突然の申し出2
「コーヒー買ってくるけどいつものでいいか?」
「うん…」
途中のコンビニで樋口が車を止めた。はぁ…どうしようかなぁ… 今日はビジネスホテルに泊まることにして、ともかく一旦部屋に戻って着替えは用意しないといけないよね。手をぎゅっと握ってガッツポーズをした。不安はいっぱいだけどともかく家に帰らないといけない。がんばれ!大丈夫だ!!
「すみません、ありがとうございました」
声がしたかと思うと後部座席が開いてダンボールが後ろに乗せられた。何かに使うのかな?そんなことを考えていると運転席に戻った樋口は私にコーヒーを差し出した。
「ひなたちゃんって何で1人暮らしなの?」
「???」
「いや、だって実家だろ?両親は?」
「ああ、母は姉夫婦のところに行っています。父は…小さい頃亡くなりました」
「そっか…でもお母さんに今回のこと連絡しなくてもいいの?」
私が誰にも連絡しなかったことを不思議に思っているようだった。母に連絡しても入院中だし、姉に連絡すれば余計迷惑をかけるだけだ。姉には私の分まで母の面倒を見てもらいたい。
「母は…たぶんもう家には帰ってこないです」
そういうとコーヒーを一口飲んだ。猫舌の私にはまだ熱かったけど飲まずに入られなかったというのが正直なところだった。実は姉から何度も名古屋に来て一緒に暮らそうと言われていた。母はもうたぶん家には戻れない。私1人をここに置いておくのは心配なのだと…だが私は仕事を理由に断っていた。そう、今日は仕事を休ませてもらったけど明日は出勤しなければいけない。こんな状態で仕事できるのだろうか…
「あのさ…よかったらうちに居候しない?」
思いがけない樋口からの申し出だった。
樋口やあかり夫婦が勤めているK商事は全国に支店がある会社で、転勤者のために各支店で住宅を確保していた。たまたま転勤してきた人間が妻帯者がいなかったこともあり、樋口には2LDKの部屋が提供されていた。
「正直部屋が多すぎて和室がまるっきり空き部屋なんだよね。もしよかったらしばらくそこに居候しない?もちろん無理にとは言わないけど その方が安心だと思うし…」
ああ、そういうことか…私は自分の中で納得していた。この人はそんな感じじゃなさそうだったのに…2,3日お邪魔してその間に違う居候先を見つけよう。そして部屋を借りるようにしよう。
「それじゃあしばらくお世話になります」
「うん、それじゃあ着替えを取りに行こうか?」
私達は家へ向かい、後ろに積んだダンボールの中に着替えを入れると樋口の家へと向かった。