彼女の出会い(向井悦子side)
樋口とひなたの関係は最初は友人だったと思う。ちなみにひなたは誰とでも寝る女って思ってるかもしれないけど友人には絶対手を出さない。これは彼女のポリシーなのだ。その均衡が破れたのはあの事件、ひなたが強盗に襲われた事件だ。
あかりからその話を聞いて私はとても驚いた。また私に連絡が来たのが事件から5日くらい経っていたのも少し納得がいかなかった。
「本当はもっと早く連絡したかったけど 樋口係長が…」
「は?樋口さんがどうしたのよ」
「樋口係長が教えてくれなかったの」
どういうことなのだろう?何でひなたが強盗に襲われて樋口係長が出てくるの?その質問にあかりは詳しく説明してくれた。強盗に襲われたひなたはどうやら携帯のリダイヤルを押したらしくて その相手がたまたま樋口だったこと、樋口がひなたの状態を考えて誰にも話さず秘密にしていたこと、あかりはやっと樋口からそのことを聞き出したこと…
「じゃあ今 ひなたは入院してるの?」
「ううん、もう退院したみたい」
「ってことは 家にいるの?」
「……樋口係長の家にいるらしいの」
「…はぁ?何で樋口さんの家なの?」
そりゃ自分の家に戻りたくないのもわかる。何でうちに連絡しないの?親友じゃない?だが次の瞬間それも納得してしまった。ひなたは私達に迷惑をかけたくなかったのだ。あの子はいつもそう、親友だからこそ迷惑をかけたくないという。例の男に捨てられた時もなかなか教えてくれなくて、やっと聞き出せたような状態だった。今回も私やあかりに迷惑をかけたくないから連絡しないのだろう。本当にバカだ。親友だからこそ力になりたいのに…
「樋口係長って社宅が家族用の所に入ってるから使ってない部屋があって、そこにひなたがいるらしいの。でも今は精神状態が安定してないらしくて…」
「じゃあ私達は会えないじゃない!」
私はあかりに樋口との連絡をつけてもらうように頼んだ。樋口がどういうつもりでひなたを家に置いているのかわからない。もしひなたをこれ以上傷つける人間がいるとしたら私は絶対に許せないだろう。そして土曜日の昼、私達はファミレスで会うことになった。
「はじめまして、樋口です」
「どうも…向井です」
ひなたやあかりから聞いていただけで本人を見るのは初めてだった。特徴と言えば結構目力がある人だなと思った。たぶんこの目で睨まれたら普通の女の子なら怖くて泣きそうになるかもしれない。でも全体的に仕事の出来そうな上司タイプだった。
「私が呼び出した理由はひなたのことです。ひなたが樋口さんの家にいることはあかりから聞いて知っています。今ひなたはどうしていますか?」
直球な質問に樋口は少し驚いたようだったが、ちゃんと答えてくれた。ひなたは精神的に不安定になっていて夜もほとんど眠れていないこと、仕事はたぶんこのままでは続けられないだろうということ…
「ひなたは入院させなくていいんですか?」
「本人はどうしても入院はしたくないと言っています」
「それじゃあほったらかしにしておくんですか!」
「そんなことは言っていません。現に今うちには村田君夫婦が彼女と一緒にいます」
どうやらひなたを一人にはしたくなかったらしい。私は少しだけホッとした。
「自分のところでしばらくは面倒見ようと思っています。向井さんや村田さんには時間があったらひなたちゃんに会いにきてくれると喜ぶと思います。いえ、会いに来てやってください。きっと少しは気分も晴れると思います」
そういいながら樋口は私に頭を下げた。私は了解した旨を伝えると今度は樋口が私に尋ねた。
「本来ならひなたちゃんのご家族に連絡して…と思ったのですが、どうしても彼女が連絡はしなくていい、したくないと言うんです。僕としてはどうしたものかと思っているのですが、向井さんは何かご存知ですか?」
「私も詳しくは知らないのですけど…ひなたはあまり親とは上手くいってなかったんです」
「上手くいってない…とは?」
「ぶっちゃけ 仲がよくないってことですかね。こんなことを私が言うのもなんですけど嫌っていました。憎んでいた…っていってもいいかもしれません」
「そうですか…」
「だからひなたが連絡したくないのはよくわかります。彼女が連絡したくないって言うのであれば連絡はしないであげてください」
「わかりました」
私は樋口は真面目でいい人なのだと思った。ひなたのために色々動いてくれようとしている。今は樋口にひなたを任せるしかないのかもしれない。
「ひなたのことは 樋口さんにお任せします。彼女のこと、よろしくお願いします。何かあったら遠慮なく言ってください。ひなたは気を使いすぎる傾向にあるのでそんなところは強引に押し付けてもらってかまいません。ただ…私はひなたの味方です。あなたがひなたを傷つけるようなことをするなら 私はあなたを許しません」




