戦況説明
学長の挨拶が終わった館内、新入生達は椅子に座りこそしたものの、興奮冷めやらぬ様子でザワザワと落ち着かない様子だった。
「あ~すまない。やる気があるのはいいが、少し落ち着いてくれ。」
館内にそんな爽やかな声が響くとざわつきは少し小さくなり、ステージに現れた新たな人影に注目が集まった。
「うん、ありがとうボクはヴァン・ペンドラゴン。未熟ながらここの筆頭騎士を任されている。今から現状と今後の予定について説明するからよく聞いていてくれ。」
そういって爽やかな笑みを浮かべたのは、茶色の髪を短く揃えた青年だった。
青年の登場に館内からは、「あれがペンドラゴン家の・・・」と言うような声がそこかしこから聞こえてきて、ざわめきがまた少し大きくなる。
「・・・誰だ、あのイケメン?」
「あたしが知るわけないじゃない。」
「君たちさぁ、ほんと少しは勉強しようよ・・・」
周りみんなが知っていることに焦りを覚えたような信の声と、それに答えるシールの心底興味がなさそうな声に、颯はもはや疲れたように唸る
「あれは、ペンドラゴン家の次期当主だよ。ちなみにペンドラゴンってのは、この戦争が始まる2000年前より前の時代に天上に招かれたって伝承がある人の名前で、あの先輩の家はその末裔を名乗っているってわけだよ。」
「なるほど、未来の英雄候補様ってわけだ。」
「ま、そんな感じだね。」
颯のその答えにシールがくぁ~と欠伸を漏らす横で、信は何かを試すかのような目でステージ上を注視し始めた。
その様子を横目で見ながら、颯は誰にも聞こえない声で呟く。
「・・・アレがホントにそうなってくれれば、僕らも楽なんだけど。」
そして自身もステージに注目した
「みんなも知っていると思うけど2000年前、神々は人類を1つにまとめる為に2つの壁を取り払った。」
ステージ上ではそんな最後尾からの視線に気付かず、白い制服に身を包んだヴァンが説明を続けている。
「それが言語と国境、この二つだね。ボクたちは言語の壁がなくなったからこそこうして意思の疎通が容易になり、国境がなくなった事でなんのしがらみもなく、こうして手を取り合えるという事を理解して欲しい。」
髪や目の色、そして肌や体格までもがバラバラの新入生達はその言葉に、神々がいなければここにこうして集まることも出来なかった事実を改めて感じているようで、中には目を閉じ神に感謝を捧げている者もいた。
「言語は当時、国ごとにバラバラだった言葉を神々の力で1つにまとめたと言われていて、国境の方は・・・」
ヴァンはそこで、モニターに二つの世界地図を表示させる
「このように、バラバラだった大陸や島々を1つに纏めたと言われているね。」
表示された世界地図は、多くの大陸や島国が海上に浮かぶ古い地図と現在の世界地図の二種類であった。そのうち現在の世界地図は巨大なドーナツ状の大陸があり、内海に小さな島があるという形をしていて、周りの大陸には“リング”中央の大陸には“センター”と地名が書かれている
「そして、先程学長も言われていたようにここのような教育機関は5つあり、リングに4つ、そしてセンターに1つ存在している。この第一対魔学園はリングの北側だね。」
その言葉と同時に古い地図は消え、現在の地図上リング東西南北にそれぞれ1つと、センターに一つ学園を意味するアイコンが追加される。
「防御結界アイギス・・・つまり敵の大きな侵入地点はここと、第3対魔学園にある2つ。それと注意してほしいのは敵は決してアイギスの隙間からしか来ないわけでは無いと言う事だね。」
すると地図上には、2つの結界マークと共にリングの所々に赤いエリアが表示される
「アイギスというのは敵の入り口の最も大きなもの“アンリホール”を封じているだけで、ここ以外にも小さな穴は多く存在するし、新たな穴がいつ開くかも分からない状態なんだ。」
その説明に新入生達は頷き、自身の認識に差異がない事を表現する
「そして、主にそうした小さな穴への対処は教育機関から卒業し、1人前と認められた個人やチームが当たっている。いつどこに穴が開くか分からない以上、アイギスや、多くの職員の人たちに守られているここより危険度は上だろうね。そして・・・」
そこで地図のセンター中央辺りに、大きなアイコンが表示される
「ここが敵の住む地、魔界への唯一の侵入口となっている!」
この情報はここに来るまでは極秘の情報だったようで、新入生達からはどこか興奮した声が漏れた
「この侵入口は名を“ヘルメスホール”と言う。アイギスの守る“アンリホール”を含む、向こう側から開いた穴は一方通行になっている様でね、こちら側から向こうに抜ける穴はここしか確認されていない。しかも、我々人類は向こう側からはアンリホール以外の穴には入れないということも確認されているんだ。だからこそ、ヘルメスホールへ入り魔界へと攻め込むことが許されるのは、自力でアンリホールまで辿り着ける者、もしくは何らかの手段で向こうから人が通れる穴を開けてこちらへと戻ってこれる者に限られているんだよ。」
次々に明かされていく情報に、新入生達はざわつく事も無く汗を流しながらも情報を必死に頭に叩き込んでいた。
「そして今、魔界遠征を個人で許されているのは全人類で合わせても・・・」
「3人」
つまり、現状でその三人以外の人類の大半は敵が攻めてきてからしか戦闘が許されていないということである。だからこそ、告げられたその数字の少なさに新入生達は愕然とする。
「まあ、チーム単位になるともう少し数は増えるけどね。それだけ、魔界は危険が多く逃げ帰る事も難しいとゆうことだよ。過去には穴に入り二度と帰ってこれなかった実力者や、チームも数多く存在しているから。」
そこで一度言葉を区切り、
「その三人は、正に一騎当千ともいうべき実力者達でね。現在一人はセンターでこちらの世界全体の守護を、そして残り二人が魔界で活動していると言われているんだ。そんな彼ら、人類の頂点ともいえる3人を我々は敬意の念を込めてこう呼んでいる」
「3人の王と」