新しい生活に向かって
あれから3週間になろうとしていた。名古屋に帰ってきた私に仕事が大量に待っていた。ひとつひとつ処理していくが、また新しい仕事もやってくるわけで…眠ると言うより落ちるといったほうが正しいような生活だった。だけどそういう生活をしていれば樋口のことを考える余裕はない。あれでよかったんだ…そう思っていた。
「ひなちゃんって結婚とか興味ないの?」
事務のパートである高田がコーヒーを入れながら私に尋ねた。彼女は会社でも影の実力者…というか、要は義兄でも頭の上がらない存在だ。経理関係はすべて彼女が仕切っている。
「興味ないことはないですよ?やっぱりウエディングドレスとか着てみたいなーって思ったりもします」
「だよね?あのさ、ひなちゃんお見合いってしてみない?」
どうやら彼女の知り合いの努めている会社の息子さんがお嫁さんを探しているらしい。
「会ってみるだけでもどう?」
「いやぁ…私 女子力ないですからね。洗濯も掃除も炊事も嫌いですし…」
「大丈夫だって!そこはお手伝いさんがいるのよ」
「はぁ?お手伝いさん?そんないいところなんて無理です、無理無理」
「でもね、先方はぜひ会ってみたいって…」
「………高田さん、何かしましたね?」
「えっと…去年の社員旅行の写真を見せちゃった…かな?」
「高田さん!!」
なんて勝手なことをしてくれるんだ!はぁ…深い溜息をついた。実はそんな話は前にもあった。義兄の知り合いの弟さんではやり同じような仕事をしている人からお見合いをしないかと言われたのだ。機械関係の仕事は全体的に男性がまだまだ多く、私のようにプログラムから図面を描いたり はたまた配線をやったりする女性は少ない。
「だってひなちゃん 仕事なんでも出来るんだもの…お嫁さんにもらえば助かるわよね」
「そうでしょうね…」
それじゃあまるで私は作業員じゃないかと思ったが、それくらいしか能がないのも確かなのだ。あんまりうっとおしくなってきたらいっそのこと『女にしか興味がない』と言ってみようか?いや、そんなこと言ったら姉が倒れてしまうような気がする。
「ただいまー」
拓馬が学校から帰ってきた。彼は保育園を卒園し、小学1年生になっていた。姉はだいぶ楽になったかと思われたが、小学1年生の年度初めというのは 学校に慣れるのが彼らの勉強の一環という部分があってとにかく帰りが早い。午後1時くらいには帰ってくるのだ。
「たっくん、さっさと宿題しときなよ~ ママから怒られるからね」
「わかったー」
そしてしばらくすると彼の楽しみにしている人がやってくる。それは郵便配達の人である。通常郵便物はうちの場所は午後からしか配達しない。もちろん書留や速達などのものは別なのだが、家のものも会社のものもすべてこちらに持ってきてもらっている。それを種分けするのが彼の仕事だ。
彼のお目当てはDMのシールを剥がすこと、ぺりぺりと剥がれる感覚がどうやらお気に入りらしい。
「こんにちはー 宅急便です」
「はーい」
今日は郵便物だけじゃなくて宅配便も来る日のようだ。何も来ない時もあればこうやって色々来るときもある。
「ひーちゃん、これひーちゃんの荷物だよ」
そういって拓馬は私に箱を渡した。私に宅配?送り主の名前を見て私は言葉が出てこなかった。




