初夏の悪夢1
7月ともなると窓を全開にしないと夜も寝苦しい。さすがに1階は防犯上すべて施錠していたが、2階はすべて全開だった。
ふと目が覚めた。どこからか虫の鳴き声がかすかに聞こえる。
何気なく寝返りを打とうとした時だった。いるはずのない人の気配を感じた。
今うちには私以外誰もいないはずなのに あきらかにこの部屋にもう1人、男がいる。そしてその男は私のベッドに近づいてきた。私が寝ているのかを確認しようとしているのだろうか?それならば寝たふりをするに限る。騒がなければそのまま家の中を物色して帰っていくだろう。残念だが母の預金通帳はすべて姉が持っていっているし、金目のものがあるとは思えない。そんなことを考えていた。だがその男は私の予想を反して私の着ていたパジャマに手を伸ばした。驚いてびくついた私が起きているのに気がついた男は私の首に手を伸ばした。
――苦しい…
首にある手を解こうともがくが、力が入らない。このままでは殺される…私は頭の上に手を伸ばし、目覚まし時計を手にした。
「うわっ…」
力いっぱい目覚まし時計を男に振るった。首の手がほどけ、私はベッドを転がるように降りた。暗闇の中、どこに何があってどちらが逃げ道なのか 男より私の方が知っている。怯んでいるこの時…今しかないのだ。恐怖で動かない足を奮い立たせて私は階段を落ちるように下りていった。そして裏口から外に出た。裏口は道路に面していて街灯がついている。男はすぐそこまで追いかけてきたが街灯で自分の顔を見られるのを嫌ったからか外まで追いかけてはこなかった。一斉に近所の犬たちが吠え出した。私は街灯の下に座り込んだ。助かった?助かったのだろうか?ここまで逃げてきた足はもう動かなくて家の中に戻ることが出来ない。私は勇気を出して裏口からそっと中の様子を伺った。そこはシーンとしていてさっきまでの騒動がウソのようだった。下駄箱の上に置いていた携帯を見つけると 私はそれをつかんでまた外にでた。