わかちの夜の男の子(別題わかちべ長者)
昔々ある街角に孤児の男の子がいました。
彼は日々ゴミをあさって食べられるものを得たり、誰かの手伝いをしてお駄賃をもらって暮らしていました。
そんな日々を過ごしていながら【わかち】の夜を迎えました。
男の子は【わかち】の夜くらい良いことをしようといつも通りに街をさまようのでした。
街を歩いていると荷車が溝にはまって動けなくなっている造り酒屋のご隠居さんがいました。
男の子はご隠居さんに手伝いましょうかと声をかけると荷車を押すのでした。男の子が手伝うと荷車は溝からすぐに抜けて動き出すのでした。ご隠居さんは男の子に感謝して酒を一瓶渡すのでした。
あれれ、良い事のつもりがいつものお駄賃稼ぎと一緒になってしまったなと思いながら酒の入った瓶をもって街を歩くのでした。
夜になって街のはずれを歩いていると旅の商人さんがいました。男の子がこんばんわと声をかけてここだと夜は寒いですよと声をかけると
商人さんは今から宿をとるには無理だからここで野宿だと野営の準備をしているのだよと答えました。
男の子は寒いからお酒で温まったらとさっきもらったお酒の瓶を渡すのでした。
商人さんはありがたくそれを受け取って寒い夜には最高の友だと喜びました。商人さんはお礼に大きなぬいぐるみを渡しました。
あれれ、良い事をしようとしたのにと思いながらぬいぐるみをもって街に戻りました。
街の明かりが煌めいている時に街の薬師さんに会いました。薬師さんは男の子の姿を見るとこんばんわといいました。男の子もこんばんわと返して、どうして娘さんと【わかち】の夜を過ごさないのかと聞きました。
薬師さんは仕事が忙しくて娘さんへの【わかち】の贈り物を忘れてしまって困っていることを話しました。男の子はそれならばと手にした大きなぬいぐるみを薬師さんにあげました。
薬師さんはありがとうとお礼を言って男の子に傷薬を渡しました。そして薬師さんはぬいぐるみを抱えて娘さんの元に急ぐのでした。
あれれ、良い事をしようとしたのにと思いながら傷薬をもって寝床に向かおうとしました。
街の明かりがだんだんと消えていく頃にお城に使える戦士様と出会いました。戦士様は体中傷だらけで歩くのもやっとでした。男の子は大丈夫ですかと傷薬を戦士様に使いました。薬はよく聞いて戦士様はすっかり良くなりました。
男の子はどうしてそんな怪我をと聞くと戦士様はお城のお姫様の病気の薬をもらいに隣の国に向かったのですが途中でそれを狙った悪者との戦いになってしまい、何とか悪者には勝ったのだけど傷だらけで危うく姫様の薬が間に合わなくなるところだったとお礼を言いました。
男の子は戦士様の怪我が治って良かったと言うと戦士様は金貨を三枚男の子に渡してちゃんとしたお礼は後でするからと城に走っていきました。
あれれ、良い事をしようとしただけなのにと思いながら寝床に向かっていくのでした。
街が黒一色に染まるころ孤児院の前を通り過ぎようとすると孤児院のおチビちゃんたちと女先生が泣いているのを見ました。どうしたのと声をかけると孤児院の借金が返せなくて女先生が金貸しの元に行かなくてはならないのだと言いました。男の子は孤児院の女先生にはご飯をお世話になったことがあるので持っていた金貨を渡して借金を返すといいよと言いました。
女先生はこんな大金と言いながら受け取ろうとしませんでしたけど男の子は女先生がいないとおチビちゃんたちはどうするのだと無理やり渡しました。
女先生はありがとうありがとうと言いながら泣きました。おチビちゃんたちは泣き疲れて眠ってしまっています。男の子はおチビちゃんたちを寝床に連れて行くと自分の寝床に向かうのでした。
ああ、【わかち】の夜にふさわしく良い事をしたと満足しながら寝床に戻るのでした。
酒場すら眠たいと閉まる頃、お気に入りの寝床に潜り込もうとした男の子は酔っぱらいのおじさんに会いました。酔っぱらいのおじさんはこんばんわどうしてここで寝ているのかと聞きました。
男の子は家もないし家族もないからここで寝床を作ったのだと言いました。酔っぱらいのおじさんはならばうちに来いと男の子を抱えて自分の家に向かうのでした。
おじさんのうちにはおばさんがフライパンを構えて待ち構えていましたが、男の子を見るとどうしたのだとおじさんを殴りながら問い詰めました。おじさんは男の子がごみだめで寝てようとしたところを連れてきたというとおばさんは男の子を見てきれいにしないとダメでしょうと無理やり水で丸洗いしました。
そうして水で丸洗いされてすっかり冷え切った男の子に温かいスープを食べさせるのでした。
次の朝、酔いがさめたおじさんは自分が男の子を拾ってきたのにびっくりしてから、おばさんと相談してうちの子になりなさいといいました。
男の子は喜んでおじさんとおばさんの子供になりました。
おじさんとおばさんは男の子がうちの子になったのだからあいさつ回りをしないといけないなといろいろなところにあいさつ回りをするのでした。
街に出ると旅の商人さんがおはようとあいさつをしてきます。男の子はおはようと返すと昨日の酒は美味しくて寒い夜には最高だったとお礼を言ってきました。それを聞いておじさんが飲みたそうな顔をしていたのは内緒です。おばさんにはばればれでしたけど。
おじさんが行きつけの造り酒屋に行くとご隠居さんが昨日はありがとうとお礼を言ってきました。男の子は大したことをしていないよと言うとご隠居さんは困った人を手伝えるなんていい子だよとあめだまをくれました。ご隠居さんはおじさんにお酒はほどほどになと釘を刺しました。おじさんは困った顔をしていました。なぜならここのお酒は美味しいのです。
次に向かったのは町の療養所でした。男の子が何か病気を持っていないかというのを調べてもらうためです。療養所ではたくさんの酔っ払いとけが人であふれていました。まともな病人が少ないのは【わかち】の夜の後だからでしょう。家族と過ごすつもりで酒と共に過ごしてなにをしているのだとおばさんはおもっていました。おじさんはこれは我が身かと顔をそむけていました。
薬師さんは男の子を見るとたくさんのけが人や酔っ払いを放っておいて寄ってきました。おばさんは男の子が病気を持っていないか調べてほしいというと薬師さんはいの一番で男の子を調べました。
幸いにも男の子は元気そのものでした。薬師さんはおばさんに男の子は痩せているからもっと食べさせろと忠告しました。
そして薬師さんは昨日のぬいぐるみは娘がとても喜んでいたとお礼を言いました。おばさんはにまにまとしました。
最後に向かったのはお城でした。おじさんはお城に品物を納める鍛冶屋で男の子が自分の子になったのをお城に知らせるためでした。おばさんもお城に仕える洗濯女だったのでかつての仕事仲間とおしゃべりをしに行くのでした。
そこで見たのは縄に打たれて連れて行かれる女先生でした。
どうしたのかと聞くと女先生が金貨をもっているのがおかしいと金貸しがお城の兵隊さんに言ってので捕まったのだと言いました。男の子が僕が渡したお金だというとこのウソつきめと金貸しが殴りました。うそつきは牢屋に入れて行けと兵隊さんが男の子を捕まえました。
おじさんとおばさんはびっくりしていました。そこにお城の戦士様が通りかかりました。
戦士様はどうしたのだと男の子に聞きました。男の子は僕が戦士様からもらった金貨を女先生に渡したらうそつきだと捕まったと言いました。
戦士様は兵隊さんに対して男の子と女先生の話は本当だからと自由にするように言いました。兵隊さんは戦士様の言うことを聞いて二人を放しました。金貸しは逆に女先生を捕まえたことと男の子を殴ったことで捕まったのでした。
戦士様は女先生の借金がどうしてなのかと聞くと孤児院の食べさせるのに使ったと言いました。
戦士様はなんという事だとさけびました。
戦士様の叫びを聞いてお城のお殿様が顔を出しました。お殿様はどうしたのかと聞くと戦士様は昨日の夜に男の子に助けてもらって渡した金貨で女先生が捕まったことを言いました。そして男の子が薬をくれなければ戦士様がお姫様の薬を届けるのが間に合わなかったと正直に言いました。
お殿様はなるほどと頷くと男の子が娘と戦士の恩人であることを認めました。その恩人が捕まりかけたのは何たることかとお殿様は金貸しに怒りました。金貸しはへいこらと謝りました。そして女先生と男の子にごめんなさいをしました。お殿様は金貸しを許しました。
お殿様はお礼をしたいから中に入れと言いました。おじさんとおばさんは固まったままでした。
お城の中でお殿様は男の子にお礼を言ってたくさんのお土産を渡しました。
戦士様は男の子が孤児院のために自分の礼を惜しげもなく女先生に与えたことを言うとお殿様はあっぱれだと更にお土産を増やすのでした。おじさんもおばさんも女先生もお殿様がいるので固まったままでした。
更にお殿様は女先生に子供が困っているのに相談しないとは何事だと怒りました。お殿様は怒った後で戦士様に時々孤児院を見回って女先生が困ったことがないか聞くように命令しました。
戦士様はその命令を喜んで聞きました。
お殿様はおじさんとおばさんにこの子は素晴らしい子だから自分のこのように大事にしろと命令しました。おじさんもおばさんも元からそのつもりだったので何をあたりまえのことを言っているのだろうという顔をしながら固まってました。
お殿様からたくさんのたくさんのお土産をもらった男の子は荷車を借りてお土産と固まったままのおじさんとおばさんをもって家に帰るのでした。
おじさんとおばさんが固まったのが治ったのは家に帰ってからでした。
結局、昨日は【わかち】の夜らしいいいことできたのかなと男の子は思いました。なんか僕だけ色々な物をもらった気がすると頭を抱えました。
それを見ていたおばさんは笑っていました。
それを見ていたおじさんは笑っていました。
それを見ていた女先生は笑っていました。
それを見ていた戦士様は笑っていました。
なんで笑うのかと男の子は怒りました。誰もそのわけを教えてくれませんでした。
のちにその話を聞いたお殿様は大笑いしました。
孤児院は戦士様が毎日のように見回っているので困った子供がいなくなりました。
戦士様が子供たちと遊んでいるのでお城の仕事がはかどらなくてお殿様が怒ったのは笑い話です。
男の子はおじさんとおばさんの子供となって幸せに育っていきました。
お話にお付き合いいただきありがとうございます。
何を肴にするかな?