お外は死の世界
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屍の山に、血の海に、ミチルは、孤島に生えた椰子の木ように、ぽつねんと立っている。
転がっている屍は、ミチルを殺してしまおうとした、悪い大人たちだ。赤と黒の布の中には、ちゃんとした、ひとの体が入っていた。血と臓物が詰まった、肉の袋だった。
みんな、みんな、食べられてしまった。
ミチルにひどいことをした大人たち。
チルチルにひどいことをしてきた大人たち。
ふと足元に目を落とすと、血だまりの中から、チルチルがミチルを見つめていた。砂糖細工のように甘く繊細な微笑を絶やさなかったチルチルが、今は、真っ赤に濡れた唇を耳にひきつけて、にんまりと笑っている。碧い眼は夜走獣のように燃え上がっていた。
(大丈夫だよ、ミチル。これからは、ずっと一緒だ)
こんなチルチルを、ミチルは知らない。知らない外の世界で、知らない悪い大人たちにひどいことをされて、チルチルさえ、知らないチルチルになってしまった。
ミチルは、言葉にならない絶望の叫びを上げた。裸足で駆けだす。血の足跡がミチルを追いかけてくる。チルチルは、影のようにミチルから離れない。
(幸せにおなり、ミチル。もしも、十八歳の誕生日を、君が一人で迎えてしまったら、その時は、約束通り迎えに行くよ。君を閉じ込めて、ずっと守ってあげる)
ミチルがどんなに叫んでも、チルチルの言葉はかき消されることがなかった。まるで、頭の中にチルチルがいて、囁きかけているように。
チルチルは、約束を守っている。ミチルも約束を守らなければならない。十八歳の誕生日が、すぐそこまで近づいていた。ひたひたと、血に濡れた足音を響かせて。