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モグラとカラスと  作者: まこと
モグラとカラスの旅立ち
3/3

名前を知りたいと思ったから


ぐるるるる・・・

 

訴えるような唸り声を上げたのは、カインの腹の虫だった。

一族の掟を破ってしまったことを嚙み締めていたはずの頭の中は、一瞬にして空腹に埋め尽くされた。


「なにそれ。返事のつもりなの?」

カラスが空を見上げたまま聞いた。

「違うよ。返事ならしただろ。お腹がすいたんだ」

「そう・・・」

カラスは興味がなさそうに目を閉じた。そして夜の世界に沈黙が訪れる。星の瞬く音が、聞こえるような気がした。ちかちか、ちかちか。

 

それだけじゃなかった。

とくんとくんと、自分の鼓動の音が聞こえる。それから、二人分の、呼吸の音。

眠ってしまったのかと思って、カインはその横顔を覗き込んだ。綺麗な顔だと思った。


「じゃあ、旅の始まりを記念して、ディナーにしようか」

瞼を上げたカラスの真っ黒な瞳が、カインと星空を映し出す。

やっぱり、綺麗だった。


「ボクの顔になにかついてるの?」

カラスは眉をひそめてそう聞いた。カインの顔が近くにあったから、驚いたようだった。

「別に」

カインはそっけなく答えた。


「それより、ディナーって、なにかあるの?」


カラスは体を起こすとうーん、と伸びをした。それに続いて起き上がれば、世界が見えた。

地底から、カラス、星空、そして、地上の世界。

この世は本当に、地底だけじゃなかったのだ。

あれ程までに、出てはいけないと言われてきた地上に、自分は出てきたのだ。

そう考えると、カインは腹の奥底がむず痒いような気がした。

罪悪感なのか、高揚感なのか、それとも。

 

ぐう。

 

いや、きっとただの空腹だ。

出てきてしまった理由も、目的も、そこになんの意思や感情があるのかも、きっとどうだっていい。本能のままでいい。


「近くに、ニンゲン一族の村があるんだ。そこで美味しいものをもらいに行こう」


「ニンゲン一族?」

軽やかに歩き出したカラスに、カインは聞き返した。先ほどまでいた地底から離れて行くのを、ほんの砂粒程度に気にしながら。

「そう。キミ達は、モグラを自分の先祖としてあがめるだろう?それとおんなじだよ。彼らは、人間の子孫だから、ニンゲン一族なのさ」

 

外の世界に違う種族がいることは知っていた。でも、それがどんなものなのかは、まだ知らない。何をどれだけ知らないのかさえ分からないくらいには、カインは無知だった。


「ふうん。じゃあ、アンタは?」

自分たちモグラとは違うらしい。

では、何が違うのか。

瞳の色か。髪の色か。住む場所か。


「ボクは、なんでもない。ただのカラスさ」


「カラスって、名前なの?」


「なまえ。そうだね。ボクのことはそう呼べばいいってこと」


「なんだよ、それ」


はぐらかされたのだと気付いたけれど、それ以上どうするべきなのかわからなかった。だからカインは、少し前を歩くその腕を掴んだ。


「じゃあ、カラス」

立ち止まって首をかしげるカラスに、カインは告げる。

「おれは、カインだ」


「カイン。素敵な名前だね」

カラスはふわっと微笑んだ。綺麗な笑顔だった。でもそれは、いろんなものを隠した笑顔でもあった。



 

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