目標
人類の代表ともいえる者達、その通称らしきものが筆頭騎士の口から告げられた館内はその者達に対する期待、あるいは羨ましがるような新入生達の声で大きな騒ぎとなっていた。その名を告げた筆頭騎士は、思いのほか反応が大きかったのか檀上で困ったように頬をかきながらも、騒ぎがひと段落するのを待っている様だった。
「・・・何て?」
「ふみゅ!?」
「・・・・・・・」
その時、信達の座る一角ではまた違ったざわめきが起きているようで、引きつった顔の信、その隣では軽く睡魔に負けていたらしいシールが突然騒がしくなった周囲に驚き目を覚まし、さらにその隣では颯が笑いを堪えるかのように手で顔を覆い、小刻みに震えていた。
「なぁ颯、今あの騎士様は何て言った?」
「・・三人の・・・お、王・・。」
「何でそんな事になってるわけ!?って、おいシール!俺の服に涎ついてっから!」
まだ笑いが収まらないのか颯は問いに震えた声で答えると、ぷはっと吹き出し両手で顔を覆い下を向いてしまう。
「そろそろいいかな?特に後ろの方、騒ぎが大きいようだけど。」
シールが寝なおそうとして肩に寄りかかり、口から涎を垂らしてくるのを引き離しつつ状況を整理しようとしていた信は檀上から聞こえたその声に、少し動揺しすぎたと周りからの視線で察し引きつった顔のまま手をひらひらと振り、もう大丈夫だと筆頭騎士へとアピールする。
・・・ちなみにずっと小刻みに震えていた颯は、注目を浴びるようになるころには平然とした様子で椅子に座っていた。
そして檀上に立つヴァンは、館内が静かになったのを確認し続きを話し始めた。
「今言った三人の王たちは、その実力をリングの東西南北それぞれと、センターの地域代表者五人に認められ遠征に行く権利を得たそうだね。そして・・・王たちの一人はボク達と同年代だと言う情報もある!」
そのどこか挑戦的な言葉に、会場からは再びおおぉーと歓声が上がる
「・・・あんた冷や汗すごいんだけど、どしたの?」
「いや、別に?」
最後尾のそんなやり取りには気付かず、館内はさらにヒートアップしていく
「そう!ボク達でも実力を認められれば、魔界へと向かうことができるとその王が証明している事になる!!」
もう会場は全員が立ち上がり、まるで大人気バンドのライブのような状態になっていた。
「ねえ、これ何の話?」
「もう勘弁してくれ・・・」
半分寝ていて状況の判断が出来ないシールと、疲れた表情で天井を見上げる信達を除いて・・・。
「こほん、少し熱くなってしまったね。つまりはボク達が魔界へと遠征するためには、ここで実力をつけそれを代表者たちに認めてもらえばいいとそういう話だよ。」
やみくもに訓練や、勉学をするより何か目標があったほうがいいだろうと、そう語る筆頭騎士に、新入生達は今日一番の歓声で答えるのだった
「それじゃあ・・・」
そこでヴァンは右手を上げ手のひらを広げると、そこに光が集まり剣の形を作っていく。
「キャリバーン!」
そう叫ぶと光は、黄金の輝きをもつ剣として実体化しヴァンの手に収まる
「すげぇ・・・」
「実体固定だ、サポーターも無しで」
そんな声が聞こえる中、ヴァンは剣の切っ先を天に向け
「全ての神々に誓おう!我らはこの戦争を止め、平和を勝ち取ると!」
新入生達は、その叫びに呼応するかの様に胸に手を当てると
「「「「全ての神々の名の元に!!」」」」
そう宣誓した。
「ボクからは以上だよ、キミ達の入隊式はこれで終了だけれど、さっそくキミ達にはやってもらわなければならない事があるから、申し訳ないがもう少しだけ待っていて欲しい。」
そう言って頭を下げると剣を光へと戻した筆頭騎士は万来の拍手と、歓声に送られて舞台袖へと消えていった。