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私の秘密  作者: 響子
第2章
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私からの愛情


「どういうことだ?」

「私じゃ無理だよ」

「何が無理なんだ」

「私は祐輔の赤ちゃん 産んであげらなれないよ!」


手術の日には出なかった涙が溢れてきた。たぶん次妊娠したとしてもまたきっと産んであげられないだろう。私が妊娠するのだから祐輔には何ら異常はないはずだ。今からでも違う人と結婚すればきっと子供が望める。こんな疫病神みたいな女と一緒にいる必要はないのだ。私が一緒にいても彼に何もしてあげられない。

今まで平静を装っていたけど私の心はボロボロだった。もうそれを隠すことも、繕うことも私にはできない。あの時……強盗に襲われたあの夜、私は殺されていればよかったのだ。そしたらこんな苦しみなんて味あわなくてもすんだ。私とかかわったばかりに祐輔は私と結婚して子供も望めず、反対に病院代だけがかかる。そうだ、何で私はあの時強盗の頭を殴ったんだろう。首を絞め殺されておけば……



その夜 私達はたぶんはじめて離れて眠った。同じベッドの両端で……祐輔はいつものように私を抱っこしようとしてくれたのだが私がそれを拒否した。彼に背中を向けて声を殺して泣いた。心も体も寒かった。寒くて寂しくて……辛くて悲しくて……でもこれが私への罰ならそれを受けるのは私だけでいい。





しばらくは仕事もせずにぼーっとしている日々が続いた。毎日ちゃんと帰ってきて「ただいま」といって私を抱きしめてくれて…祐輔は何も変わらない。さっさと離婚届に判子くれたらいいのに……それとも私が出て行ったほうがいいのかな?といっても出て行く場所がない。すっかり体調も元に戻っていたが、もう何もする気力がなくなっていた。


「ひなた、明日から一泊で旅行に出かけないか?」


祐輔の突然の申し出だった。そういえば結婚前は温泉に行ったりしたこともあったけど、結婚後はどこにも行ったことがなかった。もしかしたらこれが離婚前旅行ってことになるのかもしれない。

行き先はあまり遠いところではなくて海の見える旅館だった。海を見るとやはり実家を思い出す。


「次の出張が決まったんだ。ドイツ……最低2年」


2年?確か月単位で出張があるって聞いたけど 年単位?私は夕食の海の幸を目の前にして箸が止まっていた。彼は手にしていたお猪口を飲み干すとテーブルの上に置いた。


「ひなた、俺とドイツに行かないか?」


私の頭の中は完全に停止した。私が?ドイツ???


「お前がドイツ語を話せないのはよく知っている。まあもちろん英語もさっぱりってのも知ってる。だけど……ドイツは先進医療が進んでいる。もしお前が望むならドイツで不妊治療をしてみたらどうかと思うんだ」


不妊治療……実は結婚してすぐ、私はみんなに内緒で大学病院で検査をしていた。以前見てもらったのは5年ほど前だったし、それから私の体も変化している可能性もあった。医療も日々進歩していて、もしかしたら……だがそこでの検査は芳しいものではなかった。だがドイツではどうなのだろう?もしかして妊娠が可能なのだろうか?

だが私は祐輔が言うように英語すら満足に話せない。話せないどころか何を言ってるのかすらわからないのだ。これでは絶対に祐輔の足手まといになるのはわかっている。


「誘ってくれて嬉しいけど 私、ドイツには行けない。できれば行く前に離婚してくれると助かる」

「――わかった。俺もドイツには行かない」

「はぁ?」


彼の突拍子もない言葉に私は自分の状況も吹っ飛ぶくらい驚いた。この人は何を言っているんだ?会社で転勤を断ればどうなるか、この人が一番よく知ってるはずだ。それに名古屋支店に転勤してきたのももともとこのプロジェクトに参加したからで、ドイツ行きは前から決まっていたはずだ。




――何でなの?何ですべてを捨てようとするの?


祐輔は私をあの事件の後 忙しい中有給を取り 上司から注意を受けてしまったことを私は知っている。もちろん祐輔本人は私がそのことを知ってるなんて思っていないだろう。村田……あかりの旦那が酔ってちょっと口を滑らせてしまったのだ。

それは祐輔の査定に響いていることは本人が一番知っているはずなのだ。あんなに仕事が好きで、一生懸命なのに……

私ははやり祐輔から離れるべきなのだろう。この人を地獄まで引きずってはいけない。

旅行から帰ると私は姉夫婦と相談して家を離れた。


  

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