わかちのよるとどくがえる。
これを読む君達は【わかち】と言う風習を知っているだろうか?
【狭間】の国の北の地方に伝わる風習で冬のある日にお互いに色々な物を分かち合うという風習である。元々は食べ物を貧しい人と分かち合って自分は飢えと寒さを分かち合う風習なのだけど、その日には身近な人に食べ物や何かを送りあう日になって居る。
これはそんな【わかち】の日に分かち合う誰かがいない人のお話。
昔【狭間】の国の都には大金持ちのどくがえるが居ました。彼はとてもお金も持っていて王様も無視できないほどの権力も持っていましたけど見た目がとても醜くて誰も彼と共に居ようともしませんでした。勿論友達も恋人もいませんでしたので【わかち】の日に何かを分かち合おうとする者は誰もいないのでした。
どくがえるは一人ぼっちの自分をとても不幸に思って【わかち】の夜に幸せそうにしている誰も彼もを憎らしく思っているのです。その夜に高いお金を払って世界中の珍味と百年かけて醸したお酒をたらふく飲んだりしたりしたけれども難いと思う心は晴れる事はありませんでした。どくがえるに食べ物を運んでいる人達も分かち合う誰かがいるので食べ物と飲み物を置くとさっさと帰ってしまうのでした。
どくがえるは百の金貨を積み上げて用意した食べ物と酒を食べて飲んでも満足する事が無くて一人ぼっちで街をさまようのでした。
どくがえるが街を歩いていると道端に汚いぼろきれがあるのでした。よくよく見てみるとそれは小さな小さな子供でした。
どくがえるはこんな誰もが幸せそうにしている夜に一人ぼっちの汚い子供がいるのをとても不思議に思って話をして見ました。
「子供よ子供、こんな幸いな夜に何故に一人でいるのかね?」
子供はどくがえるを見ると答えました。
「ぼくには親が居なくて食べ物がない。誰かぼくと飢えを分かち合ってくれる者もいないからこのまま死んで幸せな誰かに不愉快な思いを分かち合おうと思っている。」
どくがえるは子供の答えを聞いて面白く思いました。こんな幸せな夜に自分よりも不幸せな者がいるなんて。
「子供よ子供、お前が死んで誰かが気付く時には【わかち】の夜が過ぎてしまうぞ。」
「ああっ!それは考えていなかった。」
どくがえるは思い切り笑いました。子供はとても傷ついた顔をして
「おじちゃん酷い!」
と詰りました。
どくがえるは子供相手に大人げないと思って謝りました。
「うむ、悪い、悪い。こんな幸いな夜に面白い事を考える子供よ。お前が気に入ったから飯でも食おう。」
謝りついでに共に飯を食おうと誘うのでした。子供もお腹が空いているので食べ物の誘惑に勝てずにその誘いに乗るのでした。この時点で子供は自分が不愉快な思いを分かち合おうという目論見が駄目になったのは気が付いていません。
子供はどくがえるについていき、どくがえるの屋敷に行くのです。どくがえるの屋敷には食べ物が山となって居て飲み物が池のようにいくつもあるのです。この日金貨を百枚使って用意した食べ物はどくがえる一人で食べれるわけがなく残されたままだったのです。子供は食べ物を貪るように食べるのでした。
どくがえるはたらふく食べていたので子供が食べている様子を面白い物を見るように見るのでした。子供が満足するのを見て
「あははははっ、子供よ。お前の目論見はダメになったぞ。これだけ食べたら今日死ねないだろう。」
「うわぁぁぁ!おじちゃん意地悪だ。」
子供は涙目でどくがえるを見ました。どくがえるはにやにやと人の悪そうな笑いを浮かべて
「だったら、お前も誰かにやり返すか?」
「えっ!」
「何処かの不幸を分かち合えなくて不満に思っている連中にこっちの幸せを振舞って不幸のわかちを邪魔してやるのよ。」
「それってひどくない?」
「いやいや、神様だっていうだろう。『ひとのいやがることはすすんでやりなさい。』と」
「なるほどおじさん頭いい!」
「はははははっ!おじさんは王様だって黙らせる事が出来るくらい力あるんだぞ。そのくらいの知恵は当たり前だ。」
なんか子供の教育に悪そうですけど気にしたら負けです。どこかにいる神様が彼等に正しい道を歩む機会を与え忘れたのが悪いのです。
どくがえるは子供を従えて、街のあちこちにいる不幸せを分かち合おうと企んでいる者達を探しました。街角のごみ捨て場では子供の弟妹分達が寒さに震えながら固まっていました。弟妹分達は食べ物がなくてお互いにかすかなぬくもりを分かち合っていたのです。どくがえるは小さな子供達を自分の屋敷に連れていき食べ物を与えたのです。そうして満腹した小さな子供達を暖かな暖炉のそばで眠らせるとどくがえるは子供を連れて街に出るのです。
「死の運命を邪魔するってたのしいね。」
「そうだな、チビ共には生きる苦しさを更に味わってもらおう。明日から色々勉強させてやれ!」
どう考えても終わっている二人でした。
裏町のうらぶれた長屋では子供に追い出された老婆が一人寂しい【わかち】の夜を過ごしてました。話を聞くと去年の【わかち】に家族と分かち合うための御馳走を食べる物がない子供の為にあげてしまったが為に家を追い出されたということなのです。これを聞いてどくがえるは老婆を屋敷に連れて帰ってたくさんの食べ物を分かち合ったのです。
「うむ、今の老婆の姿を見てその家族が嫌な思いをするだろう。」
「うん、お婆ちゃんの不幸な【わかち】を後から振舞ってあげるなんておじさん面白い!」
「ついでだから老婆を屋敷で雇うとしよう。」
誰かツッコミがいないのかと思ったら負けです。
酒場の片隅で男に振られた女性がいました。【わかち】の夜を一人で過ごすなんてとても寂しい女性だなと自分の事を棚に上げて思うどくがえるでした。話を聞くと付き合っていた男性が二股をかけていて女性は遊びだったのです。これで景気を付けてから相手の男性を叩きのめそうとしていたのです。相手の男性の身元を聞くとどくがえるの商売敵だったのでこれ幸いに相手の弱みを聞きました。女性は振られた哀しみを酒で紛らわせていたので酔っぱらった勢いで色々話すのです。
どくがえるは相手の男に仕返ししてあげると約束して屋敷に連れ込むのです。
「女性に対しては誠実にしないとだめなんだね。」
「イケメン死すべし。」
子供は教訓を得たのでした。
表通りの小さなお店では明かりが消えていました。中を覗いてみるとその店の一家が首をつろうとしていたのでした。子供は慌ててそれを止めるとどくがえるは話を聞きました。
一家の主の話を聞くと王様が急に税金を上げたので暮らしていけなくなって首をくくって楽になろうとしたのだと言いました。どくがえるはそんな話を聞いていないので誰がその話をしたのかと聞いてみるとお城の大臣の一人が言いだしたと答えがありました。他にこの税金を上げる話を聞いたのはいるかと聞くと表通りの店全部がそうだと主は言いました。これは面白い話を聞いたとどくがえるは他の店の店主の話を聞きたいと主に言って主は同じように税金が上がる辛さを持つ店に行きました。10の店を回っているうちに大臣が持っている店の商売敵だったのでなるほどと思いました。
10の店の人達を屋敷に連れ帰り食べ物を振舞いました。首をつって死体が腐って疫病になるのを防いで不幸の【わかち】を邪魔したと子供はにやにやしました。どくがえるは醜い自分を馬鹿にしている大臣が嫌いだったので嫌がらせが出来るとにやにやしました。
「おじさん、店の人達が首吊る不幸の【わかち】を邪魔して良かったね。」
「これから大臣に不幸を【わかち】あうのだよ。とても楽しみだ。」
「おじさん顔が悪くなっているよ。」
「元々悪いから気にしない。」
子供はツッコミを放棄しました。
町のはずれの神殿にて神官さんが一人でいました。
どくがえるは【わかち】の夜に一人いる神官さんを不思議に思って聞きました。
「神官さん、どうして幸いな夜に一人いるのかな?」
「どくがえるさま。【わかち】の夜なのに誰も不幸な誰かの事を考えていないのに悲しくなったのです。」
どくがえるは言いました。
「でも、神官さん不幸な誰かの為に思うだけなのか?」
神官さんは、はっ!としました。子供はにやにやしました。
「神官さんは不幸な【わかち】の邪魔をしないの?」
「子供よ子供、動かぬ者に酬いの無きを忘れてた。」
「神官さんも一緒にどう?不幸な【わかち】の邪魔するの。」
「ご一緒しましょう。」
神官さんも取り敢えず屋敷に連れて行って食べ物を振舞うのです。どくがえるの屋敷で神官さんは路傍の子供達がたくさん幸せそうに寝ているのを見て、家を追い出された老婆が子供達を見守っていているのをみて、失恋した女性が安全に保護されているのを見て、理不尽な税に悩んでいた店の人達が安堵しているのを見て感激するのでした。
「ああっ!神よ。幸いなる【わかち】はここにあったのか!」
その夜どくがえると子供はたくさんの不幸の【わかち】を邪魔をするのです。そして邪魔された人を屋敷に連れて帰る食べ物と飲み物を振舞うのです。金貨百枚分の食べ物はそれでもなくなりませんでした。
そして朝になって邪魔された人達は満足して帰りました。【わかち】の夜で一番不幸だったのは金貨百枚分も誰かに振舞ってしまったどくがえるだったのです。それでも、お礼の言葉を聞いて不幸だとも思いませんでした。
最も金貨の百枚位は夜に聞いた色々な話を元に商売敵だの大臣だのを潰したら元が取れて利益が出たのですけど・・・・・・・・・・
悪い商売敵とか大臣を潰したどくがえるは都の人達にすごい人だと偉い人だと褒め称えられました。路傍の子供達を抱えた事で良い人だとか神様のようだと言われました。
子供達はどくがえるの家来になって彼を盛り立てていきました。老婆はどくがえるの屋敷をいつも快適に整えるのでした。女の人は善い人を見つけて幸せな結婚をしました。店の人達は高い税金が無くなったのでどくがえるが来るといつも下にも置かない扱いをするのでした。神官さんはどくがえるを有徳の士であると声高らかに謳うのです。他の人達も感謝の言葉を切らすことなくどくがえるを尊敬するのです。
でも考えてみるとどくがえるは自分にとって都合の悪い人、気に食わない人を潰しただけなのです。誰もそれに気が付いていませんでした。
どくがえるはニヤリと笑って次の年も【わかち】の夜に可哀想な人に振舞い【わかち】あうのです。そこで得た色々な話でたっぷり儲けていくのでした。
そう、どくがえるは不幸な人と不幸と幸いを【わかち】あって、儲けの種を拾っていたのです。
お話にお付き合いいただきありがとうございます。
話を綴ったのでさて飲みますか。