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わかちがせかいにちったなら

 これは【わかち】という行事が世界に広まった時の話である。

 

 【わかち】と言う物を知っていますか?それは冬の寒い日にお互いに持っている物を分かち合ってお互いに幸せになろうという行事です。

 雪深き土地のお殿様が自分の土地の領民が困っているのを助けたのが始まりで優しい行いは世界を覆っているんです。年に一日だけど優しくなれるって素敵だと思いませんか?




 【狭間】王都の【わかち】


 その日は孤児っ子達の朝は早い。待ちに待っていた【わかち】の日なんである。

 孤児っ子達はその日の為に少ないお小遣いをためて色々と用意しているのである。孤児院を卒院した連中も孤児っ子達の為に色々準備しているのである。

 孤児達は周りの助けを借りて用意した様々な者を荷車に乗せて配り歩くのである。

 街行く人に菓子の一つを

 苦労して子供を育てている母親には飛び切りの御馳走を

 優しいおばあさんには百万の感謝と共にたくさんのお土産を

 声さえあげられぬ痛み抱える者の為に薬と歌声を

 孤児っ子達はこの日だけは誰かの為に動くのである。

 彼等の先輩たちや自分も含めて街の人達の善意で支えられているのを知っているからである。この日は孤児っ子達のお礼参りの日なのです。街の人達も孤児っ子達の懸命な姿を暖かく見守って優しい気持ちで過ごすのです。 




 【聖徒王国】とある神殿にて

 

 【わかち】と言う物は特定の神様が勧めた物でないので良い物は良いと取り入れられました。神殿の神官さんはお互いに助け合う事の大切さをわかりやすく教えるのです。

 でも、何年も同じ文面を繰り返しているので聞いている人は飽きていそうですけど。それでもありがたいお話なので表面上はまじめに聞いています。

 そして、困っている人の為に使うからと献金皿が回されるのです。本当に使われているのか知りませんけど。


 ある金貸しは世の為になるのならと金貨一枚寄付しようと考えました。皿が回ってくるまで時間がかかっているので金貨なんてもったいないと思って銀貨の10枚でも贈ればいいかと思いました。

 献金皿は回ってこなくて飽きたのか銀貨一枚で十分かなと考えました。そこで回ってくればよいのですけど皿が重たくて何度も空にしないといけなくなりましたから時間がかかるのです。

 金貸しは時間が無駄にされたから銅貨でいいかなんて考えました。さらに時間がかかって皿が回ってきたときには金貸しは銅貨を一枚くすねるのでした。

 【わかち】と言っても普段と変わらないのでした。




 【西方平原国】とある領主と奴隷の場合


 西にある国では大変豊かな貴族様がいました。彼は楽しませることが大好きで喜び満ちた暮らしをしている民を見ているだけで満足している変人でした。貴族様は一万の奴隷を抱えているのですけど彼等全てをちゃんと食べさせている器量を持つ人でした。

 【わかち】の夜と言うだけで色々な具材がおいしそうに煮えている白いシチューやチーズの海を泳いでいる野菜、焼いている人が涎を垂らしてしまう焼き肉などの御馳走をたくさん用意しました。奴隷の子供達の為にも安物ですけどおもちゃや絵本をたくさん用意して配っているのです。

 貴族様に囲われている奴隷達も貴族様の事が大好きです。奴隷達は貴族様の為に知恵を振り絞って良い物を送ろうとしました。勿論貴族様には内緒です。

 貴族様が現れて奴隷のみんなはちゃんと食べて楽しんで明日の仕事を頑張りなさいと言いました。言葉を費やして色々いう事も出来ますけど御馳走を前にしておいしい時間を駄目にするのは良くない事なのです。

 奴隷達は貴族様の話が終わった時に声を合わせて貴族様を讃える歌を歌いました。貴族様はふいに送られた贈り物に涙しました。そして貴族様は奴隷達にちゃんと食べろと言って部屋にこもりました。

 貴族様はその日とっておきのお酒を飲んで喜びました。奴隷達はご馳走を食べて明日も頑張ろうと言いあいました。

 【わかち】はちゃんとこの地に根付いているのです。でもその前から当たり前の事なのでしたが。




 【魔王領】ゴブリン達の村の場合


 【魔王領】には様々な種族がいました。その中にゴブリンと呼ばれる醜くて賢くない種族がいました。彼等は醜くに賢くないのですけど家族を大切にする優しい種族なのです。魔王様も馬鹿だけど愛すべき彼等を気に入っていました。

 そんな彼等は人間から【わかち】という日の事を聞いていました。

 【わかち】って何だと子供のゴブリンがききました。大人のゴブリンは困っている人に贈り物をして助ける日だと答えました。子供のゴブリンはなんていつもやらないんだ?僕たちだったらいつもしているじゃないかとききました。大人のゴブリンはそうだよな、人間たちってひどいなと答えました。子供のゴブリンはこれぼくたちに関係ないなといいました。大人のゴブリンは人間は酷い物だからこんな日も作らないと優しくなれないのだなと言いました。子供のゴブリンはお婆ちゃんゴブリンが重たい荷物で腰を痛めているのを見かけて荷物を持ってお手伝いしました。大人のゴブリンも手伝います。

 そう、愛すべきおバカさんである彼等には【わかち】と言う日は必要ないのでした。



 【魔王領】竜族たちの場合


 【魔王領】の奥深くに竜たちはいました。【わかち】と言う行事を自分達でも楽しもうと竜たちは思って冬の一番寒い日は何処だと色々話し合いました。

 赤い竜はここで一番寒い日はこの日だと言いましたが青い竜は世界中で一番寒い日は別な日だと言って黒い竜は我等の暦だと一万日後に来る冬が一番寒いと言いました。他の竜もでも人間の暦だろうとか、この地ならば竜の暦でやろうとか、一応は【魔王領】なのだからその暦が正しいと議論しました。

 そして決着がつくまでに人間の暦で一年ほどかかりました。それから今度はどんな祝い方が良いのかと話し合いました。それもいろいろ意見が出て決着がつくまでに長い時間がかかるのです。

 そして色々話し合って迎えた【わかち】の日は竜たちが世界中に飛び散って困っている人達のために頑張るのでした。ちょっとばかし頑張りすぎて魔王様の胃袋は泣きを見たのは笑い話です。

 そんな彼等には『過ぎたるは及ばざるがごとし』という言葉を送りたいなと魔王様の側近が思いました。





 【南の土地】の場合。


 【狭間】より南にある国のある村では【わかち】という行事の意義については理解したのですけど、いつにしたらよいのだろうという質問がありました。南の土地はあったかくて寒い日なんてないのです。

 村の長老は言いました、良い事をする日なんだから我等の祭りのついでにすればよいだろう。祭の喜びを分かち合うのはとても良い事だ。みんなも流石長老様だと言いました。長老様はついでに普段から気にかけていれば【わかち】は一日だけでなくいつもになると言いました。村のみんなももっともだといいました。

 そうして南の土地の村々では【わかち】が行われる事はないのです。でも、一番【わかち】の心意気を感じているのは彼等かもしれません。





 【北の部族】の場合。


 寒い寒い北の国、そこのある部族では暖かい土地にある【狭間】の民から【わかち】の事を聞きました。寒い日にお互いに分かち合うというのはとても良い事だと取り入れました。

 分かち合うって何をするのだと聞かれたから長老様は自分の持っている良い物を誰かと分かち合って幸せになろうという話をしました。ならば麦を育てている人は俺は麦酒を持ってくると言いました。それならばと馴鹿を育てている人は俺は肉を持ってくる、羊飼いはヒツジのチーズを用意しようと言いました。それぞれに色々持ってきてお互いに楽しむ・・・・・・・

 宴だ!と酒好きの若者が言いました。宴だなとお祭り騒ぎが好きなおじさんが言いました。なるほど宴かと長老も言い始めたので村中総出で宴の準備が始まりました。

 北の国の民は寒い冬は退屈なので宴はとても楽しい事でした。楽しい事を皆でやるのは良い事だとみんな頑張るのでした。

 そして【わかち】の夜になりました。村中其々が自慢のおいしい物を持ちよって宴になりました。それはそれは楽しくて時間を忘れそうになるほどでした。村の一人暮らしのおばあさんを若いのが態々負ぶって連れて来たり、病気で離れに住んでいる者だって仲間外れにしてはいけないと連れてくるのでした。

 宴は賑やかでとても楽しい物でした。一人暮らしのおばあさんも病気の日ともとても楽しみました。

 にぎやかな宴ですけど夜も深まるにつれて子供達はうつらうつらしていました。子供には眠る時間が必要なのです。女たちは子供を連れて宴から離れました。

 男達は宴を楽しみました。お酒をたっぷり飲んでおいしい物を食べて楽しく過ごしました。そうしているうちに眠りこけてしまうのです。

 夜は雪が降りました。男達は雪に埋もれてしまったので次の日は冷えて風邪をひきました。

 男達は苦い薬と女達のお小言を貰いました。


 そして男達は思ったのです。【わかち】とは苦行だったのかと・・・・・・・

お話にお付き合いいただきありがとうございます。

皆様にも良い酒が当たりますように。

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