入隊式
「・・・このように現在も続いている神話戦争が始まったと言われており・・・」
大きな体育館のような建物の中、100人程がステージの上で神話の成り立ちを話す軍人のような雰囲気を出す老人の声に耳を傾けていた。老人の雰囲気あるいは、入隊式という普段とは違う環境に緊張している為か、椅子に座って老人の話を聞く100人は少しもざわつくことなく体育館には老人が話す声だけが響いていた。
「「・・・むー。」」
そんな中、信とシールはふてくされた顔で列の最後尾に座っていた。
「いつまでそんな顔してんのさ、てゆうか逃げてどこ行く気だったわけ?」
颯はそんな2人に呆れた顔をしながら、他の人には極力聞こえないように囁いた。
「・・・座学とか聞いてないんですけど。」
信の不満に、隣のシールもコクコクと頷いて同意してくる
「だって、もっと前から知ってたら2人とも来ないでしょ?他のみんなは座学が始まるまで秘密にしようとしてたんだから、今教えた僕に感謝して欲しいくらいだね。それに、僕達の目的からしたら静かに座ってる方が好都合かもしれないよ?」
しれっとそんな事を言う颯に、不満たらたらの目で抗議しながら信は欠伸を噛み殺しながら式が終わるのを待った。
「この学園は世界に5つしかない諸君らのような神々の力をもつ若者を指導、育成していく教育機関であるとともに・・」
檀上では、この信達がいる施設についての説明がされているようで、老人が手元の機械を操作するたび巨大なモニターに風景がかわるがわる映し出される。そして今は、大きな結界のようなものが空中に浮かんでいる不思議な光景が映し出されていた。
「この2000年前に神々の手を借り、人類の手で作り上げた防御結界“アイギス”を監視する機関でもある。」
その結界アイギスは、魔物や悪魔たちがこちら側へとやってくる大きな入口を塞いでいる重要なものであるとの説明が続けられる。そのように重要なものが、現在自分たちの近くにあるということに少なくない新入生達からは緊張しているような声が漏れた。
「まぁ、安心して欲しいアイギスの監視及び補修は、諸君らの先輩方の中でも選抜された者が担当する事になっている。ただし、この結界は言い伝えの中でも書いてあるように完璧ではない、そのため・・・」
老人が機械を操作すると、モニターの映像が切り替わり犬くらいの大きさの魔物と、武装した学生が戦闘を行っている様子が映し出された
「このように小さな魔物・・・この映像ではヘルハウンドだな、そいつらは結界の隙間を通りこちら側へ頻繁に現れる。諸君らの中で認められた者から、これらの対処にまわってもらう事になる。」
老人のその言葉に、さらに緊張感が高まったのかゴクリと唾を飲み込む音が多く聞こえた。
「そして、諸君ら若者に一番言っておかなければならない事がある・・・」
そう言いながら老人は、ステージを降り100人の新入生の前に、その日一番の真剣な表情で立った。その表情からどのような言葉が飛び出すのか、緊張が最高長に達したところで
「すまない!!」
突然深々と頭を下げる老人、学園長である宮本 厳の姿に呆気にとられた
「諸君らの世代までこの戦争を、神話を終わらせられなかったことを心から謝罪する!!そしてどうか、私たちにその力を貸していただきたい!!」
なおも頭を下げ続ける学長に、呆気にとられていた新入生達は徐々に真剣な顔へと変わっていき
「やってやる!」
「俺たちの手で終わらせるんだ!!」
「私だって!!」
次第に新入生達は椅子から立ち上がると、やる気に満ち溢れた雄叫びを上げるのだった。
「ありがとう、皆の勇気に心から感謝を。」
学長がそう言い、もう一度頭を下げるのを見て雄叫びはさらに大きくなっていく
「・・・耳がいたいわね。」
「うるせぇよ・・。」
その様子を信達3人は、何かを後悔しているかのような顔で最後尾から眺めているのだった。
ー体育館外ー
「くっく、今年も始まったな。」
「あの人、のせるのが上手いですからね。」
体育館の外では2つの人影が一つは楽しそうに、もう一つは呆れたような声で聞こえてくる雄叫びに感想を漏らしていた。
「さぁて、あいつが来たんだ、楽しくなるぞ。」
そう言い楽しそうな声の影は、これからのことを考えさらに笑みを大きくするのであった。