失った視界を苦々しく思いつつ唾を吐く。


「妙な道具を……相変わらず姑息な奴だ」


 体一つで戦わず、道具に頼って弟をそう切り捨てる。

 自分は不意打ちをしたことなど、今のブレイヴからは綺麗に忘れ去られていた。

 少なくない代償、おそらく一生引きずるであろう傷だ。


 だがその代償を払うだけの結果は得た。

 それに、群れのボスになれば群れの者はすべて自分の物。

 つまりウィルディーが手塩にかけて育てたスーヤも自分の物だ。

 弟が自分のために育てたであろうアレが、結局ブレイヴのものになる。

 そのことに言い知れぬ優越感がわいてくる。


 あれは気に入らないが、水魔術の腕はなかなかと聞いている。

 だったら治療させればいいだけの話だ。


「これで次のボスは俺なんだ!」


 押し殺した笑いが止まらない。

 その時、背後から二つの気配が近づいてくることに気づいた。

 ファウルとスーヤだ。


「ッ! ブレイヴ兄さん!」


 いつもはオドオドとウィルディーの影に隠れるスーヤがファウルを追い抜き睨みつけてくる。

 ……生意気な話だ。それが群れのボスに対する態度か?


「さっきの音はなんですか! それにこの匂い、兄さんの血ですよね!」

「うるせぇぞ、予定通り決闘をしただけだろうが」

「話が違います! こんな場所でだなんて……」

「違うことねぇだろ。もともといつやるとは言ってなかったんだからな」


 そう、いつとは言っていなかった。

 暗黙の了解で狩りの後、指定の場所で行う流れになっていただけだ。

 決まっていたのは今日行うということだけ。

 だったら今この場で行って何が悪い。隙を見せた弟が悪いのだ。


「それよりスーヤ、さっさと治療しろ」

「嫌です!」

「あぁ? このテリトリーのボスの言うことが聞けねぇのか!」


 少し強く言っただけでビクッと震えるスーヤにブレイヴは満足しかけるが、すぐにまた睨みつけてくる反抗的な態度に怒りが再燃する。


 このメスはなぜこうも反抗する。

 今まで怯えるだけの弱い存在だったくせに。

 疑問の答えが弟と行動を共にした結果だと気づき、さらに怒りが増した。

 死んでもなお自分の障害になろうとする弟の存在が目の前のスーヤと重なる。

 二人の間で殺気が臨界に達しようとした時、


「お前はなにを勘違いしている?」

「え?」


 いつもと変わらない口調でしゃべりはじめたのはファウルだった。


「決闘に勝った方にすべてを譲ると言ったが、あくまで俺が現役の間は保留だ。お前のものとなるのは俺が死んでからだぞ?」

「なっ! それじゃあどうしてこのタイミングで!」

「とくに意味はない。だがなにを驚く? こうなった以上、俺のテリトリーは将来間違いなくお前のものになるのだぞ? 遅かれ早かれの問題だろう」

「それは……」

「――それともなにか」


 突然、ファウルの雰囲気が変わる。

 無から急に気配が爆発したような重圧。

 それはブレイヴやスーヤとは比べ物にもならない、本物の戦士の殺気だった。


「今この場で俺を殺して手に入れてみるか?」

「あ……ひ、いえ……」


 青い顔でうつむくブレイヴを最後に一瞥しファウルは背を向ける。

 俺を殺すかと聞いた後に見せる、あまりにも無防備な背中。 

 しかしブレイヴにはその背に噛みつく勇気はなかった。


       ※


 ウィルディーが負けたらしい。


(まぁ、あれを敗北というのならば、だがな)


 しかしファウルはそうは思っていなかった。

 テリトリー内のことはすべてわかるファウルにとって、二人がどんな戦いを演じたかもしっかりわかっていた。


 たしかに結果はウィルディーの負けだ。

 崖から落とされテリトリー外に出たためその先のことはわからないが、もし落ちていなくても首への一撃は間違いなく致命傷だった。

 あのまま続けても結果はかわらなかっただろう。


 だが、果たして単純にそうだろうか?

 ファウル自身、二人が戦えば8:2でブレイヴが勝つと踏んでいた。

 いくら魔術の才能があっても、とらえられない相手に攻撃は当たらない。

 だがウィルディーはそのことをしっかり理解したうえで対策をとっていた。

 原理はまるで理解できなかったが、四方から魔術の檻を作ることでブレイヴを圧倒しようとしていたことを知っている。


 正直、あれで二人の勝率は反転していたと言っていい。

 だがウィルディーはそこで満足しなかった。

 残り2の負ける可能性を埋めるため、炸裂する石などと言う奥の手を隠し持っていた。

 ファウルすらウィルディーの勝利を確信し考えるのをやめたのに、あの息子はさらに一歩踏み込んでみせたのだ。

 その結果がブレイヴの負傷である。


(とはいえ負けは負けだ)


 いい意味でも悪い意味でもまっすぐだったブレイヴの所業は正直失望したが、こうなった以上ウィルディーが死んでいるのならテリトリーの引き継ぎは早いに越したことはない。

 もともとファウル自身、今日勝ったほうにすべてを譲り隠居するつもりでいた。

 テリトリーを引き継ぐと簡単に言うが、ファウルの持つものは広大だ。

 はいどうぞで終わる代物ではない。

 それでも、あえて時間を稼いだのは、


(本当にウィルディーが死んでいるのならな)


 もし、ブレイヴがウィルディーに勝ったのなら、ファウルのテリトリーだけでなく、ウィルディーのテリトリーも手に入れておかなければおかしい。

 だがブレイヴはなんと言っただろうか?


「このテリトリーのボス……そんな言い方はしないよな、ブレイヴ」

「パパ!」


 一人先に家路を帰っていると、後ろから声がかかる。

 振り返ると息を切らすスーヤがいた。

 その瞳には明確な怒りの色が浮かんでいる。

 こいつもずいぶん元気になったものだ。

 あれほど弱々しかった子がブレイヴにたて突き、掛け値なしの殺気をぶつけたあとにも関わらず、すぐに俺へこんな目を向けてくるか。

 その影響を与えたであろうもう一人の息子を思いだし、鎚頬が緩みそうになる。


「パパ! どうしてブレイヴ兄さんを許したんですか! こんな結果絶対に――」

「スーヤ」


 なお呼んだ途端、怒り一色だった瞳に驚きが混ざる。

 はて、なにかおかしなことを言っただろうか?

 ……あぁ、そういえば面と向かってこいつの名を呼んだのははじめてだったか。

 まぁ今はどうでもいい。


「これからはお前も好きに生きろ。アメリアには俺から伝えておいてやる」


 今度こそ驚きは困惑に変わる。

 だがそれも一瞬、すぐさま何か決意したように表情を引き締めると、一度頭を下げて走りはじめた。

 巣のある方向ではなく逆方向――ウィルディーがいるであろう場所に向かって。


「……ふん、俺も甘いな」


 以前までのファウルなら、どんな結果でも決闘の勝者にすべてを譲っただろう。

 可能性があるという理由だけで前言を撤回するような、戦士にあるまじき態度はとらなかった。

 それでも考えてしまったのだ。

 たった三歳で群れ全てに影響を与えたウィルディーが、どんな風に成長するのかを。

 強い子孫を残す戦士としてではなく、息子に期待する父親として。

 つまるところ、この結果に不満を持っているのはスーヤだけではないということで。


「お前への期待分くらいは待ってやる。さっさと帰ってこい」


 相変わらず古傷だらけの強面で浮かべる笑みは凶悪で。

 傍から見れば怒ってるように、よくて不機嫌な物調面にしか見えない。

 だが、この時のファウルの表情は。

 なぜか誰が見ても笑っているようにしか見えなかった。


これで一章は終わりとなります。

走り抜けました……。

二章はもしかすると明後日スタートかもしれません。


……さて、貯金がなくなり追いついてしまいました。

いつまで日刊ができるか。。

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